共同抵当の配当の方法には「同時配当」と「異時配当」があります。
共同抵当における同時配当とは,共同抵当が設定されている複数の不動産等を同時に売却する実行方法です(民法392条1項)。共同抵当における異時配当とは,共同抵当が設定されている不動産のうちの一部のみ売却して配当を受け,不足がある場合に,別の不動産を売却して配当を受けるという方法です(民法392条2項)。
共同抵当における配当
民法 第392条
第1項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。
第2項 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
抵当権とは,債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産等について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことをいいます(民法369条)。
抵当権によって担保される債権のことを「被担保債権」といいます。
債権者としては,複数の不動産等を担保としておいた方がより被担保債権の回収が確実になることは間違いありません。
そこで,1個の被担保債権の担保として,複数の不動産等に抵当権を設定することができるとされています。これを「共同抵当」といいます。
共同抵当権者は,複数の共同抵当目的物の抵当権全部を同時に実行することもできますし,また,共同抵当目的物のうちのどれか一部の抵当権のみ実行することもできます。
共同抵当が設定されている複数の不動産等を同時に売却する場合のことを「同時配当」といいます(民法392条1項)。
これに対し,共同抵当が設定されている不動産のうちの一部のみ売却して配当を受け,不足がある場合に,別の不動産を売却して配当を受けることを「異時配当」といいます(民法392条2項)。
同時配当
前記のとおり,共同抵当における同時配当とは,共同抵当が設定されている複数の不動産等を同時に売却する実行方法です(民法392条1項)。
共同抵当目的物の全部の価額を合計しても被担保債権額に満たない場合には,共同抵当権者は,すべての共同抵当目的物の代価を配当として受けることになります。
他方,共同抵当目的物全部の価額を合計すると被担保債権額を上回るという場合には,各不動産の価額に応じて債権の負担が按分されます。按分とは,不動産の価額比例して,債権に割り付けるということです。
例えば,債権者Xは,債務者Yに対し,3000万円の債権を有しており,その債権を担保するために,Yが所有する甲不動産(換価価値4000万円)と乙不動産(換価価値2000万円)に共同抵当を設定していたとします。
この事例において,Yからの弁済がないため,Xが甲不動産と乙不動産の共同抵当を同時配当の方法で実行すると,甲不動産と乙不動産の合計価額が被担保債権額を上回っているので,Xは,甲不動産と乙不動産の価額に応じて,その債権の負担を按分することになります。
具体的には,3000万円の被担保債権について,換価価値4000万円の甲不動産と換価価値2000万円の乙不動産とで負担を按分することなるので,甲不動産からは2000万円,乙不動産からは1000万円の配当を受けることになります。
異時配当
前記のとおり,共同抵当における異時配当とは,共同抵当が設定されている不動産のうちの一部のみ売却して配当を受け,不足がある場合に,別の不動産を売却して配当を受けるという方法です(民法392条2項)。
例えば,債権者Xは,債務者Yに対し,3000万円の債権を有しており,その債権を担保するために,Yが所有する甲不動産(換価価値4000万円)と乙不動産(換価価値2000万円)に共同抵当を設定していたとします。
この場合,Xが甲不動産の抵当権を実行した場合,Xは,甲不動産から3000万円全額の配当を受けることができます。
他方,Xが先に乙不動産の抵当権を実行した場合,Xは乙不動産から2000万円の配当を受けますが,それだけでは被担保債権に不足しているので,さらに甲不動産の抵当権も実行して,甲不動産から残りの1000万円の配当を受けることができます。
複数の不動産のうちのどれから抵当権を実行するかは,共同抵当権者の自由です。
