
債務整理を行う場合,弁護士から各債権者宛てに受任通知を送付して取立を停止させるのと同時に,取引履歴の開示も請求するのが通常です。貸金業者には,取引履歴を開示しなければならない法的義務があります。
貸金業者から取引履歴が開示された場合,その取引履歴をもとに引き直し計算を行って正確な債務残高を計算しなおし,過払金が発生していた場合には,その貸金業者に対して過払金返還請求をすることになります。
取引履歴開示の必要性
貸金業者のほとんどは,かつて,利息制限法の制限利率を超える利率で利息を受け取ってきていました。ほとんど返済が困難になってしまうような利率の利息です。このことがクレサラ問題の根底にあることは間違いありません。
この違法な利率による利息の収受を是正するため,貸金業者との間で行われたすべての貸し借りの取引を,すべて利息制限法所定の利率に直して利息を計算し直す作業が必要となってきます。これが引き直し計算です。
この引き直し計算をするためには,上記のとおり,貸金業者とのこれまでの取引の経過を逐一調べていかなければなりません。具体的に言えば,いつ,いくら借りたのか,いつ,いくら返したのかなどの取引の経過のすべてです。
しかし,一般消費者が,これまでのすべての貸し借りについて,いくら借りたか,いくら返したか,それは何年何月何日のことだったのかなどをすべて覚えているという場合はまれでしょう。また,それらに関する証拠資料をすべて保管しているという場合も多くはないでしょう。
そのため,上記の取引の経過をまとめた書面を貸金業者の方から開示してもらう必要があります。この取引の経過をまとめた書面のことを「取引履歴」とよんでいます。
すなわち,引き直し計算をするためには,その前提として,貸金業者から取引履歴の開示を受けることが必要となってくるということです。
取引履歴の内容
取引履歴には,決まった要式というものはありません。それぞれの貸金業者ごとに取引履歴の要式が異なっています。
引き直し計算をするためには,最低でも,借入れの金額・年月日,返済の金額・年月日の情報が必要となってきます。もっとも,これは逆に言うと,これらの情報さえあれば引き直し計算は可能です。
通常,貸金業者から提出されてくる取引履歴には,上記の最低限の情報くらいは記載されています。その他に約定の利率等の情報が記載されていることもあります。
もっとも,サラ金の場合はそうでもないのですが,クレジット会社の場合には,非常に分かりにくい取引履歴を提出してくる場合があります。かなり細かく確認しないと,どれが借入れでどれが返済なのかすら分からないという場合があるので注意が必要です。
取引履歴の開示義務
かつては、取引履歴の開示を請求しても、取引履歴を開示してこない貸金業者が多数ありました。しかし、最高裁判所第三小法廷平成17年7月19日判決によって,貸金業者には,取引履歴を開示する義務があるとの判断がされました。
最三小判平成17年7月19日
「貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。」引用元:裁判所サイト
上記判決がなされた結果,金融庁のガイドラインも改正され,さらに改正貸金業法でも,貸金業者には取引履歴の開示義務があるとする規定が追加されました。
そのため,現在では,ほとんどの貸金業者は,取引履歴の開示に応じてきます。債務者自身で開示を請求しても,比較的すみやかに取引履歴開示に応じてくるでしょう。
ただし,中には,取引履歴の一部しか開示してこないという貸金業者もありますので,その点についても注意が必要です。
取引履歴が開示されない場合には、通帳や残っている請求書・領収書・振込の記録などの資料等によって、不足する部分は推定して補いつつ、取引の経過を再現する必要があります。