この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

個人再生において「やってはいけないこと」としては、①裁判所や個人再生委員に対して虚偽申告や説明を拒絶すること、②裁判所や個人再生委員に対して書類や資料を提出しないこと、③裁判所や個人再生の求める手続を行わないこと、④履行可能性テストを怠ること、⑤提出期限内に再生計画案を提出しないこと、⑥転職や退職などにより収入を減少させてしまうこと、⑦新たに借入れを行うこと、⑧浪費をすること、⑨債権者の一部にだけ返済をしてしまうこと、などが挙げられます。
前提として要件を充たしていることが必要
個人再生の手続において「何をやってはいけないのか」を考える前に、まず前提として、そもそも個人再生の要件を満たしているのかを検討しておかなければいけません。
そもそも要件を満たしていないのであれば、個人再生を申し立てても失敗に終わることが目に見えています。まずは、要件を十分に検討しておく必要があります。
とはいえ、個人再生の要件は非常に多岐にわたります。要件を満たしているかどうかを確認するためには、やはり弁護士に相談した方がよいでしょう。
要件を満たしており、個人再生申立てが可能であったとしても、その後に一定の行為をすると、再生計画の認可に至らないことがあります。
以下では、個人再生の申立てが却下されたり、再生手続が途中で打ち切られたり、または、再生計画が不認可となるような、いわゆる「やってはいけないこと」について説明していきます。
裁判所等に対して虚偽申告や説明を拒絶をすること
個人再生の手続は、裁判手続です。主宰者・判断権者は裁判所です。
したがって、言うまでもありませんが、裁判所や裁判所が選任した個人再生委員に対して、債権者、収支、財産、借金の原因などについて虚偽の申告をすることは、当然やってはいけません。
虚偽申告だけでなく、裁判所や個人再生委員から説明を求められた事項について説明を拒絶することも同様に、やってはいけません。
例え自身に不都合な事実でも、正直に申告し説明をしなければならないのです。
裁判所や個人再生委員に対して虚偽申告や説明拒絶をした場合、個人再生申立ては却下され、手続開始後であれば手続が廃止により打ち切られ、または、再生計画が不認可となります。
裁判所等の求める書類や資料を提出しないこと
これも上記の裁判所や個人再生委員に対する説明拒絶と同じことですが、裁判所や個人再生委員が提出を求めた書類や資料を提出しないことも、もちろん、やってはいけないことに当たります。
個人再生の手続では、多くの書類の提出が求められますが、どれも収集不可能なような書類ではありません。裁判所等に求められた書類は、必ず提出するよう努めるべきです。
裁判所等の求める手続を行わないこと
個人再生手続においては、決められた手続を遂行していかなければなりません。その手続を怠ってはいけないことはもちろんです。
また、裁判所や個人再生委員の下へと出頭して、面接や打ち合わせを行わなければならないこともあります。
裁判所により異なりますが、例えば、東京地方裁判所では、全件につき個人再生委員が選任され、個人再生申立後すぐに個人再生委員との面談・打ち合わせを行わなければならないことになっています。
正当な理由なく上記の手続を怠ることも、個人再生においてやってはいけないことです。
裁判所や個人再生委員の求める手続を怠った場合、個人再生申立ては却下され、手続開始後であれば手続が廃止により打ち切られることになるでしょう。
履行テストを怠ること
個人再生の手続では、再生計画を認可した後に再生計画に基づく返済を継続していけるのかを審査するため、申立後、計画弁済の予定額と同額を毎月積み立てていくことが求められることがあります。
これは「履行テスト」と呼ばれています。やり方は裁判所によって異なりますが、例えば、東京地裁では、個人再生委員が指定した預金口座に予定額を積み立てていく方式がとられています。
この履行テストにおける積立を怠ることも、やってはいけないことです。
積立を怠った場合、手続開始前であれば個人再生申立てが却下され、開始後であれば再生手続が廃止により打ち切られることになります。
