抵当権とは?

抵当権の画像

抵当権とは,債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産等について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことをいいます(民法369条)。抵当権によって担保される債権のことを被担保債権といいます。

抵当権は,担保の提供者(抵当権設定者)と被担保債権の債権者(抵当権者)との間の抵当権設定契約によって効力を生じます。ただし,抵当権の効力を第三者に対抗するためには,抵当権設定登記を具備している必要があります。

抵当権とは

民法 第369条
第1項 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
第2項 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては,この章の規定を準用する。

借金などの債務を負担する際,その借金を担保するために,所有している不動産を「抵当に入れる」ことがあります。「抵当に入れる」とは,法的に言えば,その不動産に「抵当権」を設定するということです。

抵当権は,担保物権という権利の1つです。

すなわち,抵当権とは,債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産等について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことをいいます(民法369条)。

抵当権の場合,担保となる不動産の占有は移転しません。

つまり,抵当権を設定した後も,担保に取られてはいますが(「経済的価値を把握されている」などと言うこともあります。),その不動産の所有者である債務者または第三者がその不動産の利用を継続できるということです。

なお,抵当権によって担保される債権のことを「被担保債権」といい,その被担保債権について抵当権を設定している債権者のことを「抵当権者」といいます。

これに対し,抵当権を有していない債権者のことを,抵当権者と区別して「一般債権者」または「無担保債権者」と呼び,一般債権者の有する債権のことを「一般債権」または「無担保債権」と呼ぶことが有ります。

また,債務者自身ではなく,第三者が提供した不動産等に抵当権が設定された場合,その担保を提供した第三者のことを「物上保証人」と呼んでいます。

そして,不動産等を提供する債務者や物上保証人のことを「抵当権設定者」といいます。

抵当権設定の具体例

よくある抵当権設定の事例は住宅ローンでしょう。

住宅ローン会社から住宅ローンを借りて不動産を購入する場合,その住宅ローンの返済を担保するために,その住宅ローン債権を被担保債権として,購入した住宅不動産に抵当権が設定されるのが通常です。

抵当権が設定されても占有は移転しませんから,債務者は,その住宅不動産を利用できます。

もっとも,住宅ローンの支払いが滞った場合,抵当権を有している住宅ローン会社は,その住宅不動産を競売(一般的には「きょうばい」と読まれますが,正式には「けいばい」と読みます。)にかけて,競売による売却代金から優先的に返済を受けることができます。

また,競売ではなく,債務者が自分で不動産を任意売却した場合も,任意売却による売却代金から優先的に返済を受けることができます。

抵当権の法的性質

抵当権には,以下の法的性質があります。

  • 付従性
  • 随伴性
  • 不可分性
  • 物上代位性

付従性とは,抵当権は被担保債権の担保のために存在する従たるものであり,被担保債権が成立していなければ抵当権も成立せず,被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅するという性質のことです。

随伴性とは,抵当権は被担保債権の移転に随伴するという性質のことです。被担保債権が第三者に債権譲渡されると,抵当権も被担保債権と一緒に第三者に移転することになります。

不可分性とは,被担保債権の全額の弁済を受けるまで,抵当権の目的物の全部について抵当権を実行できるという性質のことです。したがって,一部弁済しただけでは,抵当権の実行を回避できません。

物上代位性とは,抵当権の目的物が滅失した場合であっても,その滅失によって債務者が受けることができる代位物があれば,その代位物に対しても抵当権の効力が及ぶという性質のことです。

抵当権の優先弁済的効力(優先弁済効)

抵当権の中心となる効力は,優先弁済的効力(優先弁済効)です。

抵当権の優先弁済的効力とは,抵当権の目的物について,他の債権者に先立って被担保債権の弁済を受けることができる効力のことです。

例えば,債務者甲さんには,債権者として,1000万円の債権を有するA社,2000万円の債権を有するB社,3000万円の債権を有するC社がおり,このうちA社だけ,甲さん所有の不動産に抵当権を設定して登記をしていたとします。