前記の例のように,甲不動産を先に実行すれば,Yは乙不動産は失わないで済みますが,乙不動産から先に実行されると,Yは甲不動産も乙不動産も失うことになってしまいます。
しかし,Y自ら,甲乙両方の不動産を共同抵当に供している以上,それはやむを得ないでしょう。
もっとも,共同抵当不動産に後順位抵当権者がいる場合や,共同抵当不動産が物上保証人によって供されたものである場合には,それら後順位抵当権者や物上保証人の利益も考慮する必要があります。
共同抵当目的物に後順位抵当権者がいる場合
共同抵当が設定されている不動産等に,後順位抵当権者がいる場合には,その後順位抵当権者の利益も考慮しなければなりません。
共同抵当が設定されている不動産のどれかに共同抵当権者に劣後する後順位抵当権者がいる場合,共同抵当権者が同時配当を選ぶのか異時配当を選ぶのかによって後順位抵当権者の受けられる利益が変わってしまうとすると,後順位抵当権者に不測の不利益を与えてしまいます。
例えば,前記同様,債権者Xは,債務者Yに対し,3000円の債権を有しており,その債権を担保するために,Yが所有する甲不動産(換価価値4000万円)と乙不動産(換価価値2000万円)に共同抵当を設定していたという事例で考えます。
この事例において,Xのほか,Yに対して2000万円の債権を有する債権者Zがおり,そのZが,乙不動産に,Xの共同抵当に劣後する二番抵当権を設定していた場合に,Xが,共同抵当を同時配当の方法により実行したとします。
この場合,Xは,甲不動産から2000万円,乙不動産から1000万円の配当を受け,Zは,乙不動産から残余の1000万円の配当を受けることになります。
他方,Xが,乙不動産から先に異時配当した場合,Xは乙不動産から2000万円全額の配当を受け,Zは,乙不動産から配当を受けることがまったくできなくなってしまいます。
しかし,Xが同時配当を選ぶか異時配当を選ぶかによって,後順位抵当権者が受ける配当額が変わってしまうのでは,後順位抵当権者の利益を害してしまいます。
そこで,共同抵当権者が異時配当の方法を選択して特定の不動産のみ売却した場合,その不動産の後順位抵当権者は,共同抵当権者が同時配当の場合に受けたであろう金額に達するまで,共同抵当権者が他の不動産について有している抵当権に代位することができるものとされています(民法392条2項後段)。
上記事例であれば,Zは,乙不動産から回収できなくなる1000万円について,Xの有する甲不動産の抵当権に代位して,甲不動産から1000万円を回収できることになります。
共同抵当目的物のうちに物上保証人がいる場合
共同抵当の目的物のうちに,債務者でない者(物上保証人)が所有する不動産等が含まれていることがあります。この場合には,物上保証人の利益も考慮する必要が生じます。
例えば,債権者Xは,債務者Yに対し,3000万円の債権を有しており,その債権を担保するために,Yが所有する甲不動産(換価価値4000万円)と物上保証人Aが所有する乙不動産(換価価値2000万円)に共同抵当を設定していたとします。
この場合,Xが異時配当を選択し,甲不動産から共同抵当を実行したとすれば,Xは甲不動産から3000万円全額を回収できるので,乙不動産が売却されず,Aは不利益を被らずに済みます。
しかし,Xが同時配当を選択すると,Xは,甲不動産から2000万円,乙不動産から1000万円の配当を受けることになり,Aは1000万円の財産を失うという不利益を被ります(乙不動産の売却代金残額1000万円はAに支払われます。)。
また,Xが異時配当を選択し,乙不動産から共同抵当を実行すると,Xは,乙不動産から2000万円,甲不動産から1000万円を回収することになり,Aは2000万円の財産全部を失うという不利益を被ります。
抵当権者が同時配当を選択するか異時配当を選択するか,またはどの共同抵当目的物のどれから共同抵当を実行するかにより,物上保証人が被る不利益の程度が異なるというのでは,物上保証人に不測の損失を与えてしまいます。
そこで,共同抵当目的物のうちのいずれかに物上保証人所有の不動産等が含まれている場合,抵当権者の選択によって物上保証人の不動産等が売却されたときには,物上保証人は,弁済による代位(民法500条,501条)により,他の共同抵当目的物に代位することができます。
