この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

破産手続が開始されたとしても、当然に破産者の契約関係が終了するわけではありません。したがって、破産管財人が、破産者の契約関係を処理して清算しなければいけません。どのように処理をするかは、契約類型や事案によって異なります。
ただし、当事者の一方が破産することによって契約が当然に終了するものもあります。
破産した場合の契約関係
我々の社会では、個人(自然人)であっても法人であっても、生活や事業運営のために、さまざまな契約を締結しているのが通常です。
特に法人の場合、事業の取引先との契約はもちろん、従業員との雇用契約、事業所の賃貸借契約、電気・ガス・水道・電話・インターネットなどを利用するための契約、リース契約など非常に多くの契約関係が生じています。
法人が破産した場合、破産者である法人・会社は最終的に消滅します。したがって、破産手続においては、破産者の契約関係についても清算しておく必要があります。
とは言え、破産手続が開始されたからといって、破産者の契約関係がすべて当然に終了するわけでありません。
最終的には清算されるべきではありますが、破産手続が開始されても契約は存続するのが原則です。
これらの契約関係は、破産手続において、破産管財人が、契約に基づく債務を履行または債権を行使することによって契約の目的を達成して終了させるか、あるいは、契約を解除して終了させるという処理をすることになります。
もちろん、どのような処理を行うべきかは、債権債務の履行の状況や契約類型などによって異なります。したがって、事案によってその処理の仕方は当然違ってくるのです。
なお、個人破産の場合には、住居の賃貸借契約や水道光熱費、従業員として働いている場合の雇用契約など生活に関わる契約は、破産をしても継続できます。
したがって、契約関係の清算処理が問題となるのは、主として、法人破産または個人事業者の破産の場合です。個人非事業者の破産の場合は、特別な場合に限られます。
破産手続における片務契約の処理
片務契約とは、当事者の一方のみが債務を負うという契約です。例えば、贈与、消費貸借契約などがこれに当たります。
片務契約における債務者が破産手続を開始した場合、相手方である債権者の債権は破産債権になります。したがって、破産財団からの配当を受けることによって債権を満足させることになります。
片務契約の債権者が破産手続を開始した場合には、相手方である債務者に対する債権は破産財団に属する財産として扱われ、破産管財人がその債権を回収することになります。
破産手続における双務契約の処理
双務契約とは、当事者が相互に対価としての意義を有する債務を負担する契約のことをいいます。典型的なものは、売買契約です。
破産者が債務の履行をすでに完了しており、相手方も債務の履行を完了している場合には、すでに契約は目的を達しているので、清算は不要です(ただし、後に破産管財人によって否認権が権行使されることはあり得ます。)。
破産者は債務の履行をすでに完了しているものの、相手方の債務の履行は未了であるという場合には、相手方に対する債権は破産財団に属する財産となり、破産管財人が相手方に対して債務の履行を求めることになります。
破産者の債務の履行は未了であるものの、相手方はすでに債務の履行を完了している場合は、相手方の債権は破産債権として扱われることになります。
問題となるのは、破産者と相手方の双方ともに、破産手続開始の時点でまだ債務の履行が未了であるという場合です。「双方未履行双務契約」と呼ばれる問題です。
この双方未履行双務契約については、破産管財人が、契約を解除するかまたは破産者の債務を履行して相手方に対して債務の履行を請求するかのいずれかを選択できます(破産法53条1項)。
契約関係が当然に終了する場合
債務者について破産手続が開始されたからといって、その債務者(破産者)の契約関係が当然に終了するわけではないのが原則です。そのため、契約の清算処理が必要となってきます。
もっとも、契約類型によっては、例外的に、当事者の一方が破産手続を開始したことによって、当然に契約関係が終了するものもあります。
例えば、委任契約は、当事者の一方(委任者・受任者のいずれか)が破産手続開始決定を受けた場合、契約が当然に終了します(民法653条2号)。
また、交互計算についても、当事者の一方について破産手続が開始された場合には終了するとされています(破産法59条1項)。
これらの契約の場合、破産手続の開始によって契約関係が当然に終了するので、契約関係の清算は必要ありません。
なお、当然に契約が終了するとまではいかないものの、当事者の一方が破産手続開始決定を受けた場合に他方当事者に契約解除権が発生する契約類型もあります。
個々の契約類型ごとの処理の違い
基本的な契約関係の処理は前記のとおりですが、実際には、個々の契約類型ごとに異なってきます。
破産法では、以下の契約類型について、契約関係の処理に関する規定を設けています。
- 継続的給付目的双務契約(破産法55条)
- 賃貸借契約(破産法56条)
- 委任契約(破産法57条)
- 市場の相場がある商品の取引に係る契約(破産法58条)
- 交互計算(破産法59条)。
- 為替手形の引受け又は支払等(破産法60条)
- 夫婦財産関係における管理者の変更等(破産法61条)
しかし、これらだけが異なる処理をされるわけではありません。破産法に特別の規定がない契約類型であっても、それぞれに処理の仕方が異なってきます。
法人破産・会社破産の手続においてよく問題となる契約類型のうちで、破産法に特別の規定がない契約としては、以下のものがあります。
- 売買契約
- 雇用契約
- 請負契約
- リース契約
- 保険契約
さらに言うと、契約類型が同じだからと言って、必ずしも処理が同じになるとは限りません。個々の事案における契約の内容、債権債務の履行状況などによっても、処理の方法は変わってきます。
したがって、結局は、事案ごとに契約関係の処理の仕方を考える必要があるのです。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。