
給与所得者等再生においては、個人再生手続の開始から再生計画の認可の判断に至るまで、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること」と「その定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること」の要件を充たしている必要があります。
収入の額の変動の幅が小さいかどうかは、再生債務者の職種、給与等の算定基準(固定給か歩合給かなど)、過去・現在の収入の状況、経済情勢などを総合的に考慮して判断するものと解されています。
一般的には、収入額の変動の割合が年収換算で5分の1(20パーセント)未満かどうかが、一応の判断の基準とされています。
給与所得者等再生における収入要件
個人再生を申し立て、裁判所によって再生計画が認可されると、減額された借金などの債務を3年から5年の期間で分割払いをしていくことになります。
そのため、個人再生を利用するためには、3年から5年の間、確実に分割払いをしていけるだけの収入が必要とされています。
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者再生の2種類の手続が設けられていますが、給与所得者等再生においては、小規模個人再生よりも確実で安定的な収入の見込みがあることが求められています。
小規模個人再生の場合、再生債権者は、再生計画案の決議において不同意意見を述べることにより、再生計画の認可に対して重大な影響を及ぼすことが可能とされています。
しかし、給与所得者等再生の場合には、可処分所得の2年分以上の額を計画弁済総額とすることを条件として、再生計画案の決議は行われないものとされています。
そこで、給与所得者等再生においては、再生債権者に不利益を与えないよう、可処分所得の2年分以上の額を容易に把握でき、かつ、その額を確実に支払うことができるだけの収入があることが要件として求められているのです。
具体的にいうと、小規模個人再生の場合には、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること」で足ります。
しかし、給与所得者等再生の場合には、これに加えて、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること」と「その定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること」も必要とされています。
給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること
民事再生法 第239条
- 第1項 第221条第1項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。
民事再生法 第241条
- 第2項 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
- 第4号 再生債務者が、給与又はこれに類する定期的な収入を得ている者に該当しないか、又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないとき。
前記のとおり、給与所得者等再生においては、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがること」が必要です。
これは、再生手続を開始してもらうための要件としても必要ですし(民事再生法239条1項)、また、再生計画を認可してもらうための要件としても必要です(同法241条2項4号)。
つまり、再生手続の初めから終わりまで一貫して「給与またはこれに類する定期的な収入を得ていること」が求められるということです。
「給与またはこれに類する定期的な収入」については、支給の名目が「給料」や「給与」でなければならないわけではありません。それに類するものであれば、名目は問われません。
もっとも、その収入が「定期的」なものでなければなりません。不定期な収入では、「給与またはこれに類する定期的な収入」とはいえません。
給与などの賃金は、毎月払いが原則とされています(労働基準法24条2項本文)。
したがって、給料に類する定期的収入というためには、少なくとも、毎月1回以内のペースで支払われるものでなければならないのが原則と言えるでしょう。
ただし、個人再生においては、毎月払いだけでなく、3か月に1回払いも認められています。
したがって、3か月に1回以内の間隔で定期的に得られる収入についても、 「給与またはこれに類する定期的な収入」として認められる可能性はあるでしょう。
定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること
給与所得者等再生においては、「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあること」だけではなく、その「定期的な収入の額の変動の幅が小さいと見込まれること」も必要とされています。
単に定期的な収入があったとしても、その収入の額が、大きく変動するようなものであってはいけないということです。
この「変動の幅が小さい」か否かは、再生債務者の職種、給与等の算定基準(固定給か歩合給かなど)、過去・現在の収入の状況、経済情勢などを総合的に考慮して判断するものと解されています。
一般的には、収入額の変動の割合が年収換算で5分の1(20パーセント)未満かどうかが、一応の判断の基準とされています。
民事再生法241条2項7号イは、給与所得者等再生における計画弁済総額の基準となる可処分所得の算定方法について、再生計画案提出前の2年間において定期的な収入の額に5分の1(20パーセント)以上の変動があった場合には、通常の場合と異なる特別な算定方法を用いなければならないとしてます。
そこで、「定期的な収入の額の変動の幅が小さい」かどうかについても、変動の割合が年収換算で5分の1(20パーセント)未満なのかどうかかが一応の判断の基準とされているのです。
例えば、再生計画を認可するかどうかの判断の時点における年収が600万円で、その前年の年収が500万円であれば、変動の幅は20パーセント未満ですから、「変動の幅が小さい」ということになります。
ただし、これはあくまで一応の目安です。
上記のとおり、「変動の幅が小さい」か否かは、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。
したがって、収入額の変動の割合が年収換算で5分の1(20パーセント)未満であっても、変動の幅が小さいとはいえないと判断されることもありますし、逆に、5分の1(20パーセント)以上であっても、変動の幅が小さいと判断されることもあり得るということです。