
給与所得者等再生を申し立てる時点において、①過去に給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行されたことがある場合、その再生計画認可決定が確定してから7年を経過していないとき、②過去に小規模個人再生または給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行され、民事再生法235条1項の免責(ハードシップ免責)の決定を受けたことがある場合、そのハードシップ免責決定が確定してから7年を経過していないとき、③過去に破産手続における免責許可決定を受けたことがある場合、その免責許可決定が確定してから7年を経過していないときは、給与所得者等再生を利用することができません(民事再生法239条5項2号、241条2項6号)。
給与所得者等再生に特有の要件
民事再生法 第239条
- 第5項 前項に規定する場合のほか、裁判所は、第2項の申述があった場合において、次の各号のいずれかに該当する事由があることが明らかであると認めるときは、再生手続開始の決定前に限り、再生事件を小規模個人再生により行う旨の決定をする。ただし、再生債務者が第3項本文の規定により小規模個人再生による手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたとき、裁判所は、再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
- 第2号 再生債務者について次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から7年以内に当該申述がされたこと。
イ 給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ロ 第235条第1項(第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
ハ 破産法第252条第1項に規定する免責許可の決定が確定したこと 当該決定の確定の日民事再生法 第241条
- 第2項 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
- 第6号 第239条第5項第2号に規定する事由があるとき。
個人再生の手続には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続が用意されています。
小規模個人再生の場合、再生計画案の決議において、一定数以上の再生債権者が不同意意見(異議)を述べると、再生手続が廃止になってしまいます。
これに対して、給与所得者等再生の場合には、可処分所得の2年分以上の額を返済総額(計画弁済総額)としなければならない代わりに、再生債権者による決議が行われません。
つまり、給与所得者等再生は、小規模個人再生と異なり、再生債権者の意向によって再生手続が廃止されることが無いということです。
しかし、それは、再生債権者の意向に反する場合でも再生計画が認可されてしまうということでもあります。
そこで、給与所得者等再生の場合、再生債権者に何度も不利益を負わせないようにするため、以下の場合には給与所得者等再生を利用できないものとしています。
- 過去に給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行されたことがある場合、現在の給与所得者等再生の申立ての時点において、その過去の手続において再生計画認可決定が確定してから7年を経過していない場合(民事再生法239条5項2号イ、241条2項6号)。
- 過去に小規模個人再生または給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行され、民事再生法235条1項の免責(ハードシップ免責)の決定を受けたことがある場合、現在の給与所得者等再生の申立ての時点において、その過去の手続においてハードシップ免責決定が確定してから7年を経過していない場合(民事再生法239条5項2号ロ、241条2項6号)。
- 過去に破産手続における免責許可決定を受けたことがある場合、現在の給与所得者等再生の申立ての時点において、その過去の手続において免責許可決定が確定してから7年を経過していない場合(民事再生法239条5項2号ハ、241条2項6号)。
これらに該当する場合には、給与所得者等再生の手続は開始されず、仮に開始されたとしても、発覚した時点で再生手続は廃止され、または、再生計画が不認可となります。
なお、小規模個人再生の場合には、上記の制限はありません。給与所得者等再生の場合だけです。
過去7年以内での給与所得者等再生の再生計画認可決定の確定
前記のとおり、過去に給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行されたことがある場合、現在の給与所得者等再生の申立ての時点において、その過去の手続において再生計画認可決定が確定してから7年を経過していない場合には、給与所得者等再生を利用することができません(民事再生法239条5項2号イ、241条2項6号)。
この場合において、過去の行った再生手続は、給与所得者等再生に限られています。したがって、過去7年以内に行った手続が小規模個人再生であれば、再度、給与所得者等再生を利用することは可能です。
また、ただ過去7年以内に給与所得者等再生を申し立てたというだけで、再度の給与所得者等再生の利用が不可能になるわけではありません。
過去7年以内に、給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画認可決定が確定し、かつ、それに基づき再生計画を遂行したことがある場合に限り、給与所得者等再生を利用することができなくなるのです。
したがって、過去7年以内に給与所得者等再生の申立てをしていたとしても、再生計画が認可されていなかったり、認可されていても確定に至っていなかった場合には、再度の給与所得者等再生の利用が可能です。
なお、どの時点からさかのぼって7年以内であるかを判断するのかというと、給与所得者等再生を新たに申し立てた時点が基準となります。
過去7年以内における個人再生のハードシップ免責決定の確定
前記のとおり、過去に小規模個人再生または給与所得者等再生の再生計画が認可されて、その再生計画が遂行され、民事再生法235条1項の免責(ハードシップ免責)の決定を受けたことがある場合、現在の給与所得者等再生の申立ての時点において、その過去の手続においてハードシップ免責決定が確定してから7年を経過していないときには、給与所得者等再生を利用することができません(民事再生法239条5項2号ロ、241条2項6号)。
個人再生においては、再生計画の途中で返済ができなくなった場合でも、再生計画に基づく基準債権等に対する弁済のうち4分の3以上をすでに支払い終わっている場合には、その再生計画が取り消される前に「ハードシップ免責」を申し立てることができます(民事再生法235条、244条)。
そして、そのハードシップ免責が許可されると、返済ができなくなった部分についての支払いを免責してもらえます。
給与所得者等再生の申立て時点において、過去に受けたハードシップ免責の確定から7年を経過していない場合、再度の給与所得者等再生は認められないことになります。
ハードシップ免責は、小規模個人再生の場合でも給与所得者等再生の場合でも認められますから、過去に受けたハードシップ免責決定の手続が小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、新たな給与所得者等再生が認められなくなることがあります。
ただし、給与所得者等再生が認められなくなるのは、ハードシップ免責決定が確定してから7年を経過していない場合ですから、単にハードシップ免責を申し立てただけで免責決定がされていない場合や、免責決定がされていてもそれが確定していない場合には、再度の給与所得者等再生の利用が可能です。
なお、このハードシップ免責確定の場合も、給与所得者等再生を新たに申し立てた時点を基準として7年以内なのかを判断することになります。
過去7年以内における破産の免責許可決定の確定
前記のとおり、過去に破産手続における免責許可決定を受けたことがある場合、現在の給与所得者等再生の申立ての時点において、その過去の手続において免責許可決定が確定してから7年を経過していない場合には、給与所得者等再生を利用することができません(民事再生法239条5項2号ハ、241条2項6号)。
個人の破産手続においては、免責の手続が行われ、免責不許可事由がない場合または免責不許可事由があっても裁量によって免責することが相当である判断された場合には免責許可決定がなされます。
給与所得者等再生の申立て時点において、破産手続における免責許可決定が確定してから7年を経過していない場合には、やはり給与所得者等再生を利用することができません。
ただし、給与所得者等再生が認められなくなるのは、破産における免責許可決定が確定してから7年を経過していない場合ですから、単に免責許可を申し立てただけで免責許可決定がされていない場合や、免責許可決定がされていてもそれが確定していない場合には、再度の給与所得者等再生の利用が可能です。
なお、この破産における免責許可決定確定の場合も、給与所得者等再生を新たに申し立てた時点を基準として7年以内なのかを判断することになります。