この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

特定調停を申し立てる場合、申立書のほか、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料を提出する必要があります(特定調停法3条3項)。
特定調停申立書の添付書類
特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律 第3条
- 第1項 特定債務者は、特定債務等の調整に係る調停の申立てをするときは、特定調停手続により調停を行うことを求めることができる。
- 第2項 特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述は、調停の申立ての際にしなければならない。
- 第3項 前項の申述をする申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由がある場合にあっては、申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者の一覧表を提出しなければならない。
特定調停を申し立てるには、管轄の裁判所に対して、特定調停の申立書を提出する必要があります。
また、申立書だけではなく「財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料」も提出する必要があります(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律3条3項。以下「特定調停法」と言います。)。
この特定債務者であることを明らかにする資料は、申立てをする際、申立書に添付して提出するのが通常です。ただし、やむを得ない理由がある場合には、申立ての際ではなくてもよいとされています(特定調停法3条3項括弧書き)。
特定債務者とは、「金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人」のことです(特定調停法2条1項)。
この特定債務者でなければ、特定調停手続を利用できません(特定調停法2条3項)。そのため、申立人が特定債務者であることを明らかにする資料の提出が必要とされるのです。
特定債務者であることを明らかにする資料の記載事項
特定調停手続規則 第2条
- 第1項 法第3条(特定調停手続)第3項の財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料には、次に掲げる事項を具体的に記載しなければならない。
- 第1号 申立人の資産、負債その他の財産の状況
- 第2号 申立人が事業を行っているときは、その事業の内容及び損益、資金繰りその他の事業の状況
- 第3号 申立人が個人であるときは、職業、収入その他の生活の状況
この「財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料」には、以下の事項を記載する必要があります(特定調停手続規則2条1項)。
- 申立人の資産・負債その他の財産の状況
- 事業者の場合は、事業の内容・損益・資金繰りその他の事業の状況
- 個人の場合は、職業・収入その他の生活の状況
もっとも、特定債務者であることを明らかにする資料を一から作成する必要はありません。
特定調停の申立書や特定債務者であることを明らかにする資料については、各裁判所でひな形・書式が用意されています。これに従って作成していけば足ります。
以下では、東京簡易裁判所の書式に従って、特定債務者であることを明らかにする資料の具体的な書き方をご説明いたします(なお、裁判所によって書式は若干異なりますが、大枠は同じです。)。
表題部、申立人氏名
表題部には、「特定債務者の資料等」という表題が印字されています。その下に、申立人氏名を記載する欄があるので、ここに氏名を記載します。
申立人の生活状況
特定債務者であることを明らかにする資料には、「職業、収入その他の生活の状況」を記載する必要があります(特定調停手続規則2条1項3号)。書式では「申立人の生活状況」に当たる記載事項です。
申立人の生活状況の(1)には、申立人の「職業」について記載します。右余白部分に職種や役職などを記載し、その下に勤務先の名称を記載します。そして、その勤務先での勤続年数を記載します。
個人事業・自営業者であれば、職種を記載した上、事業者名称を記載し、その事業の期間を記載することになります。
(2)には、手取りの「月収」を記載します。大雑把ではなく、給与明細などを確認して正確な手取り金額を記載すべきです。また、給料日も記載します。
(3)のその他の欄には、職業に関する付加情報を記載します。ボーナスがある場合には、その金額や支給時期について書いておくとよいでしょう。
申立人の資産・負債
特定債務者であることを明らかにする資料には、「資産、負債その他の財産の状況」を記載する必要があります(特定調停手続規則2条1項1号)。書式では「申立人の資産・負債」に当たる記載事項です。
この申立人の資産・負債の(1)および(2)には、資産を記載します。
(1)には、あらかじめ、「土地」「建物」「マンション」「自動車」「預貯金」「株式」「生命保険」が挙げられています。該当する資産を持っている場合には、チェックを入れます。
これら以外にも、財形貯蓄等の積立金、売掛金や貸付金等の債権、その他高価品などがある場合には、その他欄に記載します。
とは言え、あまりに少額のものまで記載する必要はないでしょう。概ね20万円以上の資産は記載しておいた方がよいでしょう。
(3)には、負債を記載します。と言っても、書式にはすでに「紛争の要点2及び関係権利者一覧表記載のとおり」と印字されていますので記載の必要はありません。
家族の状況
申立人の資産・負債の下の表には、「家族の状況」を記載します。記載が必要な家族は、生計を同一にする家族です。基本的には、同居の家族を記載することなるでしょう。ただし、別居であっても、生計を同一にしているのであれば記載が必要です。
家族については、その氏名、続柄、職業、月額の手取り収入、同居・別居の別を記載します。
その他返済額等について参考となる事項
ここには、たとえば、援助などが見込まれるので返済金額を増やすことができるなどや、逆に、子どもが進学する予定であるため出費が見込まれており、それまでは返済金額を抑えなければならないといったような個別の事情を記載しておくことになります。
返済についての希望
返済する方向での合意を希望する場合には、この項目に、毎月どのくらいの返済額で返済していきたいのかという希望を記載します。
もちろん、この希望どおりに返済計画を立てることができるかどうかはやってみないとわかりませんが、少なくとも、目安として考慮の対象にはしてくれるはずです。無理をしすぎず、かと言って、楽をしすぎずくらいの金額がよいでしょう。
記載方法がよく分からない場合
具体的な記載方法がよく分からないという場合は、簡易裁判所では、調停手続の案内を行っているところが多いので、簡易裁判所に行って直接ここはどう書けばいいのかということを聴いてみるとよいでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
債務整理と特定調停で悩んでいる場合
特定調停は、弁護士などに依頼せずに行うことが可能です。特に、債務がそれほど大きくない場合には、特定調停を選択することも考えられます。
他方、債務が高額な場合には、自己破産や個人再生なども考えておかなければいけません。自己破産や個人再生の場合には、弁護士に相談・依頼する必要があります。
まずは、債務整理について相談をしてみた上で、特定調停にするのか債務整理にするのかを選択した方がよいでしょう。
今どきは、ほとんどの法律事務所で債務整理の相談は無料相談です。むしろ有料のところを探す方が難しいくらいです。無料ですので、とりあえず相談してみてから考えるのが得策です。
弁護士法人ひばり法律事務所
・相談無料(無料回数制限なし)
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レ・ナシオン法律事務所
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・所在地:東京都台東区
参考書籍
本サイトでも特定調停について解説していますが、より深く知りたい方のために、債務整理や特定調停の参考書籍を紹介します。
特定調停法逐条的概説
編集:濱田芳貴 出版:民事法研究会
特定調停法の逐条解説。かなり詳細に書かれているため、実務家向けです。個人の債務整理だけでなく、事業再生にも対応しています。
クレジット・サラ金処理の手引き(6訂版)
編著・出版:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会
東京の三弁護士会による債務整理・クレサラ事件処理全般についての実務書。債務整理全般を1冊でまとめている実務書は意外と少ないので、債務整理を知るにはちょうど良い本です。
中小企業再生のための特定調停手続の新運用の実務
編集:日弁連中小企業法律支援センター 出版:商事法務
記事本文の内容と異なりますが一応紹介。特定調停の手続は、個人の債務整理だけでなく、中小企業の事業再生・私的整理の一環として利用されることも増えています。