甲さんがこの不動産を800万円で売却した場合,当該不動産に抵当権を設定していたA社が優先的に弁済を受けることができるので,売却代金800万円は全額A社に支払われることになります。

一般債権者(無担保債権者)であるB社とC社に対しては,売却代金の分配はありません。

なお,A社は債権1000万円のうち800万円の優先弁済を受けたものの,200万円はまだ未払いです。A社は,この200万円の債権について一般債権者となります。

抵当権の対抗要件

上記のとおり,抵当権者は,優先弁済効を一般債権者に主張して,一般債権者よりも優先して弁済を受けることができます。ただし,それができるのは,抵当権設定登記を具備している場合だけです。

抵当権は,登記を対抗要件としています(不動産登記法83条1項)。

したがって,抵当権について登記をしていない場合,その抵当権の効力を第三者に対抗できません。「対抗できない」というのは,要するに主張できないというほどの意味です。

前記ABC社の例でも,仮にA社が抵当権設定登記を具備していなかったならば,B社やC社に優先して弁済を受けることはできないことになります。

なお,登記がない場合,第三者に対しては抵当権を対抗できませんが,抵当権を設定した本人である債務者または物上保証人に対しては,登記がなくても抵当権を対抗できます。

抵当権の効力の及ぶ範囲

我が国の民法では,土地建物は別個の不動産とされています。

したがって,土地に設定された抵当権の効力は,その土地上にある建物には及びませんし,逆に,建物に設定された抵当権の効力は,その建物が建っている土地には及びません。

もっとも,抵当権の効力は,抵当権が設定されている不動産に「付加して一体となっている物(付加一体物)」には及ぶとされています(ただし,上記のとおり,土地に抵当権が設定されている場合のその土地上の建物は除きます。民法370条本文)。

例えば,土地の石垣や建物の造作など「不動産に従として付合した物(付合物。民法242条本文)」は,他人が権原によって附属された物(同条ただし書)を除いて,付加一体物に含まれます。

建物に備え付けられた畳や障子などの「従物」も付加一体物に含まれると解されています。

また,抵当権の設定された不動産を賃貸して得た家賃・賃料などの「法定果実」にも,その抵当権の効力が及びます(民法371条)。

例えば,抵当権が設定されている建物が,そこに備え付けてあった畳や障子ごと売却された場合,建物と備え付けの畳や障子の売却代金両方に対して抵当権の効力が及び,抵当権者はその両方の売却代金から優先弁済を受けることができるということです。

抵当権の順位

前記ABC社の例は,抵当権者と一般債権者との関係でした。それでは,抵当権者が複数いる場合はどうなるのでしょうか。

1個の不動産に複数の抵当権を設定することは可能です。

もっとも,1個の不動産に複数の抵当権が設定される場合,各抵当権には優先順位が付けられます。この順位は,抵当権設定登記の先後によって決まります(民法373条)。つまり,早い者勝ちです。

1番最初に登記をした抵当権者は「1番抵当権者」,2番目に登記をした抵当権者は「2番抵当権権者」,3番目に登記をした抵当権者は「3番抵当権者」・・・というように順位が付くことになります。

抵当権が設定された不動産等が売却された場合,その売却代金は,高順位の抵当権者から優先的に弁済を受けていきます。

例えば,前記ABC社の例(A社1000万,B社2000万,C社3000万)で,ABC三社とも甲さん所有の不動産に抵当権を設定しており,その順位は,A社が1番抵当権者,B社が2番抵当権者,C社が3番抵当権者であったとします。

この事例で,不動産が800万円で売却された場合,その売却代金は,すべて1番抵当権者であるA社に支払われ,抵当権があっても後順位であるB社とC社には分配されません。

