この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

無異議債権とは、再生手続における再生債権の認否において、一般異議申述期間または特別異議申述期間を経過するまでに、再生債務者または他の再生債権者から異議を述べられなかった届出再生債権のことをいいます(民事再生法230条8項)。
評価済債権とは、再生手続における裁判所による再生債権評価手続によって債権の存否や金額が定められた届出再生債権のことをいいます(同項)。
無異議債権・評価済債権の金額は、個人再生における最低弁済額を定めるための基準になります。また、無異議債権・評価済債権を有する再生債権者は、小規模個人再生における再生計画案に対する決議の議決権者となります。
個人再生における再生債権
民事再生法 第84条
- 第1項 再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(共益債権又は一般優先債権であるものを除く。次項において同じ。)は、再生債権とする。
- 第2項 次に掲げる請求権も、再生債権とする。
- 第1号 再生手続開始後の利息の請求権
- 第2号 再生手続開始後の不履行による損害賠償及び違約金の請求権
- 第3号 再生手続参加の費用の請求権
個人再生を申し立てる目的は、借金などの債務を減額した上で分割払いにするという内容の再生計画を策定し、その再生計画を裁判所に認可してもらうところにあります。
もっとも、どのような債権・債務でも減額できるわけではありません。個人再生で減額されるのは「再生債権」です。
再生債権とは、再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(共益債権または一般優先債権であるものを除く。)のことをいいます(民事再生法84条)。
この再生債権のうち一定の手続を経たものの中に「無異議債権」や「評価済債権」と呼ばれるものがあります。
無異議債権や評価済債権という用語は、民事再生法中にも、また実際に個人再生手続を進めていくうちにも、たびたび出てきますから、その意義を知っておく必要はあるでしょう。
無異議債権とは
民事再生法 第230条
- 第8項 届出再生債権者は、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかった届出再生債権(第226条第5項に規定するものを除く。以下「無異議債権」という。)については届出があった再生債権の額又は担保不足見込額に応じて、第227条第7項の規定により裁判所が債権の額又は担保不足見込額を定めた再生債権(以下「評価済債権」という。)についてはその額に応じて、それぞれ議決権を行使することができる。
個人再生手続においては、個人再生の申立てがなされ、審査の結果、申立てに理由があると判断した場合、裁判所は、再生手続開始の決定をします。
そして、それに伴って、再生手続開始の申立書に添付された債権者一覧表の記載に基づき、各再生債権者に対し、再生債権を届け出るよう通知します。
この裁判所からの通知に対し、各再生債権者は、再生債権の届出を行います(なお、届出がなくても、債権者一覧表に記載されている再生債権については、その債権者一覧表の記載内容どおりの届出があったものとみなされます。民事再生法225条、244条)。
届出がされた(みなし届出を含む。)再生債権のことを「届出再生債権」といい、その再生債権を有する債権者のことを「届出再生債権者」といいます。
届出再生債権に対し、再生債務者はその届出内容を認めるか認めない(異議を述べる)かの認否を行います。再生債権者も、自分以外の再生債権について認否をすることができます。
この再生債権の認否において、再生債務者も他のどの再生債権者も、一般異議申述期間または特別異議申述期間を経過するまでに異議を述べなかった届出再生債権のことを「無異議債権」といいます(民事再生法230条8項)。
評価済債権とは
前記再生債権の認否において、再生債務者または再生債権者が異議を述べた場合、異議を述べられた再生債権者は、裁判所に対し、異議申述期間の末日から3週間以内であれば、再生債権評価の申立てをすることができます(民事再生法227条1項、244条)。
ただし、その異議を述べられた債権が、執行力のある債務名義又は終局判決のあるものである場合には、その債権の債権者ではなく、異議を述べた者が再生債権評価申立てをしなければならず、異議申述期間の末日から3週間以内に申立てをしなかった場合には、異議はなかったものとみなされるとされています(民事再生法227条2項、244条)。
再生債権評価申立てを受けた裁判所は、再生債権評価手続を行って、異議を述べられた再生債権について評価の決定をし、その再生債権の存否や額を確定させます。
この裁判所による再生債権評価手続によって債権の存否や金額が定められた届出再生債権のことを「評価済債権」といいます(民事再生法230条8項)。
