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国会による「立法」の意味とは?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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日本国憲法41条は、国会を国権の最高機関であるとともに「唯一の立法機関」であるとしています。この「立法」とは、一般的抽象的法規範を制定することを意味すると解されています。

国会の「唯一の立法機関性」

日本国憲法 第41条

  • 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

日本国憲法では,その統治機構において,三権分立を担う国家機関として,内閣・裁判所のほかに「国会」を設け,この国会に「唯一の立法機関」としての地位を与えられています(日本国憲法41条)。

この国会の唯一の立法機関性には,国会のみが立法権を独占するという国会中心立法の原則と,国会は他の機関の関与なく単独で立法できるという国会単独立法の原則が含まれていると解されています。

もっとも,前提として,そもそも,ここでいう「立法」とは何を意味するのか,ということを考えなければなりません。

「法律」の意味

一般的に「立法」とは,「法律」を制定する国家作用のことをいいます。しかし,ここでさらに問題となるのは,ここでいう「法律」とは何かということです。

これには,2つの側面からの意味が含まれています。すなわち,形式的な意味と実質的な意味があります。

形式的意味の法律

ひとつは,形式面からみた法律の定義です。憲法,条約,条例,政令などと形式的にどこが違うのかという問題です。

法律は,国会によって制定されます。つまり,形式的には,法律とは国会によって制定される法規範であるといえます。これを,「形式的意味の法律」といいます。

実質的意味の法律

もう1つは,内容面からみた法律の定義です。法律と呼ぶに値する本質をもった法規範とは何か,という問題です。

単に国会によって制定されれば何でも法律といえると考えるのではなく,法律は,特定の内容を持ったものでなければならないということです。

このある特定の内容を持った法律のことを,「実質的意味の法律」といいます。

日本国憲法41条における「法律」

上記のとおり,立法という場合の「法律」には,形式的意味と実質的意味があります。日本国憲法は,国会を唯一の立法機関としているのですから,法律が,国会によって制定されるものであることは間違いありません。

しかし,国会による立法とは「国会によって制定される法律を制定することである」というのでは,循環理論になってしまいますし,内容を問わないのであれば,国会が制定すれば何でもよいということになり,国会による人権侵害のおそれが生じてしまいます。

そのため,日本国憲法41条の「立法」における「法律」とは,形式的意味だけでなく,実質的意味を含んでいると考えるべきです。

実質的意味の法律の内容

前記のとおり,国会による立法とは,形式的意味の法律だけではなく,ある特定の内容の法律(実質的意味の法律)を制定する国家作用と考えるべきですが,この実質的意味の法律とは何かということが,次に問題となってきます。

何をもって実質的意味の法律というのかについては,憲法がどのようか過程で生まれたのかということを知っておく必要があります。

立憲君主制下における法律の定義

絶対君主制の時代,つまり,国王がすべての権力を握っていた時代のことです。国民の権利義務をどうするかも,すべて君主が決定できた時代です。

絶対君主制が,革命により打破されると,憲法が生まれます。そして,立憲君主制が成立します。これは,憲法はあるものの,君主が統治するという体制です。

この体制の時代には,まだ君主の権力は強力でした。そのため,君主からすべての権力を奪うことはできません。

しかし,国民の権利義務に関する決定権だけは,国民の手=議会に取り戻すことができるようになりました。

そのため,この時代の実質的意味の法律は,「国民の権利を制限し,義務を課する法規範」をいうとされていました。

現在の法律の定義

さらに,時代が進むと民主主義が発展していきます。次第に権力は,君主から国民の手へと移譲されていきました。

そして,国民の権利義務にかかわらず,それ以外の事項,国家機関の仕組みの決定権なども含めておよそあらゆる事項の決定権も,国民の手に委ねられていくこととなりました。

その結果,国民=その代表機関である議会(日本の議会は「国会」といいます。)は,国民の権利義務以外の事項も決定するようになります。

そうすると,もはや実質的意味の法律は,単に,「国民の権利を制限し,義務を課する法規範」だけではなくなりました。

現在では,実質的意味の法規範とは,およそ国民・国家に関わるすべての事項のルールという意味に捉えられるようになっていったのです。

実質的意味の法律

上記のような歴史の経緯から,現代における法律とは,単に国民の権利義務を制限するだけのものではなく,広くおよそ国民・国家に関わるすべての事項のルールを定めるものとされています。

すなわち,実質的意味の法律とは,不特定多数の人々に対して,不特定多数の事柄や事件に適用される法規範(一般的抽象的法規範)を意味するというように解されるようになったのです。

