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冒頭ゼロ計算(残高無視計算)で算出した過払金は訴訟で認められるのか?

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貸金業者から取引履歴の一部が開示されない場合、冒頭ゼロ計算(残高無視計算)を行って債務残高や過払い金を算定することがあります。冒頭ゼロ計算で算出した過払金を訴訟で返還請求した場合、冒頭ゼロ計算の合理性が争われることになります。

ゼロ計算(残高無視計算)とは

冒頭ゼロ計算(残高無視計算)とは,取引履歴が一部しか開示されない場合に,その一部開示の取引履歴の冒頭部分に記載のある借入残高を0円として(つまり,取引履歴記載の冒頭残高の記載を無視して),その他の記載だけをもとに引き直し計算を行うことをいいます。

例えば,本当は平成元年1月1日から取引をしていたにもかかわらず,貸金業者からは平成5年1月1日からしか取引履歴が開示されなかったとします。

この場合,平成元年1月1日から平成4年12月31日までの取引経過は開示されていませんから,取引履歴の冒頭部分には,平成5年1月1日時点での残高●●円というように,取引履歴の最初からいきなり残高があるという形になってしまっています。

ゼロ計算とは,つまり,この一部開示の取引履歴の冒頭残高,上記の例で言えば,平成5年1月1日時点での残高●●円を無視して(0円にして)引き直し計算をしようというものです。

ゼロ計算(残高無視計算)の立証責任

この冒頭ゼロ計算をめぐっては,冒頭残高の立証責任が消費者側と貸金業者側のどちらにあるのかという点で争いがあります。

貸金業者側に冒頭残高の立証責任があるとする考え方

貸金業者には取引履歴の開示義務があります。

それにもかかわらず,全部の取引履歴を開示しないのですから,貸金業者に非があるといえますし,消費者に立証責任を課すことは貸金業者に取引履歴開示義務を認めた趣旨に沿いません。

また,通常の貸金請求の場合ですと,貸金請求権があることの主張立証は貸金業者がしなければなりません。

一部開示の取引履歴の冒頭の債務残高とは,まさにこの貸金請求権の主張に等しいものですから,これの立証責任を消費者に課すことは,貸金請求権(がないこと)の立証責任をも消費者に課すことになってしまいます。

さらに,上記冒頭残高は,あくまで約定の残高です。利息制限法所定の制限利率を超える利率での契約であった場合,その約定残高が法律上正しいものではないことは明らかです。

したがって,裁判所は,その法律上正しくない冒頭残高の金額を前提とした引き直し計算の結果を認定することはできないはずなのです。

それをしてしまえば,裁判所が違法な約定残高を認めてしまうのに等しいからです。

以上のように考えるならば,冒頭残高の立証責任は貸金業者にあるというべきでしょう。

そして,仮に貸金業者でそれを立証できないならば冒頭残高を認定できませんので,結局,冒頭残高は無かった,つまり0円であるということになるはずです。冒頭ゼロ計算はそういう考え方を前提としています。

消費者側に冒頭残高が0円であることの立証責任があるとする考え方

他方,消費者側に冒頭残高を0円とすることの立証責任を課すという考え方もあります。 冒頭残高を0円とすることについて,冒頭残高を「無視する」のではなく,「0円と推定する」という考え方です。

冒頭残高を0円であると推定すると考える以上,冒頭残高は0円であると主張する消費者の方で,その0円と推定する根拠・合理性を立証・立証しなければならないということになります。

裁判実務の考え方

裁判例には,冒頭残高の立証責任について,貸金業者に立証責任があるとしたものと消費者に0円と推定することの立証責任があるとしたもののいずれもがあります。

しかし,残念ながら,多くの裁判官は,0円と推定することの根拠を消費者が立証しなければならないという考え方をとっています。

単に冒頭残高の立証責任は貸金業者側にあると主張するだけでは,冒頭ゼロ計算は認められない場合が多いでしょう。

実務上は,消費者側において0円と推定することの根拠を立証していかなければならない場合が多いと思われます。

そのため,このゼロ計算・残高無視計算のことを「ゼロ推定計算」とか「ゼロ推認計算」などと呼ぶ場合もあります。

もっとも,前記のとおり,立証責任を消費者側にあるとすることについては,貸金業者の取引履歴開示義務や貸金請求権の主張立証責任などとの整合性,約定残高を前提とした引き直し計算の結果を認定できるのかなどの問題もあります。

そこで,実際には,冒頭残高を0円と推定することの立証責任が消費者にあるとしつつも,一部開示の取引履歴の冒頭の取引日よりも数年前から取引があったことを示す資料(契約書,領収書,請求書,預金口座の履歴など)が一部でも残っていれば,貸金業者から合理的な反論がなされない限り,0円と推定することの立証がなされたものとして取り扱われることが多いでしょう。

裁判における立証・証拠

前記のとおり,冒頭残高が0円であると推定することができることの根拠は,消費者の側で立証しなければならないという場合が大半です。そこで,その立証方法を検討する必要があります。

この冒頭ゼロ計算(残高無視計算・ゼロ推定計算)立証において最も重要なことは,いつの時点から取引を開始したのかという点です。

一般的にいって,利息制限法所定の制限利率を超える利息を支払いながら貸金業者と取引をしていた場合,だいたい5年から7年ほどで,約定の残高は0円(または過払い)となると考えられています。

したがって,取引履歴の冒頭に記載されている日付よりも5年から7年程度(金額によってはもっと短い期間という場合もあります。)以前から開始されていることを明らかにできれば,冒頭残高が0円となっている可能性が高いということを推定させる重要な事実ということになるでしょう。

具体的にいえば,契約書,領収書,請求書または取引における貸金や返済が記載されている銀行預金の通帳の履歴などを証拠として提出し,5年から7年以上前に取引をしていたことを立証することになるでしょう。

もちろん,取引開始時期だけでは,冒頭残高が0円であったとはいえません。それまでにどのような取引がなされていたのかということも,ある程度立証する必要があるでしょう。

この点については,可能であれば,どのような取引であったのかという証拠,特に毎月どのくらい返済していたのかという証拠があれば,より説得力が増すでしょう。

どのような契約条件であったのかを証明するために,契約書などがあればなおさら有効です。

以上のような立証が可能であれば,裁判においてもゼロ計算・残高無視計算が認められる可能性は高いといえます。

もっとも,そのようにさまざまな証拠がない場合でも,5年から7年以上前に取引があったことを立証できれば,それだけでゼロ計算・残高無視計算が認められるという場合もあります。

ゼロ計算はあくまで「推定」です。したがって,冒頭残高が0円となることについて完全に立証する必要まではありません。

0円と推定できるだけの根拠をいくつか示すことが可能であれば,ゼロ計算が認められることがあり得るでしょう。

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