
自己破産をしたとしても、実際に居住しているアパート・マンションなどの賃借物件については、破産管財人や賃貸人(大家・貸主)によって賃貸借契約を解約されることは原則としてありません。
ただし、賃料を数か月分滞納し、信頼関係が破壊されていると言えるほどの場合には、賃貸人によって債務不履行を理由に解約されることはあり得ます。
他方、居住用ではない賃借物件の場合(居住物件に付随する駐車場等は除く。)、例えば、事業用の賃借物件などの場合には、破産管財人が賃貸借契約を解約して賃貸人に賃借物件を明け渡し、敷金・保証金を回収して破産財団に組み入れることになるのが通常です。
借りているアパートやマンションなどの賃貸借契約
まず、結論から言うと、個人(自然人)の方が自己破産したからと言って、実際に居住しているアパートやマンションなどの賃借物件を解約されて出ていかなければいけないということは、原則としてありません。
とはいえ、賃借物件と言っても、実際に住んでいるものだけとは限りません。実際に住んでいる物件のほかにも、賃借している不動産があるという場合もあります。
自己破産した場合、賃借している不動産物件がどのように取り扱われるかは、それが居住用のものなのか、それとも、それ以外の用途のものなのかによって異なってきます。
居住している賃借物件の場合
賃借している不動産物件が、実際に居住しているものである場合、これを解約されてしまうと、破産した人のその後の生活が成り立たなくなってしまうおそれがあります。
自己破産して借金が免責されても、住む所が無くなってしまっては、債務者の経済的更生を図ろうとする破産法の趣旨に反します。
そのため、基本的に、居住している賃借物件に関しては、自己破産をしても解約されないような法律または運用になっています。
破産管財人による賃貸借契約の解約
アパートやマンションを借りる際、敷金・保証金を差し入れていた場合、賃貸借契約を解約して賃借物件を明け渡すと、その敷金・保証金から、未払いの賃料などを差し引いた残額を返還してもらえます。
自己破産においては、この敷金・保証金を返してもらう請求権(敷金・保証金返還請求権)も、将来の請求権として、換価処分の対象になります。
そのため、原則論を言えば、裁判所から選任された破産管財人が、賃貸借契約を解約して物件を明け渡し、敷金・保証金を回収することになるはずです。
しかし、前記のとおり、住んでいる所を解約されてしまうと、破産した人の経済的更生に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
そこで、東京地方裁判所や大阪地方裁判所など多くの裁判所では、居住用の不動産の敷金・保証金返還請求権については、換価処分をしなくてよい自由財産として取り扱うものとされています。
したがって、実際に住んでいるアパートやマンションが、破産管財人によって解約されてしまうことはありません。
ただし、居住用不動産が多数あったり、賃料があまりに高額すぎるような場合には、賃貸借契約を解約される可能性はあるでしょう。
賃貸人(大家)による賃貸借契約の解約
かつては、賃借人(借主)が破産した場合、賃貸人(貸主・大家)の側から、賃貸借契約を解約できるとされていましたが(旧民法621条)、現在では、その規定は削除されています。
したがって、現在では、自己破産をしても、それを理由として賃貸人が契約を解約することはできません。
賃貸借契約において、賃借人が破産した場合には賃貸人が賃貸借契約を解除できる旨の定め(倒産解除条項)があったとしても、その条項は効力を有さず、やはり賃貸人は、賃借人が自己破産したことをもって契約を解約することはできないと解されています。
ただし、もちろん、家賃・賃料をちゃんと支払い続けていることが前提です。
上記のとおり、賃貸人は、賃借人が自己破産したことを理由に賃貸借契約を解約することはできませんが、債務不履行があった場合に契約を解約することまでは禁止されていません。
したがって、破産手続開始までの間に、または、破産手続の開始後に、数か月分賃料を滞納し、信頼関係が破壊されているといえるほどの状態になってしまった場合には、賃貸人から債務不履行を理由として賃貸借契約を解約されることはあります。
家賃・賃料の滞納がある場合には、親族の援助等によって滞納を解消するなどの措置を取っておく必要があるでしょう。
居住していない賃借物件の場合
前記のとおり、実際に居住しているアパート・マンションなどの賃借物件については、自己破産をしても、原則として契約を解約されません。
しかし、居住用ではない賃借不動産、例えば、事業用の賃借不動産などについては、契約が解約されるのがむしろ原則です。
居住していない賃借物件の場合は、破産管財人が、賃貸借契約を解約して物件を賃貸人に明け渡し、敷金・保証金を回収して破産財団に組み入れることになるのが通常です。
なお、敷金・保証金の無い賃借物件であっても、破産財団の負担になる場合には、やはり破産管財人によって解約されることになるでしょう。