無異議債権・評価済債権と最低弁済額
前記のとおり、個人再生を申し立てる目的は、借金などの債務を減額した上で分割払いにするという内容の再生計画を策定し、その再生計画を裁判所に認可してもらうところにあります。
ただし、債務減額を定める再生計画を策定するといっても、いくらでも自由に減額できるはずはありません。どのくらい減額できるかは、民事再生法で決められています。
減額率については、特に「最低弁済額」が重要です。
どのような事案であっても、また、小規模個人再生であろうと給与所得者等再生であろうと、民事再生法で定められた最低弁済額を下回る金額にまで減額することはできません。
最低弁済額は、以下の基準によって決まります。
- 無異議債権額および評価済債権額の総額が3000万円以下の場合は、基準債権額による。
- 基準債権額が100万円未満の場合、最低弁済額は「その基準債権額」
- 基準債権額が100万円以上500万円未満の場合、最低弁済額は「100万円」
- 基準債権額が500万円以上1500万円未満の場合、最低弁済額は「基準債権の5分の1」
- 基準債権額が1500万円以上の場合、最低弁済額は「300万円」
- 無異議債権額および評価済債権額の総額が3000万円を超え、5000万円以下の場合、最低弁済額は「無異議債権額および評価済債権額の総額の10分の1」
上記のとおり、最低弁済額は、無異議債権および評価済債権の金額の総額がいくらなのかによって異なります。
つまり、無異議債権と評価済債権は、最低弁済額を定めるための基準となっているのです。
無異議債権・評価済債権と再生債権の決議・意見聴取
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの種類の手続があります。
小規模個人再生の場合、再生債務者が作成した再生計画案について、再生債権者による書面決議が行われます。
この再生債権者による書面決議において、書面により不同意回答をした議決権のある再生債権者が、議決権者総数の半数に満たず、かつ、その議決権者の議決権額が議決権者の議決権額総額の2分の1を超えない場合に、再生計画案が可決されたものとみなされます(民事再生法230条6項)。
逆に、不同意回答をした議決権のある再生債権者が、議決権者総数の半数以上であるか、または、議決権者の議決権額が議決権者の議決権額総額の過半数以上であった場合には、再生計画案は否決となり、再生手続は廃止になってしまいます。
この書面決議に議決権者として参加できるのは、無異議債権および評価済債権を有する届出再生債権者です。
つまり、無異議債権・評価済債権を有する再生債権者には、小規模個人再生において、その再生手続の成否を左右するほどの権限が認められているのです。
他方、給与所得者等再生の場合には、再生債権者による決議は行われません。
ただし、給与所得者等再生の場合でも、無異議債権および評価済債権を有する届出再生債権者に対し、再生計画案を認可するかどうかについての意見聴取をしなければならないことになっています(民事再生法240条1項)。
弁護士の探し方
「個人再生をしたいけどどの弁護士に頼めばいいのか分からない」
という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
他方、通常再生の場合は、対応できる事務所が限られてきます。小規模の事務所の場合には、対応が難しいこともあり得ます。その点からも、個人の債務整理では、通常再生ではなく、個人再生を選択した方がよいのです。
弁護士法人東京ロータス法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・休日対応・メール相談可
・所在地:東京都台東区
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
・全国対応・依頼後の出張可
・所在地:東京都墨田区
レ・ナシオン法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可・LINE相談可
・所在地:東京都渋谷区
参考書籍
本サイトでも個人再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、個人再生の参考書籍を紹介します。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、民事再生(通常再生)・個人再生の実務全般について解説されています。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。
書式 個人再生の実務(全訂6版)申立てから手続終了までの書式と理論
編集:個人再生実務研究会 出版:民事法研究会
東京地裁・大阪地裁の運用を中心に、個人再生の手続に必要となる各種書式を掲載しています。書式を通じて個人再生手続をイメージしやすくなります。