債務不履行には,履行遅滞・履行不能・不完全履行という3つの類型があると解されています。
このうち,履行遅滞とは,債務者が,履行期に履行が可能であったにもかかわらず履行しないことをいいます。
履行遅滞とは?
民法 第415条 第1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
債務者が債務の本旨に従った履行をしない場合,債務不履行となり,法的責任を負担することになります。この債務不履行には,履行遅滞・履行不能・不完全履行という3つの類型があると解されています。
このうち,履行遅滞とは,債務者が,履行期に履行が可能であったにもかかわらず履行しないことをいいます(民法415条1項本文前段)。
例えば,貸金について,借主が貸主に対して約束の支払期日までに約束の金額を返済しなかった場合,その借主は履行遅滞の責任を問われることになります。
履行遅滞の成立要件
履行遅滞は,以下の要件を充たす場合に成立します。
- 履行期に履行が可能であったこと
- 履行期を経過しても債務の履行がされなかったこと
- 履行がされなかったことについて債務者に帰責事由があること
- 履行がされなかったことが違法であること
履行期に履行が可能であったこと
履行遅滞が成立するには,履行が可能であったことが必要です。そもそも履行が不可能なものであった場合には,履行遅滞は成立しません。
ただし,履行が不可能であるために履行ができなかった場合には,履行不能が成立することがあります。
履行期を経過しても債務の履行がされなかったこと
履行遅滞が成立するには,履行期を経過しても債務の履行がされなかったことが必要です。
履行期とは,債務を履行しなければならない時期のことです。
当事者間の合意によって履行期が定められている場合には,その約束の時期が履行期となります。履行期の定めがない場合には,債権者が債務者に対して履行を請求した時が履行期となります(民法412条)。
履行がされなかったことについて債務者に帰責事由があること
履行遅滞が成立するには,履行されなかったことについて債務者に帰責事由があることが必要です。
判例では古くから履行遅滞についても債務者の帰責事由が必要であると判示されており(大判大正10年11月22日等),これを受けて,改正民法(令和2年4月1日)415条1項ただし書きにおいて,履行遅滞の場合も債務者の帰責事由が必要となることが明記されました。
債務者の帰責事由とは,債務者に履行を遅れたことについて故意・過失または信義則上これらと同視される事由があるということです。
故意に履行期に履行をしなかった場合だけでなく,過失によって履行期に履行をしなかった場合にも,履行遅滞は成立します。
この帰責事由の要件は,債権者側が主張・立証しなければならないものではなく,債務者側が,免責事由として,「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものである」ことを主張・立証しなければならないものと解されています(民法415条1項ただし書き)。
ただし,金銭債務については,債務者に帰責事由がない場合であっても,履行期に履行をしなければ履行遅滞が成立するものとされています(民法419条2項)。
履行がされなかったことが違法であること
履行遅滞が成立するには,履行されなかったことが違法であることが必要です。
違法であるとは,刑罰を科されるような場合だけではなく,もっと広く,履行しないことについて法律上正当な理由がない場合を含みます。
例えば,債務者に留置権や同時履行の抗弁権がある場合や,正当防衛や緊急避難が成立する場合には,履行しないことに正当な理由があるといえるので,履行遅滞は成立しません。
履行遅滞の効果
履行遅滞が成立した場合,以下の法的効果が発生します。
- 履行請求
- 損害賠償請求
- 契約の解除
履行の請求
履行遅滞が成立した場合であっても,債権者は債務者に対して,引き続き債務の履行を請求することができます。
もっとも,債務が存在している以上,履行期を徒過していたとしても履行を請求できることは当然のことでしょう。
その意味では,履行遅滞の効果というよりも,契約や合意の効果そのものと言った方が分かりやすいかもしれません。
損害賠償請求
履行遅滞によって損害を被った場合,債権者は債務者に対して損害賠償を請求することができます(民法415条1項本文)。
この損害賠償について,履行遅滞があった場合に直ちに本来の履行請求をしないで,または,本来の履行を拒絶して,填補賠償を請求することができるのかが問題となります。
これについては,履行期以降に履行されても債権者に利益がないといえるような場合には,本来の履行を拒絶して填補賠償をすることも可能であると解されています。
ただし,実際に履行期以降に弁済を拒絶して填補賠償をする場合には,まず契約を解除した上で損害賠償請求するのが通常でしょう。
契約の解除
履行遅滞があった場合,債権発生原因が契約であれば、債権者は債務者との間の契約を解除することができます。
契約を解除した場合,当該契約は原則として遡及的に消滅します。そのため,当該債務は消滅することになりますが,損害賠償を請求することは可能です。
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