上記同時配当の事例では,Aは,Xを代位して,甲不動産から1000万円の支払いを受けることができ,乙不動産を先に実行した異時配当の事例では,甲不動産から2000万円の支払いを受けることができることになります。
なお,Xが同時配当や乙不動産から異時配当を選択した場合,物上保証人Aは,代位によって金銭的な穴埋めは可能であるものの,自己の所有する乙不動産を失うことにはなってしまいます。
しかし,物上保証人として不動産を提供している以上,不動産を失うことになるのはやむを得ません。したがって,共同抵当権者は,物上保証人所有の不動産から異時配当をすることも可能とされています。
共同抵当権者と物上保証人の代位の優先関係
上記のとおり,物上保証人は,その担保に供している物を失った場合,弁済による代位をすることができます。
とはいえ,物上保証人は,一定の不利益を被る可能性があることを認識しつつ,担保目的物を提供しています。それにもかかわらず,常に物上保証人の利益が最優先されるとしては,担保の意味がありません。
そのため,共同抵当の目的物について,共同抵当権者と物上保証人の利益が衝突する場合には,やはり,債権者・共同抵当権者の利益が優先されると解すべきでしょう。
例えば,債権者Xは,債務者Yに対し,8000円の債権を有しており,その債権を担保するために,Yが所有する甲不動産(換価価値4000万円)と物上保証人Aが所有する乙不動産(換価価値2000万円)に共同抵当を設定していたとします。
この場合,Xが異時配当の方法により乙不動産を売却して2000万円を回収したとしても,Aは,Xに代位して甲不動産から失った2000万円を回収することはできません。
なぜなら,Xは,まだ債権の全額について満足を得ていませんから,さらに甲不動産を売却して4000万円を回収することができるため,Aの代位を認めると,債権者であるXの利益を害してしまうからです。
この点については,債権の一部につき代位弁済がされた場合,債権を被担保債権とする抵当権の実行による競落代金の配当については,代位弁済者は債権者に劣後するとした最高裁判例があります(最一小判昭和60年5月23日)。
物上保証人の代位と後順位抵当権者の代位
前記のとおり,共同抵当が実行され,所有する不動産が売却された場合,物上保証人は,他の不動産に代位することができます。
もっとも,共同抵当の目的物に後順位抵当権者がいる場合には,その後順位抵当権者の利益も考慮しなければなりません。
そこで,共同抵当において,物上保証人と後順位抵当権者がいる場合に,そのいずれを優先すべきかが問題となることがあります。
この点について,まず,共同抵当として,物上保証人が提供した担保目的物のほか,債務者所有の担保目的物もあり,その債務者所有の担保目的物には共同抵当に劣後する後順位抵当権が設定されている場合において,物上保証人の提供した担保目的物が競売されたときは,物上保証人の代位が後順位抵当権者の利益に優先すると解されています(大判昭和4年1月30日、最一小判昭和44年7月3日等)。
なぜなら,物上保証人は,債務者において他に担保があるため,それに代位できるという期待を持って担保を提供しているからです。
また,物上保証人の提供した担保目的物に,共同抵当のほか,これに劣後する後順位抵当権が設定されていた場合において,その物上保証人の提供した担保目的物が競売されたときも,物上保証人の代位が後順位抵当権者の代位に優先すると解されています。
この場合も,物上保証人の他に担保があるという期待を保護する必要があるからです。
他方,共同抵当として,物上保証人が提供した担保目的物のほか,債務者所有の担保目的物もあり,債務者所有の担保目的物にも,物上保証人が提供した担保目的物にも,それぞれ共同抵当に劣後する後順位抵当権が設定されている場合において,物上保証人の提供した担保目的物が競売されたときは,物上保証人の提供した担保目的物の後順位抵当権者による代位の方が,物上保証人の代位よりも優先されると解されています(前掲最一小判昭和60年5月23日)。
この場合には,物上保証人は自ら,自己の担保目的物に後順位抵当権を設定しているので,その後順位抵当権者よりも保護されるべき理由がないからです。