この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

破産手続開始時においてすでに破産者を当事者とする訴訟が係属している場合、それが破産財団に関する訴訟であれば、訴訟手続は中断されます。破産管財人は、破産債権に関するものを除いて、この中断した訴訟を受継できます(破産法44条)。
破産手続開始後に破産債権者が破産債権回収のために訴訟を提起することは禁止されますが(破産法100条1項)、それ以外の訴訟提起は禁止されません。
破産手続開始後に提起された訴えについては、破産財団に関するものであれば、破産管財人が当事者として訴訟を追行していくことになります(破産法80条)。
破産手続と他の手続
破産法 第44条
- 第1項 破産手続開始の決定があったときは、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。
- 第2項 破産管財人は、前項の規定により中断した訴訟手続のうち破産債権に関しないものを受け継ぐことができる。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
- 第3項 前項の場合においては、相手方の破産者に対する訴訟費用請求権は、財団債権とする。
- 第4項 破産手続が終了したときは、破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は、中断する。
- 第5項 破産者は、前項の規定により中断した訴訟手続を受け継がなければならない。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
- 第6項 第1項の規定により中断した訴訟手続について第2項の規定による受継があるまでに破産手続が終了したときは、破産者は、当然訴訟手続を受継する。
破産手続と訴訟手続は、いずれも裁判所において行われる裁判手続ですが、両者はまったく別個の手続です。
実際、破産手続を行う裁判官・裁判体と訴訟手続を行う裁判官・裁判体は区別されていますし、同じ裁判手続であるからといって、裁判所内で連動して扱われているわけでもありません。
したがって、ある債務者について破産手続が開始されたからといって、その債務者に関して行われている訴訟手続が破産手続内に当然に取り込まれるというわけではなく、それぞれはあくまで別個の手続として進行していくのが原則です。
とはいえ、破産手続が開始しているにもかかわらず、破産者についての訴訟がすべて破産手続とは完全に無関係に進行していくとすると、破産財団を減少させてしまったり、訴訟当事者以外の債権者や利害関係人との間で不公平を生じてしまうおそれがあります。
そこで、破産法では、破産手続が開始された場合に、係属中の訴訟や破産手続開始後の訴訟提起に対する一定の制限が設けられています。
破産手続開始前から係属している訴訟
ある法人や会社等について破産手続が開始されている時点で、すでにぞれ以前から、その破産者について訴訟が提起されていることは少なくありません。
破産者が原告となって誰かに対して訴訟を提起している場合もあるでしょうし、逆に、誰かが破産者を被告として、破産者に対して訴訟を提起している場合もあるでしょう。
しかし、これらの訴訟が、破産手続外において、破産手続を無関係に進行してしまうと、破産裁判所や破産管財人が関知しない財産が発生してしまったり、または、破産裁判所や破産管財人が関知しないうちに破産者の財産が減少してしまうおそれがあります。
そこで、破産法では、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続は中断し、破産管財人は、その中断した手続のうち、破産債権に関するものを除いて、訴訟手続を受継できるとされています(破産法44条1項、2項。)。
この中断される「破産財団に関する訴訟手続」には、破産財団に属する財産に直接関連するものだけではなく、破産債権に関する訴訟や財団債権に関する訴訟も含まれると解されています。
破産財団に関する訴訟のうちで破産債権に関するもの以外については、破産管財人が、破産者に代わって訴訟を受継することができ、受継した場合、破産管財人が当事者として訴訟を追行していくことになります。
他方、破産債権に関する訴訟も中断しますが、破産管財人によって受継されません。
破産債権については、破産手続外における訴訟ではなく、破産手続内において確定されるからです(例外的に、破産債権確定の手続において異議などのある破産債権に関して破産手続開始当時訴訟が係属する場合には、破産管財人以外の者が訴訟当事者となることがあります。)。
