
給与所得者等再生の再生計画が認可されるためには、まず、再生手続を開始してもらう必要があります。再生手続を開始してもらうためには、再生手続開始の要件を充たしていなければなりません。
再生手続が開始されたとしても、途中で手続が廃止されて打ち切られてしまうと、意味がなくなってしまうので、廃止事由が無いことも必要となります。さらに、再生計画を認可してもらうためには、再生計画の不認可事由がないことが必要となります。
給与所得者等再生を利用するための要件
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類の手続があります。小規模個人再生が個人再生の基本類型であり、給与所得者等再生はその特則という位置づけとなります。
個人再生は裁判手続です。したがって、これを利用するためには、民事再生法で定める利用条件(法律要件)を充たしている必要があります。
ただし、裁判所によって給与所得者等再生の再生計画を認可してもらうためには、まず、そもそも給与所得者等再生の手続を開始してもらわなければなりません。
給与所得者等再生の手続を開始してもらうためには、再生手続開始の要件を充たしていなければなりません。
無事、手続が開始されたとしても、当然に給与所得者等再生の再生計画が認可されるわけではありません。
再生手続が途中で廃止により打ち切られてしまっては、認可の審査にさえ至りません。そのため、再生手続を継続してもらうための要件も必要となってきます。
さらに、再生計画を認可してもらうためには、再生計画認可の要件を充たしている必要があります。
つまり、給与所得者等再生の再生計画が認可されるまでには、再生手続開始の段階、途中の段階、再生計画認可の段階でそれぞれ要件を充たしていなければならないのです。
給与所得者等再生の再生手続開始要件
給与所得者等再生の目的は、裁判所によって再生計画を認可してもらうことにありますが、そのためには、そもそも再生手続を開始してもらわなければお話になりません。
給与所得者等再生の手続を開始してもらうための要件としては、以下のものがあります。
- 再生手続開始原因があること(民事再生法21条1項)
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと(民事再生法25条)
- 申立てが適法であること
- 債務者が個人であること
- 債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者であること(利用適格要件)
- 負債総額が5000万円を超えていないこと
- 給与またはこれに類する定期的な収入を得ていること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日、ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日、破産の免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述をすること
これらの給与所得者等再生の再生手続開始要件があるか否かは、再生手続を開始するかどうかを判断する際に審査されます。
再生手続開始の要件を充たしていない場合には、再生手続開始の申立ては棄却(申立てが不適法の場合には却下)されます。つまり、再生手続を開始してもらうことさえできないということです。
民事再生手続全般に共通する再生手続開始の要件
個人再生手続は、民事再生手続の特則です。そのため、民事再生手続全般に共通して必要とされる再生手続開始の要件は、給与所得者等再生でももちろん必要です。
具体的に言えば、前記の小規模個人再生における再生手続開始要件のうち、以下の要件は民事再生に共通する再生手続開始要件です。
- 再生手続開始原因があること(民事再生法21条1項)
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと(民事再生法25条)
- 申立てが適法であること
小規模個人再生と給与所得者等再生に共通する個人再生に固有の再生手続開始要件
前記の民事再生全般に共通する要件だけでなく、個人再生に固有の再生手続開始要件もあります。
個人再生に固有の再生手続開始要件には、小規模個人再生と給与所得者等再生に共通する要件もあります。
具体的に言えば、前記の給与所得者等再生における再生手続開始要件うち、以下の要件は小規模個人再生と給与所得者等再生に共通する個人再生に固有の再生手続開始要件です(民事再生法221条1項、239条1項)。
- 債務者が個人であること
- 債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者であること(利用適格要件)
- 負債総額が5000万円を超えていないこと
給与所得者等再生に固有の再生手続開始要件
民事再生共通・個人再生共通の再生手続開始要件のほか、給与所得者等再生に固有の要件もあります。
給与所得者等再生に固有の再生手続開始要件としては、以下のものがあります。
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日,ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日,破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
給与所得者等再生の再生手続を継続していくための要件
給与所得者等再生の手続を開始してもらったとしても、必ず、再生計画の認可に至るわけではありません。手続を開始した後、各種の手続を経て、再生計画認可・不認可の審査にたどりつきます。
しかし、認可の審査に至る前に、手続の途中で手続が廃止となり、打ち切りになってしまうこともあります。したがって、再生手続を継続していくための要件も満たしていなければなりません。
再生手続を継続していくための要件としては、以下のものがあります。
- 不認可事由のない再生計画案作成の見込みがあること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に、不認可事由のない再生計画案を提出したこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には、裁判所の許可を得ること
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
小規模個人再生においては、裁判所による再生計画を認可するか否かの判断に先立って、再生債権者による決議が行われます。
この決議において、一定の再生債権者から不同意意見が述べられた場合、この決議が否決となり、再生計画は、再生計画認可に至る前に廃止されてしまうものとされています。
