
給与所得者等再生の再生計画に定めることができる返済総額(計画弁済総額)は、可処分所得の2年分以上の額でなければなりません。
ここでいう可処分所得とは、再生債務者の1年分の収入合計額から、これに対する所得税・個人の道府県民税または都民税・個人の市町村民税または特別区民税・社会保険料に相当する額および再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除した金額のことをいいます。
給与所得者等再生における返済総額(計画弁済総額)
民事再生法 第241条
- 第2項 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
- 第7号 計画弁済総額が、次のイからハまでに掲げる区分に応じ、それぞれイからハまでに定める額から再生債務者及びその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除した額に2を乗じた額以上の額であると認めることができないとき。
イ 再生債務者の給与又はこれに類する定期的な収入の額について、再生計画案の提出前2年間の途中で再就職その他の年収について五分の一以上の変動を生ずべき事由が生じた場合 当該事由が生じた時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税、個人の道府県民税又は都民税及び個人の市町村民税又は特別区民税並びに所得税法 (昭和40年法律第33号)第74条第2項に規定する社会保険料(ロ及びハにおいて「所得税等」という。)に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額
ロ 再生債務者が再生計画案の提出前2年間の途中で、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった場合(イに掲げる区分に該当する場合を除く。) 給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者でその額の変動の幅が小さいと見込まれるものに該当することとなった時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を一年間当たりの額に換算した額
ハ イ及びロに掲げる区分に該当する場合以外の場合 再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を2で除した額- 第3項 前項第7号に規定する1年分の費用の額は、再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める。
個人再生には、原則型である小規模個人再生と、その特則である給与所得者等再生の2種類の手続が用意されています。
小規模個人再生の場合、再生計画が認可されれば、返済総額(計画弁済総額)を、民事再生法で定める最低弁済額または破産したと仮定した場合の配当見込額(清算価値)のいずれか高額な方にすることができます。
つまり、最低弁済額以上かつ清算価値の額以上の金額であれば、その額まで減額することが可能ということです。
これに対し、給与所得者等再生の場合の返済総額(計画弁済総額)は、最低弁済基準額と清算価値だけでなく、「可処分所得」の2年分以上の金額でなければならないとされています(民事再生法241条2項7号)。
したがって、最低弁済額以上かつ清算価値の額以上の金額であるというだけでは足りず、可処分所得の2年分の額以上の金額でもなければならないのです。
この可処分所得2年分以上の額は、収入額や生活状況によっては、かなりの高額になることがありますから、給与所得者等再生を選択しようという場合には注意が必要です。
可処分所得とは
前記のとおり、給与所得者等再生の計画弁済総額は、可処分所得2年分の額以上の金額でなければなりません。
ここでいう可処分所得とは、再生債務者の1年分の収入合計額から、これに対する所得税・個人の道府県民税または都民税・個人の市町村民税または特別区民税・社会保険料に相当する額および再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額を控除した金額のことをいいます。
要するに、可処分所得とは、給与などの定期的収入の金額から、税金や社会保険料など必ず支払わなければならない支出と最低限度の生活費を差し引いた上で、返済に充てるなどの処分が可能な金額のことです。
可処分所得2年分の額の算定方法
民事再生法241条2項7号ハによれば、可処分所得は、「再生計画案の提出前2年間の再生債務者の収入の合計額からこれに対する所得税等に相当する額を控除した額を2で除した額」から「再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額」を控除した額に2を乗じて算定するのが原則とされています。
言い回しが複雑ですが、要するに、以下のように計算します。
可処分所得2年分の額 = 再生計画案提出前2年間の収入合計額 - 再生計画案提出前2年間に支払った所得税額・個人の道府県民税または都民税・個人の市町村民税または特別区民税・社会保険料の合計額 - 再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額 × 2
収入から控除される「再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額」は、「再生債務者及びその扶養を受けるべき者の年齢及び居住地域、当該扶養を受けるべき者の数、物価の状況その他一切の事情を勘案して政令で定める」ものとされています(民事再生法241条3項)。
この政令とは、「民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令」のことです。
つまり、「再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額」は、上記法令をもとに計算されるものであって、現実に支出した生活費ではないことに注意が必要です。
なお、給与所得者等再生における計画弁済総額の基準となるのは、あくまで可処分所得の「2年分」の額です。1年分の額ではありませんので、その点も気を付ける必要があるでしょう。
再生計画案提出前2年間に収入の変動があった場合
再生計画案の提出前2年間に給与などの定期収入額等に変動があった場合には、前記の計算式とは異なる計算方法で可処分所得を算出するものとされています。
まず、再生計画案の提出前2年の間に、再就職や昇給などの理由によって収入が20パーセント以上変動した場合には、以下のとおり計算します(民事再生法241条2項7号イ)。
可処分所得2年分の額 = 「変動が生じた時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額 - 変動が生じた時から再生計画案を提出した時までの間に支払った所得税額・個人の道府県民税または都民税・個人の市町村民税または特別区民税・社会保険料の合計額」を1年分に換算した額 - 再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額 × 2
上記の場合を除いて、再生計画案の提出前2年の間に、就職・転職・労働条件の変更などによって、それまで変動幅の小さい定期的収入しか得られていなかった人が変動幅の小さい定期的収入を得るようになった場合には、以下のとおり計算します(民事再生法241条2項7号ロ)。
可処分所得2年分の額 = 変動の小さい定期収入を得るようなった時から再生計画案を提出した時までの間の収入の合計額 - 変動の小さい定期収入を得るようなった時から再生計画案を提出した時までの間に支払った所得税額・個人の道府県民税または都民税・個人の市町村民税または特別区民税・社会保険料の合計額」を1年分に換算した額 - 再生債務者とその扶養を受けるべき者の最低限度の生活を維持するために必要な1年分の費用の額 × 2
いずれの場合も、給与など定期的収入の変動があった時点から再生計画案提出時までの間の収入合計額から所得税などを控除した金額を、1年分に換算した上で可処分所得2年分の額を計算する必要があります。
可処分所得算出シート
以上のとおり、給与所得者等再生においては、可処分所得の2年分の額を算出しなければなりません。しかし、この可処分所得の2年分の額を一から計算するのは、簡単ではありません。
そこで、各裁判所では、課税証明書や源泉徴収票等に記載されている収入額や納税額などのみ打ち込めば、簡易に可処分所得の2年分の額を算出できる「可処分所得算出シート」というエクセルの書式が用意されています。
これを用いれば、民事再生法や政令などの規定を確認しなくても、課税証明書と源泉徴収票さえあれば可処分所得を算出できます。
例えば、以下の日本弁護士連合会サイトからダウンロードすることが可能です(他の裁判所や弁護士会でも、可処分所得算出シートの書式をインターネットで公開している場合があります。)。
ただし、可処分所得算出シートの様式は、裁判所ごとに若干の違いがあります。できれば、個人再生を申し立てる裁判所の書式を入手した方がよいでしょう。