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利息制限法違反の充当指定特約を無効とした最高裁判所第三小法廷昭和43年10月29日判決とは?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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利息制限法の制限超過利息に関する当事者間での充当指定の特約は無効であると判断した判例として,最高裁判所第三小法廷昭和43年10月29日判決があります。

利息制限法の制限超過部分の充当指定特約

最高裁判所大法廷昭和39年11月18日判決は,利息制限法所定の制限利率を超える利息を支払った場合、その制限超過部分は、たとえ債務者自身が利息や遅延損害金への充当を指定していたとしても、元本に充当されるとの判断を下しました。

もっとも,この判例の判断は、あくまで債務者自身が弁済充当指定をした場合についての判断であり、当事者間で弁済の充当指定の順序について特約があった場合でも制限超過部分が元本に充当されるのかについてまでは判断されていませんでした。

そのため、貸主と借主との間で、弁済をした場合に、利息遅延損害金・元本のどれに充当されるのかの順序を指定する特約があった場合にどのように取り扱うのかは、上記判例の後も問題になっていたのです。

弁済の充当の指定とは、支払われた金銭を、元本・利息・遅延損害金・費用などのどれに支払ったことにするかの問題です。

この弁済充当指定の順序は、当事者間であらかじめ決めておくことが可能です。これを弁済充当指定の合意(民法490条)といいます。

貸金業者との金銭消費貸借契約では、費用→遅延損害金→利息→元本の順序で弁済を充当する旨の指定特約が付されているのが通常です。

しかし、昭和43年当時、貸金業者が設定する利息や遅延損害金の利率は、利息制限法所定の制限利率をはるかに上回る利率でした。

そのため、充当指定特約が常に有効であるとすると、制限超過利息が元本ではなく費用・遅延損害金・利息に充当されることになり、前記の最大判昭和39年11月18日が意味を失ってしまうおそれがあります。

そこで、利息制限法違反の取引における弁済充当指定特約の効力についての判断を示したのが、このページの以下で解説する最高裁判所第三小法廷昭和43年10月29日判決(以下「最三小判昭和43年10月29日」といいます。)です。

最三小判昭和43年10月29日の判断

最三小判昭和43年10月29日は、以下のとおり判示しています(一部抜粋)。

金銭を目的とする消費貸借上の債務者が,利息制限法所定の制限をこえる利息,損害金を任意に支払つたときは,右制限をこえる部分は強行法規である同法1条,4条の各1項によつて無効とされ,その部分の債務は存在しないのであるから,その部分に対する支払は弁済の効力を生じないものである。したがつて,本件のように数口の貸金債権が存在し,その弁済の充当の順序について当事者間に特約が存在する場合においては,右債務の存在しない制限超過部分に対する充当の合意は無意味で,その部分の合意は存在しないことになるから,右超過部分に対する弁済は,充当の特約の趣旨に従つて次順位に充当されるべき債務であつて有効に存在するものに充当されることになるものと解すべきである。右のような場合における充当の関係は,法律問題に属するから,これについて所論のように当事者から特別の申立ないし抗弁が提出されることを要するものではないと解するのが相当である。

本件において,原審は,当事者の主張に基づき,本件貸金債権を含む上告人の被上告人に対する三口の貸金債権の約定利息の利率はすべて利息制限法所定の制限をこえていること,被上告人から上告人に対する弁済金の支払はすべて任意になされたこと,上告人と被上告人との間には弁済の充当の順序について原判示の特約が存在すること,を確定したのであるから,被上告人の特別な主張をまつまでもなく,被上告人から支払われた弁済金については,右特約の趣旨に従つて,利息制限法所定の範囲内で,順次,利息,遅延損害金の弁済に充当されたうえ,その余は当該債務の元本に充当されたものとした原判決の判断は正当である。したがつて,原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。

引用元:裁判所サイト

制限超過部分に対する充当合意に関する判断

前記のとおり,弁済充当の順序についての特約があるとはいえ、約定の利息や遅延損害金に弁済金が充当されるとしてしまうと、制限超過部分の元本充当を認めて消費者保護を図ろうとした最大判昭和39年11月18日の趣旨を損なうことになりかねません。

そこで,最三小判昭和43年10月29日は、以下のように判示しています。

最三小判昭和43年10月29日の判断の枠組み
  1. 利息制限法の制限利率を超える制限超過部分は無効であり、制限超過部分の債務は存在せず、制限超過部分への支払いは弁済の効力を生じない(最大判昭和39年11月18日と同じ解釈)
  2. 制限超過部分の債務は存在しない以上、制限超過部分に対する充当の合意も無意味であり、その部分の充当の合意は存在しない
  3. 制限超過部分に対する弁済は、充当の特約の趣旨に従って次順位に充当されるべき債務であって有効に存在するものに充当される

最三小判昭和43年10月29日は、制限超過部分に対する弁済充当指定の合意は存在しないから、制限超過部分に対する弁済は、充当合意から存在しない無効な部分を除いた順序で充当されることになると判断しました。

つまり,制限超過部分に関する充当指定は無視して、他の有効な充当指定部分だけ考えればよいとしたのです。

例えば,利息・遅延損害金・元本の順序で充当する特約があった場合に、10万円の利息と100万円の元本が残っていた事例において、利息制限法に基づいて引き直し計算をした結果、利息は残っておらず、元本100万円だけが残っていることが判明したとします。

この事例において、債務者が5万円を弁済した場合、制限超過部分に対する充当の合意は存在しないため、弁済金は約定の利息ではなく、引き直し計算した後の元本に全額充当されます。

当事者の主張・抗弁の要否に関する判断

また、最三小判昭和43年10月29日は、制限超過部分の充当関係は法律問題であるので,当事者からの主張立証がなくても,裁判所が判断するべき事柄であることも明らかにしました。

そのため、当事者(特に債務者側)が引き直し計算(元本充当計算)をしないままで請求や主張をしていたとしても、裁判所は、それとは関わりなく,引き直し計算をした上で判断できます。

最三小判昭和43年10月29日が実務に与えた影響

前記のとおり、最三小判昭和43年10月29日は、当事者間で弁済充当の順序について合意があったとしても,利息制限法所定の制限利率に基づいて元本充当計算をしていくことを明らかにしました。

現在では,引き直し計算を行う際,弁済充当の合意はほとんど気にしないで計算を行っていますが、その根拠はこの最三小判昭和43年10月29日にあります。

前記最大判昭和39年11月18日とこの最三小判昭和43年10月29日により、現在行われている引き直し計算の基本的な形が出来上がったといえるでしょう。それだけに、実務に与えた影響は大きいものがあります。

ただし,過払い金返還請求まで認められるのは,この判決の3週間後になされた最大判昭和43年11月13日まで待つことになります。

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