提出期限内に再生計画案を提出しないこと
個人再生の目的は、借金の減額や分割払いを定めた再生計画案を策定し、それを裁判所に認可してもらうことにあります。
個人再生の手続が開始されると、この再生計画案を裁判所に提出する期限が定められます。再生計画案を提出し忘れて、この期限を渡過してしまうと、再生手続は廃止により打ち切られてしまいます。
したがって、定められた提出期限内に再生計画案を提出しないことは、絶対にやってはいけないミスです。
実際、この再生計画案の提出忘れによって手続廃止になってしまう事例が少なからずあるとのことですので、必ず忘れないようにしなければなりません。
なお、債権額が確定しないなどやむを得ない事情がある場合には、裁判所に提出期限を伸長してもらうことができます。やむを得ない事情がある場合には、忘れずに提出期限伸長を申し立てておく必要があります。
転職や退職等により収入を減少させてしまうこと
個人再生においては、再生計画に基づく返済の予定額を継続的に支払えるだけの収入がなければなりません。
したがって、当初は十分な収入があったとしても、その後、収入が減少してしまい、再生計画に基づく返済の予定額を継続的に支払えるだけの収入とはいえなくなってしまうと、個人再生申立ては却下され、手続開始後であれば手続が廃止により打ち切られ、または、再生計画が不認可となります。
よくあるのは、それまでの勤務先からの転職や退職により収入が減少してしまう場合です。
また、転職によって収入が増える場合であっても、転職したばかりであるため、収入を継続的に得られる見込みが不明であるとして、個人再生が上手くいかなくなるおそれもあります。
したがって、個人再生をしようという場合には、できる限り、転職等は避けておいた方がよいでしょう。
新たに借り入れを行うこと
個人再生をするためには、債権額が確定している必要があります。新たに借入れをすると債権額がいつまでも確定せず、個人再生を申し立てることさえできなくなってしまいます。
また、個人再生をする予定であるにもかかわらず借入れをするということは、まともに支払うつもりもなく借入れをするということです。債権者から異議が提出されるだけなく、場合によっては詐欺罪が成立する可能性もあります。
また、小規模個人再生の場合には、再生計画案の決議において異議(不同意意見)を提出した債権者が議決権者総数の頭数の半数以上である場合または議決権額が議決権総額の2分の1を超える場合には、手続が廃止により打ち切られます。
仮に不同意意見が提出されなかったとしても、不当な目的または不誠実な申立てとして申立てが却下されることもあります。
手続開始後の借入れの場合には、その新たな借入れは個人再生による減額などの対象とならず、約定どおり返済しなければなりません。
そうなると、その返済の分だけ支出が増えることになりますから、それによって、再生計画に基づく返済をできるだけの収支の余裕がないものと判断されて、再生計画が不認可となることもあり得ます。
個人再生をする場合には、少なくとも、弁護士が受任通知を送付するなどして支払いを停止した後は、新たな借入れをしないようにしなければなりません。
浪費をしてしまうこと
個人再生においては、再生計画に基づく返済の予定額を継続的に支払えるだけの収入がなければなりません。
浪費をしてしまい、再生計画に基づく返済の予定額を継続的に支払えるだけの収入があるとはいえなくなってしまうと、個人再生の申立ては却下され、手続開始後であれば、計画返済の見込みがないものとして手続は廃止により打ち切られ、または、再生計画が不認可となります。
したがって、浪費をしてしまうことも、個人再生においてはやってはいけないことに当たります。
債権者の一部にだけ返済を行うこと
個人再生の手続においては、債権者の平等が強く求められます。他の債権者の支払いは停止しているにもかかわらず、一部の債権者にだけ返済をすることは、偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼ばれる禁止行為です。
例えば、よくある事例としては、家族や親族、勤務先にだけ返済をしてしまう場合が挙げられます。