一般的抽象的法規範とは

前記のとおり,国会による立法における法律とは,形式的意味の法律というだけではなく,実質的意味の法律=一般的抽象的法規範を意味しています。

つまり,「立法」とは,一般的抽象的法規範を制定する国家作用であるということです。これを法律の一般性・抽象性と言うこともあります。また,併せて単に一般性と言うこともあります。

一般性と抽象性の意味

法律の「一般性」とは,不特定多数の人々に対して適用されるという意味です。また,「抽象性」とは,不特定多数の場合・事件に適用されるという意味です。

つまり,個別的・具体的に適用されるものではないということです。

一般性・抽象性が求められる理由

法律が個別的・具体的に適用されるとどうなるのでしょう?

例えば,○○法はあなたにだけ,あるいは,あなたの街の事件にだけ,適用されると考えてみてください。

どうして自分だけ,自分の街だけというように明らかな不平等を感じると思います。憲法の定める法の下の平等に反するでしょう。

また,国家権力の濫用も危険です。国家に意見を述べる人だけを対象とする法律も作れてしまいます。

思想弾圧などの方法に使われるおそれもあるのです。特定の場合にだけ適用されるようにして,利権獲得の手段となる危険性もあります。

さらに,予測可能性の確保の必要性もあります。

予測可能性とは,あらかじめルールが示されることによって,自分はどういう場合にどうなるのかを知り,自分がどのように行動すべきかを判断できる可能性があるかどうか,ということです。

法律が一般的抽象的に適用されると,みなに平等に適用されます。そのため,誰に適用されるのか,どんな場合に適用されるのかが明確です。

自分には適用されるのかどうかと悩む必要がありません。そのため,予測可能性が確保されることになります。

そのため,法律は一般的抽象的でなければならないのです。

法律以外の法形式

上記のとおり、法律は一般的抽象的でなければなりません。言い換えると,法律は,誰にでもどんな場合でも平等に適用されなければならないのです。

そうすると、個別的具体的な法律は、法律とは言えないことになります(なお,例外的に「措置法」と呼ばれる個別的具体的な内容の法律もあります。)。

なお,法律と異なり,憲法の制限は「国家」を対象とするもので。したがって,憲法は,不特定多数「人」を制限の対象としてはいません。

また,政令は,特定の問題に対処するために,法律の根拠に基づいて制定される法規範ですから,法律とは逆に,個別的具体的な法規範でなければなりません。したがって,特定の人や特定の場合に適用されます。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

憲法と資格試験

憲法は、国家の基本法です。そのため、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、公務員試験などの試験科目になっています。

憲法は「入口は広いが、出口は狭い」と言われることがあります。抽象的な議論が多いため、比較的取っつきやすい反面、学習が進むほどイメージをつかみづらく難解に感じるようになるということです。

独学では「本当にこの解釈で正しいのか?」と不安になることもあるかもしれません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。

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参考書籍

憲法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、憲法の参考書籍を紹介します。

憲法(第八版)
著者:芦部信喜 出版:岩波書店
憲法を勉強する人は全員読んでいるのではないかというくらい定番中の定番。著者が亡くなられてからも、改訂され続けています。不足する知識は他の本などで補えばよいだけなので、資格試験受験の基本書としても十分。憲法を勉強するなら読んでおかなければいけない本です。

日本国憲法論(第2版)
著者:佐藤幸治 出版:成文堂
憲法学の第一人者による概説書。レベルは高いです。初学者向きではありません。しかし、通説的見解とは異なる視点から論考されており、憲法の理解を深めることができます。

憲法(第五版)
編集:樋口陽一 出版:勁草書房
こちらも憲法学(特に比較憲法学)の第一人者による概説書。あまり受験向きではないかもしれませんが、より深く憲法を理解したいのであれば、読んでおくべき本です。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

基本憲法Ⅱ 総論・統治
著者:木下智史ほか 出版:日本評論社
初学者からでも使えるテキスト。資格試験受験生向けに書かれているため、非常に読みやすい本です。司法試験以外でも使えると思えます。

憲法Ⅱ 総論・統治(第2版)
著者:渡辺康行ほか 出版:日本評論社
2分冊の体系書。共著ですが、内容に矛盾は感じません。ただし、初学者向きではありません。知識量は十分なので、辞書代わりに使えます。

憲法(第4版)伊藤真試験対策講座5
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、分かりやすくまとまっています。知識量も十分です。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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