しかし、給与所得者等再生においては、この再生債権者による決議は行われません。
なお、債権届出期間後再生計画認可の決定の確定前に再生手続開始事由の不存在が明らかになった場合にも、再生手続は廃止されます。
給与所得者等再生の再生計画認可要件
給与所得者等再生の再生手続が開始されたからといって、当然に、再生計画が認可されるわけではありません。
再生計画を裁判所に認可してもらうためには、開始の要件とは別に、再生計画認可の要件を充たしていなければなりません。
給与所得者等再生の再生計画認可要件とは、「再生計画不認可事由が無いこと」が必要です。
給与所得者等再生における再生計画不認可事由としては、以下のものがあります。これらのうち1つでもあると、再生計画は不認可とされてしまいます。
- 再生手続に不備を補正できない重大な法律違反があること
- 再生計画に不備を補正できない法律違反があること
- 再生計画遂行の見込みがないこと
- 再生債権額が5000万円を超えていること
- 再生計画に基づく弁済額が最低弁済額を下回っていること
- 再生計画が再生債権者の一般の利益に反していること(清算価値保障原則を満たしていないこと)
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得ていないこと
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいことが見込まれないこと
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日、ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日、破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てであること
- 計画弁済総額が可処分所得額の2年分以上でないこと
民事再生全般に共通する再生計画不認可事由
個人再生手続は、民事再生手続の特則ですから、民事再生手続全般に共通する再生計画不認可事由は、小規模個人再生においても不認可事由となります。
具体的に言えば、前記の給与所得者等再生における再生計画不認可事由のうち、以下のものは民事再生全般に共通する再生計画不認可事由です。
これらが1つでもあると、給与所得者等再生の再生計画は不認可とされます。
- 再生手続に不備を補正できない重大な法律違反があること
- 再生計画に不備を補正できない法律違反があること
- 再生計画遂行の見込みがないこと
小規模個人再生と給与所得者等再生に共通する個人再生に固有の再生計画不認可事由
再生計画不認可事由には、民事再生全般に共通するものだけでなく、個人再生に固有の不認可事由もあります。
前記の給与所得者等再生における再生計画不認可事由のうち、以下のものは、小規模個人再生と給与所得者等再生に共通する再生計画の不認可事由です。
これらも、やはり1つでも該当すると、給与所得者等再生の再生計画は不認可とされます。
- 再生債権総額が5000万円を超えていること
- 計画弁済総額が最低弁済額を下回っていること
最低弁済額は、おおまかにいえば、以下のようになります。
- 債権額が100万円未満の場合は「その債権額」
- 債権額が100万円以上500万円未満の場合は「100万円」
- 債権額が500万円以上1500万円未満の場合は「債権額の5分の1の金額」
- 債権額が1500万円以上3000万円未満の場合は「300万円」
- 債権額が3000万円以上5000万円以下の場合は「債権額の10分の1の金額」
また、計画弁済総額が最低弁済額を下回っていないとしても、後述する清算価値保障原則および可処分所得要件を満たしていなければ再生計画は不認可となります。
したがって、仮に財産の清算価値や可処分所得2年分の額が最低弁済基準額を上回っているのであれば、その清算価値に相当する金額または可処分所得2年分の額を計画弁済総額としなければなりません。
給与所得者等再生に固有の再生計画不認可事由
給与所得者等再生にだけ固有の再生計画不認可事由もあります。
- 再生計画が再生債権者の一般の利益に反すること(清算価値保障原則を満たしていること)
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがないこと
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれないこと
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日,ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日,破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てであること
- 計画弁済総額が可処分所得額の2年分の額未満であること
給与所得者等再生の要件(まとめ)
給与所得者等再生について、再生手続を開始してもらい、最終的に再生計画を認可してもらうための要件をまとめると、以下のものが必要となります。
- 再生手続開始原因があること
- 再生手続開始申立棄却事由がないこと
- 申立てが適法であること
- 債務者が個人であること
- 再生債務者が将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
- 再生債権額が5000万円を超えていないこと
- 債務者に給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
- 定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること
- 過去の給与所得者等再生の再生計画が遂行された場合の当該再生計画認可決定確定日、ハードシップ免責がされた場合の当該再生計画認可決定確定日、破産免責許可決定確定日から7年以内にされた申立てでないこと
- 給与所得者等再生を行うことを求める旨の申述をしたこと
- 不認可事由のない再生計画案作成の見込みがあること
- 再生計画案提出期間またはその伸長期間内に、不認可事由のない再生計画案を提出したこと
- 民事再生法41条1項各号及び同法42条1項各号に定める行為をする場合には、裁判所の許可を得ること
- 財産目録に不正なく記載すべき財産を記載していること
- 再生手続に不備を補正できない重大な法律違反がないこと
- 再生計画に不備を補正できない法律違反がないこと
- 再生計画遂行の見込みがあること
- 再生計画に基づく弁済額が最低弁済額を下回っていないこと
- 再生計画が再生債権者の一般の利益に反しないこと(清算価値保障原則を満たしていること)
- 計画弁済総額が可処分所得額の2年分以上であること