預金・貯金は相続財産(遺産)に含まれるのか?

預貯金の画像

被相続人が,被相続人名義で銀行などの金融機関に預けていた預金や貯金(を払い戻す請求債権)は,相続財産に含まれます。

相続人が複数人いる場合,この預金や貯金(預貯金債権)は,相続開始と同時に当然に各共同相続人の相続分に応じて分割されるものではなく,遺産分割の対象になると解されています(最大判平成28年12月19日,最一小判平成29年4月6日)。したがって,共同相続人全員に準共有的に帰属することになります。

ただし,2019年7月1日以降,各共同相続人は,相続開始時における預貯金債権額の3分の1に自身の法定相続分を乗じた金額(ただし,上限は150万円。)までなら,それぞれ単独で預貯金債権を行使できるようになりました(民法909条の2前段)。

預金・貯金の相続財産性

民法 第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

相続が開始すると,被相続人の一身に専属したものを除いて,被相続人の財産に属した一切の権利義務が相続人に承継されます(民法896条)。

この相続によって相続人に承継される被相続人の権利義務のことを「相続財産(遺産)」といいます。

被相続人が,被相続人名義で銀行などの金融機関に預けていた預金や貯金(厳密に言えば,預金や貯金を金融機関から払い戻す請求権です。)は,被相続人の一身に専属するものではありませんから,相続財産に含まれます。

したがって,相続が開始すると,預金・貯金(預貯金債権)も相続人に承継されることになります。

なお,ここで言う預金や貯金とは,あくまで金融機関等に預けている預金や貯金のことです。手持ちの現金として貯蓄しているもの(いわゆる「タンス預金」)ではありません。

預貯金債権の帰属

相続人が1人しかおらず,遺言もない場合であれば,相続開始により,預金・貯金(預貯金債権)はすべてその相続人に帰属します。

他方,相続人が複数人いる場合には,預貯金債権が各共同相続人にどのように帰属するのかが問題となってきます。

この点,かつては,預貯金債権も可分債権であることから,遺産分割を待たずに,相続開始により当然に,共同相続人各自の相続分に応じて分割承継されると考えられていました。

しかし,最高裁判所は,預貯金債権については,他の可分債権と異なり,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるものではなく,遺産分割の対象になると判示しました(普通預金・通常貯金・定期貯金につき最大判平成28年12月19日,定期預金・定期積金につき最一小判平成29年4月6日)。

この判例からすると,相続人が複数人いる場合,預金・貯金(預貯金債権)は,相続が開始すると,共同相続人全員に準共有的に帰属する,と解することになるでしょう。

そして,預貯金債権の準共有状態を解消し,具体的な相続分を確定させるためには,遺産分割が必要となります。

遺産分割前における預貯金の払戻しの可否

民法 第909条の2
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

前記のとおり,相続人が複数人いる場合,預金・貯金(預貯金債権)は,相続開始から遺産分割による相続分が確定されるまでの間,共同相続人全員に準共有的に帰属することになります。

したがって,原則論を言えば,遺産分割が終わるまでの間,各共同相続人は,それぞれ単独で預金・貯金の払戻しをすることはできないということなるでしょう。

実際,金融機関側は,共同相続人単独での払戻し請求には,なかなか簡単に応じてくれないのが通常でした。特に,前記最大判平成28年12月19日以降は,応じてくれないのが原則となっていました。

もっとも,被相続人の葬儀費用などのために,被相続人の預金・貯金が必要となることは少なくありません。

そこで,改正民法(2019年7月1日から施行)では,各共同相続人は,相続開始時における預貯金債権額の3分の1に自身の法定相続分を乗じた金額(ただし,上限は150万円。)までなら,それぞれ単独で預貯金債権を行使できるものとされました(民法909条の2前段)。

したがって,2019年7月1日以降,共同相続人は,上記の範囲で預金・貯金の払い戻しをすることが可能となります。

2019年7月1日より前に開始された相続に関しても,民法909条の2に基づく単独での預金・貯金の払戻しができます。

上記規定に基づいて預金・貯金を払い戻した場合,その払戻額を遺産の一部分割によって取得したものとみなすことになります(民法909条の2後段)。

なお,特別な事情があり,急ぎ民法909条の2の上限を超える金額の払戻しをしなければならないような場合などには,遺産分割前の預貯金債権仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)を利用することになるでしょう。

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