なお、破産財団に関する訴訟以外の訴訟については、破産手続の開始によっても中断されず、破産手続とは別個に、破産者が当事者として訴訟が進んでいくことになります。
破産手続開始後の訴訟提起
破産法 第80条
- 破産財団に関する訴えについては、破産管財人を原告又は被告とする。
破産手続開始前に破産者に関して訴訟が提起されている場合だけでなく、破産手続開始後に、破産者に関する訴訟が提起されることもあります。
破産手続開始後に提起される訴訟についても、破産手続開始前に提起されていた訴訟と同じことが言えます。
つまり、いかに破産手続と訴訟手続が別個独立の手続であるとはいえ、自由に訴訟を提起できるとすると、破産財団を毀損するなど破産手続の進行を阻害するおそれがあるということです。
したがって、破産手続開始後の訴訟提起についても、破産法上、一定の規制がなされています。
破産者を被告とする訴えの提起
破産手続開始後、破産債権者による個別の権利行使は原則として禁止されます(破産法100条1項)。
したがって、破産債権者は、破産債権について、破産者に対して訴えを提起することができなくなります。破産債権については、破産手続内において確定されるべきだからです。
もっとも、破産手続開始後であっても、財団債権者による財産債権回収のための訴え提起や、破産者が保有する財産の真の所有者による取戻権行使のための訴え提起などは許されています。
また、破産債権者であっても、破産債権の行使に該当しない訴えの提起は可能です。
ただし、破産者に対する訴えの提起が可能である場合であっても、訴えの相手方は破産者とは限りません。
前記破産法80条で定めるとおり、「破産財団に関する訴え」の相手方は、破産者ではなく破産管財人であるとされています。
この破産財団に関する訴えには、財団債権に関する訴えも含まれると解されています。
したがって、破産手続開始後に訴えを提起できるとしても、破産財団・財産債権に関する訴えの場合の被告は破産管財人としなければならず、それ以外の訴えの場合は破産者としなければなりません。
ただし、例外的に、破産債権確定の手続において異議等のある破産債権に関して破産手続開始当時訴訟が係属する場合には、破産管財人以外の者が訴訟当事者となることがあります。
破産管財人による訴えの提起
破産手続開始によって、破産者は財産の管理処分権を失い、また、破産手続における清算処理に必要なものを除いて法人格を失うとされています。
したがって、破産手続開始後に、破産者が原告となって訴えを提起することはできません。
もっとも、破産管財人が訴えを提起することはあります。典型的なものは破産財団に属する財産を回収するための訴えですが、否認権行使の訴えや役員責任追及のための訴えなどもあります。
これらの場合、破産管財人自身が原告となって訴えを提起し、原告として訴訟を追行していくことになります。
参考書籍
破産法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、破産法の参考書籍を紹介します。
破産法・民事再生法(第5版)
著者:伊藤 眞 出版:有斐閣
倒産法研究の第一人者による定番の体系書。民事再生法と一体になっているので分量は多めですが、読みやすいです。難易度は高めですが、第一人者の著書であるため、信頼性は保証されています。
条解破産法(第3版)
著者:伊藤 眞ほか 出版:弘文堂
条文ごとに詳細な解説を掲載する逐条の注釈書。破産法の辞書と言ってよいでしょう。破産法の条文解釈に関して知りたいことは、ほとんどカバーできます。持っていて損はありません。金額面を除けば、誰にでもおすすめです。
破産実務Q&A220問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
破産実務を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、破産実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
倒産法講義
著者:野村剛司ほか 出版:日本加除出版
こちらも法学大学院生や司法試験・予備試験受験生向けに書かれた教科書。著者が実務家であるため、実務的な観点が多く含まれていて、手続をイメージしやすいメリットがあります。
倒産処理法入門(第6版)
著者:山本和彦 出版:有斐閣
倒産法の入門書。「入門」ではありますが、ボリュームはそれなりにあります。倒産法全体を把握するために利用する本です。
倒産法(第3版)伊藤真試験対策講座15
著者:伊藤塾 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。