
自己破産における破産管財人の否認権の類型の1つに偏頗行為否認があります(破産法162条1項)。
偏頗行為とは,既存の特定の債権者のみに対して担保の供与や債務の消滅行為(返済など)をすることをいいます。破産手続においては債権者の平等が求められるため,偏頗行為は破産管財人による否認権行使の対象となる場合があります。
偏頗行為否認とは
破産法 第162条
- 第1項 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
- 第1号 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。- 第2号 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
破産管財人による否認権行使の類型の1つに「偏頗行為否認」と呼ばれる類型があります(破産法162条1項)。
偏頗行為とは,特定の債権者のみに対して担保の供与や債務の消滅行為をすることをいいます。
破産手続においては債権者の平等が強く要請されますから,一部の債権者にだけ利益を与えるような行為は債権者平等を害する行為として許されません。そのため,偏頗行為は否認権行使の対象とされるのです。
偏頗行為の意味
偏頗行為否認では,「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為」を否認権行使の対象としています。
この「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為」は,「偏頗行為」と呼ばれています。
担保の供与の代表的な例は抵当権の設定,債務の消滅の代表的な例は弁済です。これらの行為が「既存の債務についてされた」場合,偏頗行為否認の対象となります。
特に,偏頗行為に当たる弁済のことを「偏頗弁済」と呼んでいます。
「既存の債務」とは,現に存在している債務という意味です。
つまり,「既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為」とは,すでに借金を負っている人が,その借金について担保を供与したり,返済をしてしまう行為を意味します。
逆に,新たな借入れをして,それについて担保を供与することは「既存の債務についてされた」とはいえないので,偏頗行為否認の対象とならないということになります。
ただし,新たな借入れに対する返済等が詐害行為否認の対象となることはあります。
偏頗行為否認の類型
この偏頗行為否認には,以下の2つの類型があります。
- 破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為の否認(破産法162条1項1号)
- 破産者が支払不能になる前30日以内にした非義務的偏頗行為の否認(破産法162条1項2号)
破産法162条1項1号の偏頗行為否認
まず,偏頗行為否認の類型としては,破産法162条1項1号に定める偏頗行為否認があります。
これは,破産者が支払不能になった後または破産手続開始の申立てがあった後にした偏頗行為を否認権行使の対象とするものです。
この偏頗行為否認の場合,対象となる行為は,支払不能または破産申立て後に限られているものの,法的な支払義務がある義務的な偏頗行為も含みます。
破産法162条1項2号の非義務的偏頗行為の否認
もう1つの偏頗行為否認の類型は,破産法162条1項2号に定める偏頗行為否認です。
これは,破産者が支払不能になる前30日以内にされた非義務的偏頗行為を否認権行使の対象とするものです。
この偏頗行為否認の場合,支払不能になるよりも前の行為まで対象としています。しかし,対象となる行為は,支払義務がまだ発生していない非義務的な偏頗行為に限定されています。