
個人再生の手続を開始してもらうためには、民事再生法で定める再生手続開始の要件を満たしている必要があります。
再生手続開始の要件としては、民事再生全般に共通する要件のほか、個人再生に特有の要件もあります。また、小規模個人再生と給与所得者等再生では、再生手続開始の要件に異なるものもあります。
個人再生手続開始の要件
民事再生法 第33条
- 第1項 裁判所は、第21条に規定する要件を満たす再生手続開始の申立てがあったときは、第25条の規定によりこれを棄却する場合を除き、再生手続開始の決定をする。
- 第2項 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
個人再生の目的は、裁判所によって再生計画を認可してもらい、借金の減額や分割払いにしてもらうことです。
もっとも、再生計画を認可してもらう前に、まずは何より個人再生の手続自体を開始してもらわなければ話になりません。
個人再生手続を開始してもらうためには、個人再生の申立て(再生手続開始の申立て)をしなければなりませんが、申立てをすれば常に手続を開始してもらえるわけではなく、民事再生法で定める再生手続開始の要件を満たしていなければ手続は開始されません。
再生手続開始の要件を満たしていない場合には、再生手続開始の申立ては棄却され、手続は開始されません。つまり、門前払いになってしまうということです。
再生手続開始の要件を満たしているかどうかは、裁判所による再生手続開始決定(または棄却決定)の時点で判断されます。
個人再生における再生手続開始要件としては、以下の要件を満たしている必要があります。
- 民事再生全般に共通する再生手続開始要件
- 個人再生固有の再生手続開始要件
- 小規模個人再生・給与所得者等再生に共通する再生手続開始要件
- 小規模個人再生に固有の再生手続開始要件
- 給与所得者等再生に固有の再生手続開始要件
民事再生共通の再生手続開始要件
民事再生法 第21条
- 第1項 債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるときは、債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる。債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときも、同様とする。
民事再生法 第25条
- 次の各号のいずれかに該当する場合には、裁判所は、再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
- 第1号 再生手続の費用の予納がないとき。
- 第2号 裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。
- 第3号 再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。
- 第4号 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
個人再生とは、正式には「小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則」という民事再生手続の特則です。そのため、個人民事再生と呼ばれることもあります。
個人再生も、民事再生の特則である以上、基本的には通常の民事再生と同様の規律を受けることになります。
そのため、個人再生においても、通常の民事再生手続における再生手続開始要件を満たしている必要があります。具体的には、以下の民事再生共通の再生手続開始要件が必要です。
- 再生手続開始原因があること
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと
- 再生手続開始の申立てが適法であること
個人再生に固有の再生手続開始要件
前記のとおり、個人再生は、通常民事再生の特則ですから、通常民事再生にはない個人再生固有の再生手続開始の要件があります。
個人再生を利用する場合には、前記民事再生共通の開始要件のほか、個人再生固有の開始要件も満たしている必要があります。
小規模個人再生・給与所得者等再生に共通する再生手続開始要件
民事再生法 第221条
- 第1項 個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続がありますが、これら両方の手続に共通する個人再生特有の要件としては、以下のものがあります。
- 債務者が個人であること
- 債務者に継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権額が5000万円を超えていないこと
小規模個人再生に固有の再生手続開始要件
民事再生法 第221条
- 第2項 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述は、再生手続開始の申立ての際(債権者が再生手続開始の申立てをした場合にあっては、再生手続開始の決定があるまで)にしなければならない。
- 第3項 前項の申述をするには、次に掲げる事項を記載した書面(以下「債権者一覧表」という。)を提出しなければならない。
- 第1号 再生債権者の氏名又は名称並びに各再生債権の額及び原因
- 第2号 別除権者については、その別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる再生債権の額(以下「担保不足見込額」という。)
- 第3号 住宅資金貸付債権については、その旨
- 第4号 住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思があるときは、その旨
- 第5号 その他最高裁判所規則で定める事項
個人再生には、その基本類型として、小規模個人再生という手続が用意されています。
小規模個人再生を利用する場合には、前記民事再生共通の開始要件・個人再生共通の開始要件のほかに、小規模個人再生固有の開始要件を満たしている必要もあります。
小規模個人再生特有の再生手続開始要件としては、以下のものがあります。
- 小規模個人再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
給与所得者等再生に固有の再生手続開始要件
民事再生法 第239条
- 第1項 第221条第1項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
- 第2項 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述は、再生手続開始の申立ての際(債権者が再生手続開始の申立てをした場合にあっては、再生手続開始の決定があるまで)にしなければならない。
- 第3項 再生債務者は、前項の申述をするときは、当該申述が第221条第1項又は第244条において準用する第221条第3項に規定する要件に該当しないことが明らかになった場合に通常の再生手続による手続の開始を求める意思があるか否か及び第5項各号のいずれかに該当する事由があることが明らかになった場合に小規模個人再生による手続の開始を求める意思があるか否かを明らかにしなければならない。ただし、債権者が再生手続開始の申立てをした場合については、この限りでない。
個人再生には、その特別類型として、給与所得者等再生という手続が用意されています。
給与所得者等再生を利用する場合には、前記民事再生共通の開始要件・個人再生共通の開始要件のほかに、給与所得者等再生特有の開始要件を満たしている必要もあります。
給与所得者等再生特有の再生手続開始要件としては、以下のものがあります。
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日、ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日、破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述をしたこと