偏頗弁済をした場合、その偏頗弁済をした額は清算価値に含まれます。それによって、再生計画に基づく返済総額が増額されることがあります。
再生計画に基づく返済総額が増額されることによって、収支からみて返済の見込みがないものとして、個人再生の申立ては却下され、手続開始後であれば、手続は廃止により打ち切られ、または、再生計画が不認可となる可能性があります。
債権者の一部にだけ偏頗弁済を行うことも、個人再生においてはやってはいけないことに該当すると言えるでしょう。
再生計画認可後に計画弁済を怠ること
個人再生において「やってはいけないこと」とは少し違いますが、再生計画が認可された後の計画弁済を怠ってしまうと、再生計画が取り消されてしまうことがあります。
したがって、再生計画が認可された後の計画弁済は、何とか頑張って支払いをしていく必要があります。
弁護士の探し方
個人再生において何をやってはいけないのかを自分で確認するのは、なかなか大変です。弁護士に依頼していれば、何かをする都度、やってよいことなのかどうかを確認できるので安心できます。
とは言え、「個人再生をしたいけどどの弁護士に頼めばいいのか分からない」という人は多いのではないでしょうか。
現在では、多くの法律事務所が個人再生を含む債務整理を取り扱っています。そのため、インターネットで探せば、個人再生を取り扱っている弁護士はいくらでも見つかります。
しかし、インターネットの情報だけでは、分からないことも多いでしょう。やはり、実際に一度相談をしてみて、自分に合う弁護士なのかどうかを見極めるのが一番確実です。
債務整理の相談はほとんどの法律事務所で「無料相談」です。むしろ、有料の事務所の方が珍しいくらいでしょう。複数の事務所に相談したとしても、相談料はかかりません。
そこで、面倒かもしれませんが、何件か相談をしてみましょう。そして、相談した複数の弁護士を比較・検討して、より自分に合う弁護士を選択するのが、後悔のない選び方ではないでしょうか。
ちなみに、個人再生の場合、事務所の大小はほとんど関係ありません。事務所が大きいか小さいかではなく、どの弁護士が担当してくれるのかが重要です。
他方、通常再生の場合は、対応できる事務所が限られてきます。小規模の事務所の場合には、対応が難しいこともあり得ます。その点からも、個人の債務整理では、通常再生ではなく、個人再生を選択した方がよいのです。
レ・ナシオン法律事務所
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参考書籍
本サイトでも個人再生について解説していますが、より深く知りたい方のために、個人再生の参考書籍を紹介します。
個人再生の実務Q&A120問
編集:全国倒産処理弁護士ネットワーク 出版:きんざい
個人再生を取り扱う弁護士などだけでなく、裁判所でも使われている実務書。本書があれば、個人再生実務のだいたいの問題を知ることができるのではないでしょうか。
個人再生の手引(第2版)
編著:鹿子木康 出版:判例タイムズ社
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官および裁判所書記官・弁護士らによる実務書。東京地裁の運用が中心ですが、地域にかかわらず参考になります。
破産・民事再生の実務(第4版)民事再生・個人再生編
編集:永谷典雄ほか 出版:きんざい
東京地裁民事20部(倒産部)の裁判官・裁判所書記官による実務書。東京地裁の運用を中心に、民事再生(通常再生)・個人再生の実務全般について解説されています。
はい6民です お答えします 倒産実務Q&A
編集:川畑正文ほか 出版:大阪弁護士協同組合
6民とは、大阪地裁第6民事部(倒産部)のことです。大阪地裁の破産・再生手続の運用について、Q&A形式でまとめられています。
書式 個人再生の実務(全訂6版)申立てから手続終了までの書式と理論
編集:個人再生実務研究会 出版:民事法研究会
東京地裁・大阪地裁の運用を中心に、個人再生の手続に必要となる各種書式を掲載しています。書式を通じて個人再生手続をイメージしやすくなります。