この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

日本国憲法は,統治機構において,三権分立の一翼を担う国家機関として,国会を設置していますが,憲法上,この国会には「国権の最高機関」たる地位が与えられています(日本国憲法41条)。
国会の「国権の最高機関性」とは?
日本国憲法 第41条
- 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
日本国憲法では,その統治機構において,三権分立を担う国家機関として,内閣・裁判所のほかに「国会」を設けています。
国会は,憲法上,唯一の立法機関・全国民の代表機関であり,さらに「国権の最高機関」としての地位を与えられています(日本国憲法41条)。
「国権の最高機関」という文言から単純に考えるならば,国会こそが国家機関のうちで最高の機関であるという意味に捉えられますが,三権分立の原理との関係で,この国権の最高機関性の意味については,解釈上の争いがあります。
最高機関性に関する学説
前記のとおり,国会の「国権の最高機関性」の意味をどのように捉えるべきなのかについては,解釈上の争いがあります。
統括機関説(国会主権説)
国会は「国権の最高機関」であるという憲法41条の文言を忠実に解釈すると,全国民の代表機関である国会こそが国家機関のうちで最高の機関であり,他の国家機関に優越する権能を有している機関であると捉えることができます。
この考え方を,統括機関説または国会主権説といいます。
統括機関説は,国会には国政の最終的な決定権があると解することになります。伝統的な議会優位の思想に基づいたものであるといえます。
もっとも,日本国憲法では,三権分立の原理をとっています。
現代の三権分立原理は,三権の相互抑制・均衡によって,どれか1つの国家権力が濫用されるのを制限しようとする原理です。国会が他の国家機関に優越する権限を有していると解することは,この三権分立原理に反することになりかねません。
実際、国会と言えど、内閣の衆議院解散権や最高裁判所の違憲立法審査権によって抑制されています。したがって、国会を他の国家機関に優越する国政の最終的な決定権者と捉えることはできません。
政治的美称説
そこで,現在の通説は,明治憲法下における天皇主権を否定するとともに、国会が主権者たる国民の代表機関であることに敬意をはらって最高機関と称しただけのものであり,「国権の最高機関」という文言に法的意味はないと解しています。
これを政治的美称説と呼んでいます。
最高機関性の積極的解釈
前記のとおり,「国権の最高機関性」に関する解釈については,政治的美称説が通説とされています。
もっとも,現代では,行政権が肥大化し(行政国家現象),行政権による人権侵害の危険性が高まっています。これに対する抑制策の1つとして,国会の行政権に対する監督権限を強化する必要性もあります。
そこで,「国権の最高機関性」には,政治的美称にとどまらず,もっと積極的な意味がある考える見解もあります。
例えば,総合調整機関説によれば,「国権の最高機関性」には,国会が三権相互の関係を総合調整する地位にあり,所轄不明の国家権力はすべて国会に帰属することになる,という積極的な意味が含まれていると解することになります。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
憲法と資格試験
憲法は、国家の基本法です。そのため、司法試験(本試験)、司法試験予備試験、司法書士試験、公務員試験などの試験科目になっています。
憲法は「入口は広いが、出口は狭い」と言われることがあります。抽象的な議論が多いため、比較的取っつきやすい反面、学習が進むほどイメージをつかみづらく難解に感じるようになるということです。
独学では「本当にこの解釈で正しいのか?」と不安になることもあるかもしれません。効率的に試験対策をするには、予備校や通信講座などを利用するのもひとつの方法でしょう。
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参考書籍
憲法を深く知りたい方やもっと詳しく勉強したい方のために、憲法の参考書籍を紹介します。
憲法(第八版)
著者:芦部信喜 出版:岩波書店
憲法を勉強する人は全員読んでいるのではないかというくらい定番中の定番。著者が亡くなられてからも、改訂され続けています。不足する知識は他の本などで補えばよいだけなので、資格試験受験の基本書としても十分。憲法を勉強するなら読んでおかなければいけない本です。
日本国憲法論(第2版)
著者:佐藤幸治 出版:成文堂
憲法学の第一人者による概説書。レベルは高いです。初学者向きではありません。しかし、通説的見解とは異なる視点から論考されており、憲法の理解を深めることができます。
憲法(第五版)
編集:樋口陽一 出版:勁草書房
こちらも憲法学(特に比較憲法学)の第一人者による概説書。あまり受験向きではないかもしれませんが、より深く憲法を理解したいのであれば、読んでおくべき本です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
基本憲法Ⅱ 総論・統治
著者:木下智史ほか 出版:日本評論社
初学者からでも使えるテキスト。資格試験受験生向けに書かれているため、非常に読みやすい本です。司法試験以外でも使えると思えます。
憲法Ⅱ 総論・統治(第2版)
著者:渡辺康行ほか 出版:日本評論社
2分冊の体系書。共著ですが、内容に矛盾は感じません。ただし、初学者向きではありません。知識量は十分なので、辞書代わりに使えます。
憲法(第4版)伊藤真試験対策講座5
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、分かりやすくまとまっています。知識量も十分です。学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。