
給与所得者等再生においては、個人再生手続の開始から再生計画の認可の判断に至るまで、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」だけでなく、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること」と「その定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと」の要件を満たしている必要があります。
したがって、定期的な収入がなければ、給与所得者等再生は利用できません。
給与所得者等再生における収入要件
個人再生を申し立て、裁判所によって再生計画が認可されると、減額された借金などの債務を3年から5年の期間で分割払いしていくことになります。
そのため、個人再生を利用するためには、3年から5年の間、確実に分割払いをしていけるだけの収入が要件として必要です。
具体的にいうと、小規模個人再生の場合でも給与所得者等再生の場合でも、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」がなければ、そもそも再生手続を開始してもらうことさえできません。
この将来継続的・反復して収入を得る見込みがあることの要件は、再生手続開始の時点から再生計画認可の時点まで、つまり、再生手続の初めから終わりまで一貫して必要とされる要件です。
さらに、給与所得者等再生は、給与など、可処分所得2年分の額以上の額を支払うことを条件として、再生債権者の不同意があっても、他の要件を充たしていれば、再生計画認可が可能であるという個人再生の特則です。
そのため、給与所得者等再生では、可処分所得の2年分の額を確実かつ容易に把握することができ、再生債権者に不利益を与えるおそれのない場合でなければ利用できません。
つまり、小規模個人再生の場合よりも確実な収入の見込みがあることが求められます。
具体的には、将来継続的・反復して収入を得る見込みがあることの要件だけでなく、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること」と「その定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること」も必要とされます。
将来において継続的または反復して収入を得る見込み
民事再生法 第221条
- 第1項 個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
民事再生法 第231条
- 第2項 小規模個人再生においては、裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合にも、再生計画不認可の決定をする。
- 第1号 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき。
民事再生法 第239条
- 第1項 第221条第1項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
前記のとおり、小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、個人再生においては、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」が必要です(民事再生法221条1項、239条1項)。
「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がなければ、小規模個人再生であっても給与所得者等再生であっても、再生手続は開始されません。
個人再生では、再生計画が認可されると、3年から5年の間、3か月に1回以上の割合で返済を継続していくことになります。
そのため、この3年から5年の期間中、3か月に1回以上のペースでの返済が可能な程度に継続的または反復した収入を得る見込みがあれば、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」の要件を充たしていると判断されます。
また、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」の要件は、再生手続開始の時点においてのみ充たされていればよいというものではありません。
小規模個人再生の場合、再生計画を認可するかどうかを判断する時点においても「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がなくなってしまっていれば、再生計画は不認可となります(民事再生法231条2項1号)。
給与所得者等再生の場合は、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」の要件は再生計画不認可事由に挙げられていません。
しかし、給与所得者等再生の場合、「給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者」に該当しないときは、再生計画不認可となります。
「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がないということは、当然、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込み」もないということです。
したがって、給与所得者等再生においても、明文はないですが「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がなければ、再生計画は不認可になるでしょう。
したがって、小規模個人再生であれ、給与所得者等再生であれ、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」の要件は、再生手続の開始から終了までの間、一貫して必要となると考えておくべきでしょう。
給与など定期的で変動の幅の小さい収入を得る見込み
民事再生法 第241条
- 第2項 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
- 第4号 再生債務者が、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者に該当しないか、又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないとき。
給与所得者等再生においては、可処分所得の2年分以上の額を弁済しなければなりません。したがって、可処分所得の2年分以上の額を確実かつ容易に把握することができる場合である必要があります。
そこで、前記のとおり、給与所得者等再生においては、単に「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」だけでは足りず、「給与またはこれに類する定期的な収入を得ていること」と「その定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること」が必要とされます。
この要件も、再生手続の開始から再生計画の認可時点まで一貫して充たされていることが必要です。
定期的な収入であれば、名目が「給与」や「給料」でなくても、ここでいう「給与またはこれに類する定期的な収入」に該当します。
また、定期的な収入があるだけでは足りず、さらに、その定期的な収入の額の変動の幅が小さいものでなければなりません。
この点、民事再生法241条2項7号イは、可処分所得の算定について、定期的な収入の額に5分の1以上の変動があった場合には特別な算定方法を用いなければならないとしています。
そのため、年収換算で5分の1(20パーセント)以上の額の変動があるか否かが、定期的な収入の額の変動の幅があるか否かの一応の判断基準になると解されています。
例えば、申立て時点での年収が500万円であったとしても、その前年度の年収が300万円であれば、年収に5分の1(20パーセント)以上の収入額の変動があるため、「定期的な収入の額の変動の幅が小さい」とはいえないと判断される可能性が高くなります。
ただし、20パーセント以上か否かという基準が絶対のものとまではいえません。
個々の事情によっては、20パーセント以上であっても変動の幅が小さいと判断されることもあり得ますし、逆に、20パーセント未満であっても変動の幅が小さいとはいえないと判断されることもあり得るのです。