
引き直し計算とは,最高裁判所の判決に基づき,貸金業者との間で行ってきたすべての貸し借りの取引を利息制限法所定の制限利率に直し,制限超過利息をすべて借入れ元本に充当しながら,利息制限法に従った正式な債務残高に計算をし直していくという計算手法のことをいいます。元本充当計算.利息計算などと呼ばれることもあります。
引き直し計算(元本充当計算)とは
クレサラ業者の借金について債務整理をするにあたって,必ず行わなければならない作業があります。それは「引き直し計算」です。
クレサラ業者は、かつて、利息制限法の制限利率を超える利率の利息をとっていました。これを利息制限法所定の制限利率に直して、法律に則った正確な債務額を算出しなければ、債務整理はできません。そのための計算方法が、引き直し計算です。
すなわち,引き直し計算とは,貸金業者とのこれまでの貸し借りの取引すべてを利息制限法所定の利率に直して,残元本額を計算するというもので,制限超過利息はすべて借入れ元本に充当しながら計算をしていくという計算手法のことをいいます。
この引き直し計算をすることで,利息制限法に従った実際の借金の正確な残額を知ることができます。また、この引き直し計算によって,過払い金が発生しているかどうかを調べることもできます。
いずれにしても、債務整理をするためには必須の作業です。
引き直し計算の根拠
今では当たり前に行われている引き直し計算ですが,はじめから当然に有効とされていたわけはありません。
かつて,利息制限法1条と4条には「債務者において超過部分を任意に支払つたときは,その返還を請求することができない」とする規定がありました。1条とは利息の支払いのことで,4条とは遅延損害金の支払いのことです(なお,現在ではこれらの規定は削除されています。)。
つまり,利息制限法所定の制限利率を超える利率の利息や遅延損害金を支払ったとしても,債務者が自分の意思で支払っている以上,その返還を請求することはできないという規定です。
判例も,この規程に従って,制限超過利息等を支払っても,債務者が任意に支払っている以上,有効になると判断していました。
しかし,それを変えたのが, 最高裁判所大法廷昭和39年11月18日判決(最大判昭和39年11月18日)です。
最大判昭和39年11月18日は,「債務者が,利息制限法(以下本法と略称する)所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息,損害金を任意に支払つたときは,右制限をこえる部分は民法491条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。」と判示して,それまでの判例を変更する解釈を示しました。
つまり,この判例は,利息制限法所定の制限利率を超える利息は,借金の元本に充当されていくと判示したのです。制限超過部分が元本に充当されていくというのは,まさに,現在行われている引き直し計算と同じ考え方です。
もっとも、この昭和39年判例が出された後も、当事者間で弁済充当の順序について合意があった場合でも制限超過利息を元本に充当できるのかという問題は残っていました。
これに答えたのが、最高裁判所第三小法廷昭和43年10月29日判決です。この判決は、制限超過部分は無効であるから、制限超過利息の弁済は無意味であり、その弁済充当の指定の合意も存在しないことになると判示しました。
これらの判例から、利息制限法の制限超過利息を支払ったとしても、それは元本に充当されることになり、仮に当事者間で元本には充当されないという合意をしていたとしても、その合意にかかわらず、やはり元本に充当されることになるという方式が確定されました。
これらの最高裁判例が示した理論に基づいて行われる計算が,引き直し計算(元本充当計算)です。引き直し計算の根拠は,これら最大判昭和39年11月18日と最三小判昭和43年10月29日にあります。
また,最高裁判所大法廷昭和43年11月13日判決は,上記各判例をさらに進め,引き直し計算の結果,計算上元本が完済となった後も,さらに利息制限法の制限超過利息を支払った場合には,その支払いすぎた利息の返還を請求できると判示しました。
すなわち,いわゆる過払い金の返還請求を認めたということです。引き直し計算をすることによって、過払金が発生しているかどうかも調べることができます。
引き直し計算の仕組み
前記のとおり、引き直し計算は、最高裁判例に基づいています。
最大判昭和39年11月18日、最三小判昭和43年10月29日は、利息制限法所定の制限利率を超える利息は無効であり、当事者間の合意にかかわらず、その制限超過利息は元本に充当されるとしています。
そこで、引き直し計算では、借入れの利率を利息制限法の制限利率に直し、返済した金額のうちの制限超過している部分を元本に充当していきます。元本に充当とは、元本に支払ったことにするということです。これをすべての貸し借りの取引について計算していくのが、引き直し計算です。
利息制限法に違反する取引を繰り返していた場合、引き直し計算をすると、少しずつ元本が減っていくことになります。もっとも、引き直し計算をしてみなければ、元本が減っていっているとは分かりません。計算上、元本が完済になった後にも、支払いを継続してしまうことは当然あります。
引き直し計算上、元本が完済になった後にも支払いをした場合、その金銭は払い過ぎということになります。これが過払金です。この過払金は、不当利得です。そのため、貸金業者に対して返還を請求できます。
引き直し計算の方法
引き直し計算は,通常,貸金業者から開示を受けた取引履歴に基づいて計算をすることになります。
その具体的な方法ですが,1つ1つの貸し借りをいちいち利息制限法の制限利率に引き直して計算していくとなると,不可能ではありませんが,かなりの手間と労力を必要とします。はっきり言って,時間の無駄です。
そこで,通常は,引き直し計算用の専門のソフト(大半はエクセル)を利用することになります。
これであれば,所定のセルに借入れ金額,貸付を受けた金額,その各年月日を入力するだけで引き直し計算ができてしまいます。
現在,引き直し計算ソフトは,誰でも容易に入手が可能です。書籍の付録についていることもあれば,インターネットでダウンロードすることも可能です。しかも,ほとんどが無料です。
試しに,インターネットの検索で「引き直し計算ソフト」と入力して検索してみてください。いくらでも,無料引き直し計算ソフトのダウンロードページが出てくると思います。
例えば、以下のページでもダウンロード可能です。(おそらく)一番有名な引き直し計算ソフトです。