共同抵当における後順位抵当権者の代位権とは?

抵当権の画像

後順位抵当権者の代位権とは,共同抵当権者が異時配当の方法を選択して特定の不動産のみ売却した場合,その不動産の後順位抵当権者は,共同抵当権者が同時配当の場合に受けたであろう金額に達するまで,共同抵当権者が他の不動産について有している抵当権に代位することができる権利のことをいいます(民法392条2項後段)。

共同抵当における配当

民法 第392条
第1項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。
第2項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。

共同抵当とは,1個の被担保債権の担保として,複数の不動産等に抵当権を設定することをいいます。

共同抵当権者は,複数の共同抵当目的物の抵当権全部を同時に実行することもできますし,また,共同抵当目的物のうちのどれか一部の抵当権のみ実行することもできます。

共同抵当が設定されている複数の不動産等を同時に売却する場合のことを「同時配当」といいます(民法392条1項)。

これに対し,共同抵当が設定されている不動産のうちの一部のみ売却して配当を受け,不足がある場合に,別の不動産を売却して配当を受けることを「異時配当」といいます(民法392条2項)。

同時配当でも異時配当でも,共同抵当権者が得られる配当金の額に変わりはありません。

ただし,共同抵当の目的不動産に,その共同抵当に劣後する後順位抵当権者がいる場合には,その後順位抵当権者の利益も考慮する必要が出てきます。

例えば,債権者Xは,債務者Yに対し,3000万円の債権を有しており,その債権を担保するために,Yが所有する甲不動産(換価価値4000万円)と乙不動産(換価価値2000万円)に共同抵当を設定していたとします。

この場合,同時配当されると,Xは,甲不動産から2000万円,乙不動産から1000万円の配当を受けることになります。

他方,甲不動産から異時配当されると,Xは,甲不動産から3000万円の配当を受け,乙不動産は売却されないことになります。

乙不動産から異時配当されると,乙不動産から2000万円,甲不動産から1000万円の配当を受けることになります。

それでは,この事例で,債権者Zが,Yに対する2000万円の債権を担保するために,甲不動産に,Xに劣後する後順位の抵当権を設定した場合はどうなるでしょうか?

Xが同時配当を選択した場合,Xは甲不動産から2000万円の配当を受け,余剰として2000万円が残ります。その余剰2000万円は,Zが配当を受けることができます。

Xが乙不動産から異時配当することを選択した場合は,Xは甲不動産から1000万円の配当を受け,余剰として3000万円が残ります。その余剰から,Zは2000万円の配当を受けることができます。

ところが,Xが甲不動産から異時配当することを選択した場合,Xは甲不動産から3000万円の配当を受け,余剰は1000万円です。

そうすると,Zは,甲不動産から1000万円しか配当を受けることができません。

Xが同時配当や乙不動産からの異時配当を選択していたら,Zは2000万円の配当を受けられたはずであるのに,Xが甲不動産からの異時配当を選択すると1000万円の配当しか受けられないということになりそうです。

しかし,先順位の抵当権者がどの配当方法を選択するのかによって後順位抵当権者が受けられる利益が変わってきてしまうというのでは,後順位抵当権者に酷です。

そのため,共同抵当の目的不動産上に共同抵当に劣後する後順位抵当権者がいる場合には,その後順位抵当権者の利益をどのように図るべきかが問題となってきます。

後順位抵当権者の代位権

前記のとおり,共同抵当の目的不動産上に共同抵当に劣後する後順位抵当権者がいる場合には,その後順位抵当権者の利益をどのように図るべきかが問題となってきます。

民法では,共同抵当に劣後する後順位抵当権者の利益を保護するため,その後順位抵当権者に「後順位抵当権者の代位権」を認めています(民法392条2項後段)。

後順位抵当権者の代位権とは,共同抵当権者が異時配当の方法を選択して特定の不動産のみ売却した場合,その不動産の後順位抵当権者は,共同抵当権者が同時配当の場合に受けたであろう金額に達するまで,共同抵当権者が他の不動産について有している抵当権に代位することができる権利のことをいいます。

例えば,前記Xが甲不動産から異時配当した場合の例で言うと,Zは,甲不動産からは1000万円しか配当を受けることができません。

しかし,Xが同時配当を選択していれば,Zは甲不動産から2000万円の配当を受けることができたはずです。

そこで,Zは,Xが甲不動産からの異時配当を選択した場合,Xが同時配当を選択していれば,乙不動産から得たであろう配当1000万円について,Xに代位することができます。

つまり,Zは,Xの代わりに,乙不動産を競売にかけて,乙不動産から1000万円の配当を受けることができるということです。

この後順位抵当権者の代位権を行使することにより,後順位抵当権者は,共同抵当権者が同時配当した場合と同じ金額の配当を受けることができるようになるのです。

後順位抵当権者と物上保証人の優先関係

共同抵当が設定されている不動産が,必ずしも債務者自身が所有する不動産であるとは限りません。物上保証人が担保を提供していることもあります。この場合,物上保証人の利益を考慮する必要があります。

物上保証人は,自らが提供した担保不動産が共同抵当権者によって売却された場合,弁済による代位(民法500条,501条)によって,他の共同担保が設定されている不動産から配当を受けることができます。

ここで問題となってくるのは,共同抵当が設定されている不動産のうちに物上保証人と後順位抵当権者の両方が存在する場合です。

つまり,後順位抵当権者の代位権と物上保証人の代位権が衝突する場合に,そのどちらを優先すべきかという問題です。

この点について,まず,共同抵当として,物上保証人が提供した担保目的物のほか,債務者所有の担保目的物もあり,その債務者所有の担保目的物には共同抵当に劣後する後順位抵当権が設定されている場合において,物上保証人の提供した担保目的物が競売されたときは,物上保証人の代位が後順位抵当権者の利益に優先すると解されています(大判昭和4年1月30日、最一小判昭和44年7月3日等)。

なぜなら,物上保証人は,債務者において他に担保があるため,それに代位できるという期待を持って担保を提供しているからです。

また,物上保証人の提供した担保目的物に,共同抵当のほか,これに劣後する後順位抵当権が設定されていた場合において,その物上保証人の提供した担保目的物が競売されたときも,物上保証人の代位が後順位抵当権者の代位に優先すると解されています。

この場合も,物上保証人の他に担保があるという期待を保護する必要があるからです。

他方,共同抵当として,物上保証人が提供した担保目的物のほか,債務者所有の担保目的物もあり,債務者所有の担保目的物にも,物上保証人が提供した担保目的物にも,それぞれ共同抵当に劣後する後順位抵当権が設定されている場合において,物上保証人の提供した担保目的物が競売されたときは,物上保証人の提供した担保目的物の後順位抵当権者による代位の方が,物上保証人の代位よりも優先されると解されています(最一小判昭和60年5月23日)。

この場合には,物上保証人は自ら,自己の担保目的物に後順位抵当権を設定しているので,その後順位抵当権者よりも保護されるべき理由がないからです。

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