
自動契約更新条項がある場合に,取引が分断していても過払い金充当合意が認められるのではないかという点について判断した判例として,最高裁判所第一小法廷平成23年7月14日判決があります。
自動契約継続条項と取引の一連性
貸金業者との契約においては,自動契約継続条項という条項が入れられている場合があります。
自動契約継続条項とは,契約期間が経過してしまっても,当事者から申し出がなければ,その契約は自動的に継続されるという条項です。
普通に考えると,当事者からの申し出がなければ契約が自動的に継続されるという条項があるのですから,申し出がない場合には契約が継続され,例え,その間に取引が分断していても,その分断した各取引は1つの契約に基づいて行われたものであると判断できるように思えます。
しかし,最高裁判所はこれとは異なる考え方をとりました。それが,最高裁判所第一小法廷平成23年7月14日判決(最一小判平成23年7月14日)です。
最一小判平成23年7月14日の解説
最一小判平成23年7月14日では,以下のとおり判示されています(一部抜粋)
3 原審は,上記事実関係の下において,基本契約1ないし3には本件自動継続条項が置かれていることから,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまでの各期間のいずれにおいても,2年ごとの契約期間の自動継続がされていたとして,上記各期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は,事実上1個の連続した貸付取引であり,基本契約1ないし3に基づく取引により発生した各過払金をそれぞれ基本契約2ないし4に基づく取引に係る借入金債務に充当する旨の合意(以下「本件過払金充当合意」という。)が存在すると判断して,原告の請求を認容した。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約(以下「第1の基本契約」という。)が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約(以下「第2の基本契約」という。)が締結され,第2の基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である(最高裁平成18年(受)第2268号同20年1月18日第二小法廷判決・民集62巻1号28頁)。そして,第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である(前記第二小法廷判決)。
しかるに,原審は,前記事実関係によれば,基本契約1に基づく最終の弁済から基本契約2に基づく最初の貸付け,基本契約2に基づく最終の弁済から基本契約3に基づく最初の貸付け及び基本契約3に基づく最終の弁済から基本契約4に基づく最初の貸付けまで,それぞれ約1年6か月,約2年2か月及び約2年4か月の期間があるにもかかわらず,基本契約1ないし3に本件自動継続条項が置かれていることから,これらの期間を考慮することなく,基本契約1ないし4に基づく取引は事実上1個の連続した取引であり,本件過払金充当合意が存在するとしているのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,前記特段の事情の有無等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
引用元:裁判所サイト
最一小判平成23年7月14日の事案
この判例の事案は,取引が4つに分断されており,各取引は,それぞれ別個の基本契約(上記判決にいう基本契約1から4)に基づいています。
取引の個数の問題におけるいわゆる非基本契約取引中断型です。
ただし,単なる分断ではなく,基本契約1から3までについては,それぞれ自動契約継続条項が置かれているという事案です。
この最高裁の原審(名古屋高等裁判所平成22年11月11日判決)は,自動契約継続条項が置かれている以上,基本契約1から4までに基づく4つの取引は「事実上1個の連続した貸付取引」であり,過払金充当合意が認められるので,すべての取引を一連充当計算できるという判断をしています。
最一小判平成23年7月14日の判断
前記原審判決に対し,最一小判平成23年7月14日は,最二小判平成20年1月18日を引用して,同判例のいわゆる6要素(7要素という場合もあります。)を挙げました。
そして、非基本契約中断型の場合には,この6要素の基準を用いて判断すべきであり,それをしていない以上,原審判決には法令違反があるという判断をして,原審を破棄しました。
つまり,この最高裁判決は,自動契約継続条項は,取引の一連性判断においては問題とならないという判断を示したということです。
これにより,最高裁は,1つの基本契約に基づかない取引の分断の場合には,あくまで,上記6要素によって判断すべきであるというスタンスを堅持していることが明らかになりました。
金築誠志裁判官の補足意見
非基本契約取引分断型において最二小判平成20年1月18日の6要素基準を用いる理由については、以下の金築誠志裁判官の補足意見が分かりやすいです。
法廷意見が引用するように,最高裁平成20年1月18日第二小法廷判決は,中断期間を置いて複数の基本契約に基づく貸付取引が存在する場合に,事実上一個の連続した取引であると評価できるか否かは,取引の中断期間等のいわゆる6要素を考慮して決定されるべきものとしている。自動継続条項が存在することを主要な理由として取引の一連一体性を認める原審の見解によれば,中断期間の長短などは問題にならなくなるのであるから,原審の見解が上記判決の趣旨に沿わないことは明らかであろう。貸金業者の締結する金銭消費貸借基本契約に,本件と同様の自動継続条項が盛り込まれている場合が多いことは,当裁判所に顕著な事実であるところ,上記判決は,法律的には別個の基本契約が存在する場合に,これらに基づく実際の取引が中断していた期間の長短,その間における貸主と借主との接触の状況,新たな基本契約が締結されるに至る経緯といった,取引の事実上の側面に重点を置いた6要素を総合的に考慮して一個の連続した取引と評価し,充当合意を認定すべきものとするものであって,自動継続条項に基づく法律的・形式的な契約の継続は,考慮に加えるべき重要な要素として位置付けていないと解される。新たな取引とみるかどうかについて,このように事実上の側面に重点を置くことは,消費者等の取引当事者の通常の見方にも合致するように思われる。また,本判決の考え方は,過払金返還請求権の消滅時効の起算点を,特段の事情がない限り取引終了時とし,自動継続条項による基本契約の効力継続の点を問題にしていない,最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号247頁とも,整合的であると考えられる。
前記のとおり,普通に考えると,自動契約継続条項がある以上,契約に基づく各取引も一連になるように思われます。
しかし、上記補足意見のとおり、最高裁は、自動契約継続条項という法律的・形式的なものよりも、現実の取引の態様の方を重視するということです。
実務に与えた影響
この最一小判平成23年7月14日は、消費者側に必ずしも有利な判例とは言えません。
もっとも、契約条項にかかわらず、最二小判平成20年1月18日が掲げる6基準によって現実の取引状況から「事実上1個の連続した貸付取引」といえるかどうかを判断するというのが,最高裁判所のスタンスであるということが明らかにしたという点では意味がある判例といえるでしょう。
ただし,仮に契約条項に貸金業者側に有利な条項があったとしても,この判決が示すように,最高裁は事実的側面を重視しているというスタンスが維持されるならば,消費者側に有利にも用いることができる可能性のある判例であるともいえます。