時効の更新とは?

時効の画像

民事上の時効制度には,取得時効と消滅時効があります。

この時効によって不利益を受ける当事者のために,時効を止めるための措置として,「時効の更新」(民法改正前は「時効の中断」と呼ばれていました。)という制度が用意されています。

時効の更新の意義

民事の時効制度には,取得時効と消滅時効があります。

取得時効とは一定の期間の経過により権利を取得するというもの,消滅時効とは一定の期間の経過により権利が消滅するというものです。

取得時効が完成しそれが援用されれば,その時効援用者が権利を取得し,もとの権利者(この権利者のことを「原権利者」といいます。)はその権利を失うことになります。

例えば,ある土地を一定期間占有していた人が取得時効を援用し,それが認められると,もともとのその土地の所有者は,その土地の所有権を失ってしまうということです。

消滅時効の場合ですと,消滅時効が完成し援用されれば,その時効援用者に対する権利は消滅しています。

例えば,貸金の例でいうと,借主が一定期間返済をせずにいて,その後消滅時効を援用し,それが認められた場合,貸主の借主に対する貸金債権は消滅してしまう結果,借金の返済を請求することができなくなるということです。

もっとも,取得時効における原権利者や消滅時効における権利者は,相手方が占有を解いてくれなかったり返済をしてくれなかったら,指をくわえて時効が完成するまで待っているしかないのかというと,そのようなはずはありません。あまりにも不公平です。

そこで,時効援用によって不利益を被ることになる側の人の対抗手段として,時効の更新(民法改正前は「時効の中断」と呼ばれていました。)という制度が用意されています。

時効の更新の効果

時効の更新とは,それまで進行してきた時効期間を一から更新させることができるという制度です。時効が更新されると,それまで進行してきた時効期間はリセットされます。

例えば,AさんがBさんに対して貸金債権を有していました。この貸金債権の消滅時効期間が10年間であったとします。すでに,Bさんが返済をしなくなって9年が経過していました。

この時点でBさんが時効更新の措置をとると,それまでの9年間はリセットされます。リセットされるというのは,それまでの期間が「0(ゼロ)」に戻るということです。

したがって,時効更新の時からさらに10年間が経過しないと消滅時効は完成しないということにできる,というわけです。これは取得時効についても同様です。

前記のとおり、以前は時効の中断と呼ばれていました。しかし、時効期間をリセットするのですから、「中断」よりも「更新」という言葉の方がたしかにしっくりきます。

時効の更新の方法

時効の更新には,以下の3つの方法があります。

  • 裁判上の請求等による更新(民法147条)
  • 強制執行等による更新(民法148条)
  • 承認による更新(民法152条)

裁判上の請求等による更新

以下の法的手続をとると,その手続中は時効が完成しなくなり,その手続において確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定すると,その手続が終了した時に時効が更新されます(民法147条2項)。

  • 裁判上の請求
  • 支払督促
  • 訴え提起前の和解(民事訴訟法275条1項)
  • 民事調停
  • 家事調停
  • 破産手続・民事再生手続・会社更生手続への参加

裁判上の請求とは,訴訟を提起して請求するということです。例えば,前記の例でいえば,土地明渡しの訴訟を提起したり,貸金返還の訴訟を提起するということです。

例えば,訴訟を提起して判決の確定や裁判上の和解成立により権利が確定すると,その確定時(裁判上の和解の場合は和解成立時)に時効が更新されます。

他方,権利が確定せずに訴訟が終了した場合には,時効は更新されません。ただし,手続終了時から6か月間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項)。

強制執行等による更新

以下の法的手続をとると,その手続中は時効が完成しなくなり,その手続が終了した時に時効が更新されます(民法148条2項)。

  • 強制執行
  • 担保権の実行
  • 形式的競売(民事執行法195条)
  • 財産開示手続(民事執行法196条)

例えば,強制執行の手続をとった場合,その手続が終了した時に時効が更新されます。

ただし,申立ての取下げや手続の取消しによって手続が終了した場合には時効は更新されません。もっとも,取下げ等による終了から6か月間は時効の完成が猶予されます(民法148条1項)。

なお,改正前の民法では,仮差押えや仮処分も時効中断事由とされていましたが,民法改正により,これらは時効更新事由から外されています。

ただし,仮差押えや仮処分であっても,その手続中は時効が完成せず,終了後6か月間は時効の完成が猶予されます(民法149条)。

承認による更新

時効更新事由としては,上記のほか,「承認」があります。

取得時効における承認とは,時効により権利を失う者が,権利を取得することになる者に対して,自己の権利を認めさせることを意味します。

例えば,前記の土地占有者による土地の取得の例で言うと,占有者が,土地の使用者に対して賃料を支払うなどして土地を借りていること(土地所有者が所有権者であること)を認めた場合などが挙げられます。

他方,消滅時効における承認とは,時効の利益を受ける者が,時効により権利を失うことになる者に対して,その権利の存在を認めることを意味します。

例えば,前記の貸金の例で言うと,借主Bさんが貸主Aさんに対して返済猶予の申入れをするなどして,Aさんから借金をしていること(貸金債権が存在していること)を認める場合などがこれに当たります。

これら承認があった場合には,その承認の時に時効が更新されます(民法152条)。

時効の更新と時効の完成猶予

これまで述べてきたように,時効の更新(中断)は,時効期間をリセットしてしまう制度です。

これに対して「時効の完成猶予」という制度があります。これは,時効期間をリセットするまでの効果はありませんが,一定期間中は時効が完成しなくなるという制度です。

したがって,時効の完成猶予期間中に,本来の時効期間が経過したとしても,時効は完成しません。

前記のとおり,権利が確定せずに裁判上の請求等が終了した場合,申立ての取下げや手続の取消しによって強制執行等が終了した場合,仮差押えや仮処分の場合などには,更新の効果は生じないものの,時効の完成猶予の効果は生じます。

また,「催告」をした場合も,時効完成猶予の効果が生じます。端的にいうと,裁判外で請求をするということです。

この催告はあくまで時効の完成猶予事由であるため,これのみによって時効更新の効果が発生するわけではありません。しかし,催告後6月間は時効が完成しません(民法150条1項)。

したがって,催告後6か月以内に前記の時効更新事由のうちのどれかの措置をとれば,正式に時効更新の効果が発生します。

時効完成が直前であるものの正式の更新の措置をとる時間がないという場合には,とりあえず催告をしておけば,時効完成の時期を6か月間だけは伸ばせるということになります。

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