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破産手続が開始すると双務契約はどのように処理されるのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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破産者が一方当事者となっている双務契約は、破産手続が開始されても、当然には終了しないのが原則です。そのため、その双務契約を破産手続においてどのように処理するのかが問題となります。

当事者の一方が債務の履行を完了していない場合と、当事者双方が債務の履行を完了していない場合とで、その処理が異なってきます。また、双務契約のうちでも継続的給付を目的とする双務契約は、通常の双務契約と異なる処理がなされることがあります。

破産手続における双務契約全般の処理

双務契約とは、契約当事者の双方が互いに対価的関係にある債務を負っている契約のことをいいます。例えば、典型的なものは売買契約です。

双務契約は、契約当事者が互いに対価的な債務を負っています。当事者双方が債務の履行を完了すれば、その契約は目的を達して終了することになります。

当事者の一方について破産手続が開始された場合、その時点までに双務契約の当事者双方が互いに債務の履行を完了して契約が終了しているのであれば、否認権行使などが生じる場合を除いて、破産手続において問題は生じないのが通常です。

もっとも、破産手続開始時において、双務契約の当事者の一方がまだ履行を完了していない場合や、または、当事者の双方ともに履行を完了していない場合もあるでしょう。

破産手続が開始しても、破産者を当事者とする契約が当然に終了するわけではありません(例外的に当然に終了する契約類型も存在します。)。

そのため、破産管財人は、破産手続において、その双務契約を清算する必要があります。

ただし、双務契約の当事者の一方が履行を完了していない場合と当事者の双方ともに履行を完了していない場合とでは、破産手続における処理の仕方が異なります。

また、双務契約のうちでも、電気やガスの供給契約のような継続的給付を目的とする双務契約については、通常の双務契約とは異なる取扱いがなされています。

当事者の一方のみが未履行の場合の双務契約の処理

前記のとおり、双務契約は、契約当事者が互いに対価的な債務を負っている契約です。

破産手続開始時の状況によっては、当事者の一方は履行を完了しているものの、他方当事者はまだ履行を完了していないということもあるでしょう。

この場合、契約の類型や内容によって具体的な処理は異なりますが、一般的には、以下のような処理となります。

まず、破産者が債務の履行を完了しており、相手方が未履行であるという場合、破産管財人は、相手方に対して契約に基づく債務の履行を請求することになります。

相手方に債務不履行が生じている場合であれば、履行請求ではなく、債務不履行に基づく契約解除や損害賠償請求をすることもあり得ます。

他方、相手方がすでに債務の履行を完了しているが、破産者の方が未履行である場合には、相手方が、破産管財人に対して債務の履行を求めることになります。

この場合の相手方の債権は、その債権の内容等に応じて、破産債権または財団債権として扱われることになります。

当事者の双方が未履行の双務契約の処理

破産法 第53条

  • 第1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
  • 第2項 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
  • 第3項 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。

破産手続開始時に、破産者と相手方の双方ともに、まだ債務の履行を完了していない双務契約(双方未履行双務契約)がある場合、破産管財人は、契約の解除をするか、または、破産者の債務の履行をして相手方に履行を請求できます(破産法53条1項)。

契約の解除と履行の請求のいずれを選択するかは、破産管財人の裁量に委ねられています。破産管財人は、破産財団にとってプラスになるか否かを判断して、有利な方を選択できるのです。

ただし、双方未履行双務契約であっても「契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合」には、解除できないと解されています(最三小判平成12年2月29日)。

この場合には、破産管財人は履行請求をすることになります。

相手方は、この破産管財人の選択を待つことになります。とはいえ、破産管財人がどちらを選択するのかいつまでも分からないと、相手方は、その間、不安定な地位に置かれてしまいます。

そのため、相手方は、破産管財人に対して、相当の期間を定めた上で、契約を解除するのか履行請求をするのかについて、その期間内に確答するよう催告することができるとされています(破産法53条2項)。

この催告に対し、破産管財人が期間内に確答をしなかった場合には、当該双務契約は解除されたものとみなされることになります。

破産管財人が契約解除を選択した場合

破産法 第54条

  • 第1項 前条第1項又は第2項の規定により契約の解除があった場合には、相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができる。
  • 第2項 前項に規定する場合において、相手方は、破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について財団債権者としてその権利を行使することができる。

破産管財人が双方未履行双務契約を解除した場合、相手方は、契約解除によって損害が生じたときは、破産債権者として損害賠償債権を行使することができます(破産法54条1項)。

また、相手方は、双務契約により破産者が受けた反対給付が破産財団中に現存している場合には、破産管財人に対してその返還を請求することができます。

破産者が受けた反対給付が破産財団中に現存していない場合には、財団債権者としてその価額の支払いを求めることができます(破産法54条2項)。

破産管財人が履行請求を選択した場合

破産管財人は、破産者の債務を履行して、相手方に対して履行を請求することができます。

ただし、履行請求を選択する場合は、価額が100万円以下の場合を除いて、裁判所の許可が必要となります(破産法78条2項9号、3項1号、破産規則25条)。

破産管財人が履行請求を選択した場合、相手方が破産法人・破産会社に対して有する債権は、財団債権として扱われることになります(破産法148条1項7号)。

継続的給付を目的とする双務契約の処理

破産法 第55条

  • 第1項 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。
  • 第2項 前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。
  • 第3項 前二項の規定は、労働契約には、適用しない。

双務契約のうちでも、継続的給付を目的とする双務契約は、破産管財人の管財業務遂行に必要となる場合があります。例えば、ガス・水道・電気・電話などの契約です。

そのため、破産者に対して継続的給付義務を負う相手方は、破産管財人が契約の履行を請求した場合、破産手続開始の申立て前の給付に対する弁済がなかったことを理由として破産管財人からの請求を拒むことはできないとされています(破産法55条1項)。

また、破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした継続的給付についての相手方の請求権は、財団債権となります(破産法55条2項)。

なお、継続的契約であっても、労働契約はここでいう継続的給付を目的とする双務契約に該当しません(破産法55条3項)。また、賃貸借契約も継続的給付を目的とする双務契約に該当しないと解されています。

参考書籍

破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。

破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。

条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。

破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。

倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦  出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。 

倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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