
過払金返還請求権の消滅時効の起算点となる「権利を行使することができる時」は「取引終了時」であると解されています(最一小判平成21年1月22日)。
取引が分断している場合であっても,過払金充当合意が認められ,分断した複数の取引を一連充当計算できるときには,すべての取引を通算しての取引終了時を「権利を行使することができる時」として扱うことができると解されています(上記判例)。
過払金返還請求における取引の分断と消滅時効
過払金返還請求における大きな争点として,取引の分断・取引の一連性の問題と過払金返還請求権の消滅時効の問題があります。
取引の分断(取引の一連性)の問題とは,ある貸金業者から借入れをして完済した後に,一定の中断期間(空白期間)をおいて,再び借入れをして取引を再開したという場合に,この中断期間を経て分断している取引をすべて一連の取引として,一連計算することができるのかという問題です。
また、過払金返還請求権は「権利を行使することができる時から10年間」または「権利を行使することができることを知った時から5年間」のいずれか早い方の期間が経過すると時効により消滅します(民法166条)。
過払金返還請求権において、この消滅時効期間の起算点をどの時点と考えるのか,つまり,「権利を行使することができる時」や「権利を行使することができることを知った時」とは具体的にいつなのかが争点となります。
この2つの問題は,それぞれ別個の問題ではありますが,両者が密接に関連してくる場合もあります。
取引の分断と過払金返還請求の消滅時効の問題が関連する事例
過払金返還請求権の「権利を行使することができる時」は,取引終了時と解されています(最一小判平成21年1月22日。この判例は民法改正前のものですが,現在の改正民法下においても妥当すると思われます。)。
したがって,取引終了時から10年間を経過すると,過払い金返還を請求できなくなってしまいます。
ここで問題となってくるのが,取引が分断している場合です。
例えば、貸金業者から借入れをして完済したことにより過払い金が発生しました。しかし、過払金が発生していることを知らずに再び借入れをしたことにより新たな取引が発生しました。
この場合に、分断前の取引の終了時からすでに10年経過しているものの、分断後の取引の終了時からはまだ10年が経過していないという場合があります。
過払金返還請求権の消滅時効の起算点を分断前の取引の終了時と考えると、すでに10年を経過しているので、過払金は時効により消滅していることになります。
他方、分断後の取引の終了時を起算点と考えると、まだ10年を経過していないので、過払金返還請求できることを知ってから5年を経過していないのであれば、過払金返還を請求することができることになります。
そのため、取引が分断している場合に、分断前と分断後のどちらの取引終了時を過払金返還請求権の消滅時効の起算点と考えればよいのかが問題となってきます。
取引が分断している場合の過払金返還請求権の消滅時効の起算点
前記のように、取引が分断している場合に、分断前の取引の終了時から10年を経過しているものの、分断後の取引終了時からはまだ10年経過していないというときに、過払金返還請求権の消滅時効の起算点をどの時点とすべきかが問題となってきます。
この点について、前記最一小判平成21年1月22日は、過払金充当合意が認められ、分断前の取引と分断後の取引とを1個の一連取引と評価できる場合には、全取引を通算しての取引終了時(分断後の取引の終了時)を過払金の消滅時効の起算点とするという判断をしています。
したがって、取引が分断している場合における過払金返還請求権の消滅時効の起算点は、全体を1個の取引と評価できるかどうかによって異なるということです。
全体を1個の一連取引と評価できる場合には、全取引の終了時が過払金返還請求権の消滅時効の起算点となります。
前記の例であれば、分断後の取引の終了時が起算点となるので、まだ10年を経過していません。したがって、過払金返還請求できることを知ってから5年を経過していないのであれば、過払金返還請求が可能です。
他方、1個の一連取引と評価できない場合には、個々の取引の終了時が起算点となります。
前記の例であれば、分断前の取引の終了時が起算点となるので、すでに10年を経過しており、過払金返還請求は時効によって消滅していることになります。
このように,過払金の消滅時効の起算点には、分断した取引を1個の一連取引と評価できるのか、つまり、分断した取引を一連計算できるのかによって結論が異なることがあるのです。