
自己破産において免責不許可事由がある場合でも,裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができるものとされています。これを「裁量免責」と呼んでいます(破産法252条2項)。
免責不許可事由があっても免責される場合(裁量免責)
破産法 第252条
- 第2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
自己破産・免責の手続を経ると,債務が免責されることになります。つまり,借金などの債務を支払う義務がなくなるということです。
したがって,個人の自己破産の最大の目的は,この免責の許可をしてもらうことといってよいでしょう。
もっとも,常に免責が許可されるわけではありません。免責不許可事由という一定の事由がある場合(破産法252条1項)には,免責が不許可となってしまいます。
免責不許可事由の種類としては、例えば、ギャンブルで借金を増やしてしまったり、特定の債権者にだけ弁済をしてしまったり、換金行為をしてしまった場合などが、免責不許可事由に当たります。
しかし,免責不許可事由があると,絶対に免責が不許可になってしまうのかというと,そういうわけでもありません。
破産法252条2項は,免責不許可事由に該当する事由がある場合であっても,「裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができる。」と規定しています。
つまり,免責不許可事由がある場合であっても,諸般の事情を考慮して,裁判所が免責を許可してよいと判断した場合には,その裁量によって,免責を許可することができるということです。
これを「裁量免責」と呼んでいます。
したがって,免責不許可事由があったとしても,事情によっては,裁量免責により,免責の許可を受けることができるのです。
裁量免責が認められる場合
免責不許可事由があっても裁量免責によって免責が許可されることがありうるとして、どのような場合に裁量免責が認められるのかということが問題となってきます。
これについては,一般的基準というものはありません。破産法252条2項のとおり「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情」が考慮されることになります。
これは,免責を許可すべき事情があるかどうかというよりは,むしろ免責を許可することが相当でないかどうか,という意味に捉えるべきでしょう。
つまり,積極的に免責を許可すべき事情を判断するというよりは,むしろ,免責を不許可としなければならないような事情があるかどうかを判断するということです。
そして,「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情」が考慮されるわけですから,個々の事情によって,裁量免責が認められるかどうかは異なってきます。
例えば,以下のような要素が考慮されることになります。
免責不許可事由の程度
免責不許可事由の程度は、裁量免責における考慮要素の1つです。軽微な免責不許可事由であれば裁量免責が認められる方向に働く事情になるでしょう。
逆に,重大な免責不許可事由,例えば,ギャンブルで増やした借金が非常に過大であったり,明らかに他の債権者を害する目的で財産の隠匿や偏頗弁済を行ったような場合には,裁量免責が認められなくなる可能性があります。
破産手続への協力
裁量免責が認められるかどうかの判断要素として、特に重要とされているのが、破産手続に協力したかどうかという点です。
破産手続に協力したことは、裁量免責を認める方向に大きく働きます。しかし、破産手続に協力しなかった場合には、裁量免責を否定する方向に大きく働き、裁量免責が認められなくなる可能性がかなり大きくなります。
例えば、予納金を支払わなかったり、破産管財人との面接・打ち合わせや債権者集会へ出頭しなかったり、裁判所に虚偽の事実を申告したような場合です。
経済的更生の可能性
経済的更生の可能性も重要です。自己破産の手続は,破産者の経済的更生も重要な目的です。経済的更生の可能性がないという場合には,免責を認める必要性がありませんから,そのような場合には裁量免責が認められないという判断につながるでしょう。
具体的にいえば,破産手続中も浪費などをして生活を改善しようとしなかったり,借入れをしてしまったような場合には,経済的更生の可能性がないものと判断される場合があります。
逆に,家計の収支を改善し,経済的更生の意欲や可能性があるという場合には,裁量免責は認められやすくなるでしょう。
また,以前に借金を増やしてしまった原因となった事情がなくなったというような事情がある場合には,今後は借金を増やしてしまうおそれが小さくなったということで経済的更生の可能性があると認められ,裁量免責が認められる方向に判断されることになります。
実際の運用
実際の破産手続では,免責不許可事由がある場合であっても,よほどのことがない限り,裁量免責が認められ,免責が許可されるという場合が多いと思われます。
裁量免責が与えられない場合というのは,あまりにひどい免責不許可事由該当行為をした場合のほかは,生活を立て直そうともしない場合や破産手続にも協力しない場合に限られてくるのです。
逆に言えば,仮に免責不許可事由があっても,その不許可事由該当行為があまりにひどいものでない限り,破産手続開始後は生活を立て直そうと努力し,破産手続にもきちんと協力していけば,免責が与えられるということです。
もちろん免責不許可となる事例がまったくないというわけではありませんが,免責不許可事由がある場合でも,90パーセント以上は裁量免責となっているようです。
もちろん、これは明らかに免責が不許可になるというものは、あらかじめ任意整理や個人再生など別の債務整理方法を採用しているということもありますが、それでもかなりの割合で裁量免責が認められているのが現状といえます。
したがって、免責不許可事由があるからといって、自己破産はできないとあきらめる必要はありません。まずは、弁護士等の専門家に相談してみるべきでしょう。