
個人再生では、再生手続の開始から再生計画認可の段階までの全般において、「債務者に将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」が必要とされています。この要件は、個人再生の「利用適格要件」と呼ばれています。
個人再生の利用適格要件
民事再生法 第221条
- 第1項 個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が5000万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。
民事再生法 第239条
- 第1項 第221条第1項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
個人再生の手続は、裁判所の再生計画認可決定によって、借金を減額してもらった上で、3年から5年の長期分割払いにしてもらうという裁判手続です。
したがって、借金・債務が減額されるとはいえ、一定額の返済は継続していかなければならないことが前提となっています。
反復・継続した収入がなく、不安定な収入しかないというのでは、個人再生の再生計画が認可されたとしても、本当に再生計画どおりに弁済を継続していけるかどうか分かりません。
債権者としては、ただでさえ債権額が減額される上に分割払いにまでされるというのに、さらに、返済されるかどうかが不確実な場合でも個人再生が認可されるというのでは、大いに不利益を被る恐れがあります。
したがって、債権者の理解を得るためには、少なくともその減額された分くらいは確実に支払えるという債務者でなければ個人再生は利用できないものとしておく必要があります。
そこで、個人再生おいては、小規模個人再生・給与所得者等再生のいずれの場合であっても、債務者に「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があることが必要とされています(民事再生法221条1項、239条1項等)。
この「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がない場合には、個人再生を利用する適格性がないものとされ、個人再生の手続は利用できないことになります。
「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があることの要件は、個人再生の「利用適格要件」とも呼ばれます。
継続・反復して収入を得る見込みの判断時期
「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み(利用適格要件)」があるかどうかは、個人再生手続の開始から終了までの間を通じて必要となります。
再生手続開始の時点で利用適格要件を充たしていなければ、再生手続開始要件を欠くものとして個人再生手続開始の申立ては棄却され、手続は開始されません。
再生手続開始後、再生計画が終了するまでの間に利用適格要件を充たさない状態になった場合には、個人再生手続は廃止されます。
再生計画の認可・不認可を判断する際において利用適格要件を充たしていなかった場合には、再生計画の認可要件を欠くものとして、再生計画は不認可となります。
継続的または反復して収入を得る見込みの要件は、再生手続開始の判断の段階から再生計画認可の判断の段階まで、再生手続全般を通じて必要となってくるのです。
再生手続開始の段階
継続・反復して収入を得る見込みがあることは、個人再生手続開始の要件です。
したがって、再生手続開始の審査段階で、継続・反復して収入を得る見込みがないと判断された場合には、個人再生手続開始の申立ては棄却されます。
つまり、継続・反復して収入を得る見込みがないと判断された場合には、再生手続を始めてもらうことさえできないということです。
再生手続途中の段階
再生手続が開始されたとしても、その後、手続中に失職するなどして継続・反復して収入を得る見込みがなくなるということもあり得ます。
そのような事情などがから、再生手続の途中で、継続・反復して収入を得る見込みがないことが明らかであると判断された場合には、履行可能性のある再生計画案を作成する見込みがないものとして、再生手続は廃止されます。
つまり、再生計画認可の審査にすら至らずに、再生手続を打ち切られてしまうということです。
再生計画認可の段階
継続・反復して収入を得る見込みがないことは、再生計画不認可事由とされています。
したがって、再生計画認可の審査段階で、継続・反復して収入を得る見込みがないと判断された場合には、再生計画不認可事由に該当するため、再生計画の不認可決定がされることになります。
継続・反復して収入を得る見込みの要件は、個人再生手続全体を通じて具備されていなければならない要件なのです。
継続的または反復して収入を得る見込みの要件の意味
前記のとおり、個人再生においては、「債務者が継続的に又は反復して収入を得る見込み(利用適格要件)」があることが、再生手続の開始から再生計画の認可までの間を通じて必要とされています。
個人再生の再生計画では、再生債権を、再生計画認可決定確定日から3年間から5年間で、3か月に1回以上のペースで弁済していくことになります。
そのため、「継続的に又は反復して収入を得る見込み」とは、将来において、3年から5年にわたり少なくとも3か月に1回以上のペースで弁済していくことができるだけの収入を得る見込みがあることを意味すると解されています。
給与所得者・公務員など
たとえば、給与所得者・サラリーマン・公務員のように「継続的に」給料が支払われるような場合には、収入の安定性に関しては、ほとんど問題とならないでしょう。
あとは、再生計画における弁済額を支払うだけの収入額があるのかという金額の問題だけです。
個人事業者
個人事業者・自営業者の場合には、収入が月によって異なるということもあり得ます。収入が多い月もあれば、少ない月もあるでしょう。
このような場合、毎月定期的とまではいえないとしても、収入が継続的または反復して入ってくる確実な見込みがあるということであれば、収入の安定性を満たしていると判断される可能性はあります。
どの程度の頻度であれば反復して収入があるといえるのかというのは、個々の事情によって異なってきます。
例えば、1年に1回収入があるというような程度では、その金額にもよりますが、反復して収入があると判断するのは、なかなか難しい場合もあるでしょう。
前記のとおり、少なくとも3か月に1回以上のペースで弁済していくことが必要なのですから、それが可能な程度の間隔で収入が入ってくる方が、「継続的に又は反復して収入を得る見込み」があると認められやすいでしょう。
アルバイト・パートなど
アルバイトやパートの場合、雇用期間が正規労働者よりも不確定な面があります。
現時点では継続的・反復した収入があるとしても、それが将来(少なくとも再生計画に基づく弁済期間中)においても継続しているという見込みが必要となってきます。
そのため、アルバイト、契約社員、入社したばかりであるというような場合には、将来においても継続的・反復した収入が続いていくのかということが問題となるときもあります。
ただし、あくまで問題となることがあり得るという話です。アルバイト、契約社員、新入社員であっても、継続的・反復した収入の見込みがあると判断されることはあります。
小規模個人再生と給与所得者再生の違い
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続がありますが、このいずれについても、「債務者が継続的に又は反復して収入を得る見込み(収入の安定性)」は必要となってきます。
特に、給与所得者等再生は、返済総額こそ小規模個人再生よりも高額になりますが、再生債権者の同意が不要とされています。
つまり、再生債権者の意向に左右されずに強制的に債務減額や分割払いを実現できる手続であるため、小規模個人再生の場合よりも、より厳格な収入の安定性が求められます。
給与所得者等再生という名称からも明らかなとおり、給与所得者等再生の場合には、継続的な収入が得られる見込みの特に高い給与所得者などの方しか利用できない手続であるということです。
具体的にいうと、給与所得者等再生の場合には、単に継続的・反復した収入の見込み・収入の安定性があるというだけでは足りず、さらに、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込み」があり、かつ、「定期的な収入の額の変動の幅が小さいこと」が必要とされています。
定期的な収入の変動の幅が小さいかどうかは、おおよそ変動率20パーセント程度を一応の目安とするとされています。