不動産が2000万円で売却された場合であれば,まず1番抵当権者であるA社に対して1000万円全額が支払われ,2番抵当権者であるB社に対して残りの1000万円が支払われることになります。

C社にはやはり分配はありません。この事例でC社に対して支払いがなされるためには,A社およびB社の債権が全額完済できる3000万円を超える金額で売却されなければならないということです。

なお,抵当権の順位は,各抵当権者間の合意によって変更することができます(民法374条)。

抵当権の設定

前記のとおり,不動産等を「抵当に入れる」というのは,抵当権を設定するということです。

「抵当権を設定する」とは,債務者や物上保証人が,被担保債権の債権者のために不動産等を担保として提供することをいいます。

抵当権を設定するためには,債務者や物上保証人など(抵当権設定者)と被担保債権の債権者(抵当権者)との間で抵当権設定契約を締結する必要があります。

つまり,抵当権は,法律上当然に生じるのではなく,当事者の合意によって発生する約定担保物権です。

なお,抵当権それ自体は,登記がなくても,抵当権設定契約のみで生じます。ただし,登記がなければ,第三者に対して抵当権を対抗することはできません。

抵当権に基づく物権的請求権

例えば,抵当権が設定されている不動産を,いわゆる占有屋などまったくの第三者が占有してしまうような場合があります。

占有屋等が居座ると,抵当権を実行して売却することが難しくなり,債権の優先弁済が害されますし,場合によっては,抵当不動産の価値自体が減少してしまうおそれもあります。

このように抵当権が侵害された場合,抵当権者は,侵害者に対し,抵当権に基づく物権的妨害排除請求権を行使して,抵当権に対する妨害の排除を請求できると解されています(最一小判平成17年3月10日)。

加えて,上記判例によれば,物権的妨害排除請求が認められた場合,抵当権者は,その抵当不動産等を自己に明け渡すよう求めることもできると解されています。

例えば,抵当不動産を占有屋が占拠している場合,抵当権者は,抵当権に基づく物権的妨害排除請求権を行使して,その占有屋に対し,当該不動産から退去して抵当権者自身にその不動産を明け渡すよう請求できるということです。

また,抵当権者は,上記物権的妨害排除請求のほか,抵当権の侵害者に対して,不法行為に基づく損害賠償を請求することもできます(民法709条)。

抵当権の実行

被担保債権の支払われない場合,抵当権者は,抵当権を実行することができます。「抵当権の実行」とは,実際に抵当権を行使して債権回収を図ることを意味します。

具体的に言えば,抵当権の実行とは,抵当権の設定された不動産等を担保不動産競売の手続にかけるということです(民事執行法180条以下)。

競売によって不動産等が売却された場合,抵当権者は,その売却代金から優先的に弁済を受けることができます。

また,競売のほか,担保不動産収益執行といって,抵当不動産を売却せずに,それを債務者または物上保証人のもとに残したまま,その抵当不動産から得られる賃料等の収益を抵当権者が回収するという抵当権の実行の方法もあります。

なお,債務者等が抵当不動産を任意売却する場合は,抵当権の実行そのものとは言えませんが,競売と同様,抵当権者はその売却代金から優先弁済を受けることができるので,その意味では抵当権の実行の1つともいえます。

抵当権の消滅

前記のとおり,抵当権には付従性があります。したがって,被担保債権が弁済等によって全部消滅した場合,抵当権も消滅します。

ただし,抵当権には不可分性がありますから,被担保債権の一部だけ弁済等により消滅したとしても,抵当権自体は消滅しません。

なお,抵当不動産の所有権または地上権を第三者が買い受けた場合,抵当権者は,その買受人に対し,代価の弁済を請求でき,買受人がその代価を弁済したときには,抵当権は消滅します(民法378条)。

また,抵当不動産の所有権を第三者が買い受けた場合には,その買受人は,抵当権者に対して,売却の代価または特に指定した金額を支払うことを条件として抵当権を消滅させるよう請求することができます(民法379条)。

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