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個人再生における清算価値保障原則とは?

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清算価値保障原則とは、再生計画における弁済率が破産における場合の配当率以上でなければならないとする原則のことをいいます

個人再生においては、再生計画における弁済総額(計画弁済総額)は、清算価値保障原則を充たしていなければなりません。

計画弁済総額が清算価値保障原則を充たしているかどうかは、再生計画認可決定の判断時点において審査されます。計画弁済総額が清算価値保障原則を充たしていない場合、再生計画不認可事由があるものとして、再生計画は不認可となります。

個人再生における清算価値保障原則とは?

個人再生においては、「清算価値保障原則」と呼ばれる原則が適用されると解されています。

清算価値保障原則とは、再生計画における弁済率が破産における場合の配当率以上でなければならないとする原則のことをいいます

破産をした場合、破産者の有している財産は(換価処分をしなくてよい自由財産を除き)換価処分され、破産債権者に配当されることになります。配当率とは、破産債権額に対する実際の配当額の割合です。

個人再生においては、破産をしたと仮定した場合にどのくらいの配当がなされていたのかを想定して、その配当率以上の弁済率でなければならないとするのが清算価値保障原則です。

もっと簡単にいえば、個人再生では、自己破産した場合に予想される配当額以上の金額は弁済しなければならないということです。

清算価値保障原則が求められる根拠・理由

個人再生における清算価値保障原則は、民事再生法に明文はありませんが、再生計画不認可事由の1つである「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法174条2項4号)に含まれていると解されています。

個人再生においては、場合によっては相当の減額や長期の分割払いへの変更が可能となります。その上、破産の場合と異なり、財産の換価処分は必要とされていません。

しかし、もし債務者が多くの財産を有しているにもかかわらず、それを処分しないまま大幅な債務の減額等が認められるとしたら、債権者は到底納得しないでしょう。

債権者としては、個人再生によって弁済される金額以上の財産があるのならば、個人再生ではなく破産をして、財産を換価処分し、配当に回してほしいと考えるのが当然です。

そこで、個人再生に対する債権者の理解を得るために、個人再生においては、少なくとも、破産した場合の配当率以上の弁済率での弁済は必要であるものとしているのです。それが清算価値保障原則なのです。

個人再生における計画弁済総額

個人再生においては、裁判所によって認可された再生計画に定められた金額を基準債権に対して弁済していくことになります。この基準債権に対する再生計画に基づく弁済の総額を「計画弁済総額」といいます。

もっとも、計画弁済総額はいくらでもよいというわけではなく、以下の基準をすべて充たしているものでなければなりません。

計画弁済総額の基準
  • 最低弁済額以上であること
  • 破産の場合の予想配当率に基づく金額(予想配当額)以上であること(清算価値保障原則)
  • 可処分所得の2年分以上であること(給与所得者等再生の場合)

計画弁済総額が上記の要件を充たしていない場合、再生計画不認可事由があるものとして、再生計画は不認可となります。

したがって、清算価値保障原則を充たしていない場合も、再生計画不認可事由があるものとして、再生計画は不認可となります。

つまり、計画弁済総額は、最低弁済額および破産の場合の配当予想額(給与所得者等再生の場合には、これらに加えてさらに可処分所得の2年分の金額)以上の金額、でなければならないのです。

清算価値と自由財産

前記のとおり、清算価値保障原則とは、再生計画における弁済率が破産における場合の配当率以上でなければならないとする原則のことです。

個人再生をしようというのですから、ここでいう破産の場合の配当率はあくまで仮定的に算定されるものですが、その場合に、自由財産を考慮するのかどうかという問題があります。

自由財産とは、破産手続において換価処分をしなくてもよい財産のことをいいます。破産の場合の予想配当額を算定するに際して、自由財産は除いてもよいのかどうかという問題です。

本来的自由財産の場合

破産法等の法律上、当然に自由財産になると規定されている財産(本来的自由財産)があります。例えば、99万円以下の現金、差押禁止財産などです。

本来的自由財産については、破産をした場合でも当然に換価処分の対象とならず、それが処分されて配当されることもないわけですから、配当予想額に含める理由がありません。

したがって、破産した場合の予想配当額(清算価値)から本来的自由財産の価額は除かれるのが通常です。

ただし、裁判所によっては、自己破産の管財手続における引継予納金の最低額(多くの裁判所では20万円)を超える場合には、清算価値に含めるという運用もあるようですので、個人再生を申し立てる裁判所ごとに確認が必要です。

自由財産の拡張の考慮

破産においては、本来的自由財産でなくても、裁判所が自由財産に含めるのが相当であると判断した財産については、自由財産として取り扱うことができるようになります。これを自由財産の拡張といいます。

個人再生における清算価値の算定において、この自由財産拡張をも考慮することができるのかが問題となりますが、清算価値算定においては自由財産拡張は考慮しないとするのが原則です。

なぜなら、自由財産が拡張されるかどうかは、現実に破産をして、財産の処分などをしているという具体的な状況から個別具体的に判断されるものであるため、予想することができないからです。

もっとも、東京地裁大阪地裁など多くの裁判所では、一定の財産(例えば、20万円未満の預貯金など)については、個別具体的判断ではなく、一律に自由財産の拡張が認められる財産の基準(換価基準・自由財産拡張基準)が設けられています。

したがって、その換価基準に該当する財産が自由財産になり、換価処分されない財産であることは、実際に破産をしていなくても予想できます。

そのため、本来的自由財産のほか、換価基準に該当する財産についても、清算価値から除いて計算するのが通常です。

ただし、これもあくまで裁判所ごとの運用です。裁判所によっては、自由財産拡張基準があっても清算価値からは控除しないという運用もあり得ますので、個人再生を申し立てる裁判所ごとに確認が必要です。

清算価値保障原則と最低弁済額

前記のとおり、個人再生における計画弁済総額は、最低弁済額と破産の場合の予想配当額を上回る金額でなければなりません。

つまり、計画弁済総額は、最低弁済額と破産の場合の予想配当額のいずれか高額な方以上の金額でなければならないということです。

なお、最低弁済額の方が予想配当額よりも高額であるとしても、清算価値保障原則が適用されなくなるわけではありません。その場合でも清算価値保障原則は適用されます。

最低弁済額の方が大きいため、その金額が計画弁済総額として採用されるというだけです。

なお、給与所得者等再生の場合には、最低弁済額、清算価値の額に加えて、可処分所得の2年分の金額以上でなければなりません。

清算価値算定の基準時

通常の民事再生手続(個人再生ではない民事再生手続)では、再生手続開始時において清算価値が算定されると解されています。

もっとも、個人再生の場合、再生計画認可決定時における計画弁済総額よりも清算価値の方が高額であったときは再生計画を取り消すことができるとして(民事再生法236条、242条)、計画弁済総額と清算価値とを比較する時点が再生計画認可決定時点とされています。

そのため、個人再生においては、清算価値算定の基準時は再生計画認可決定時であると解されています。

したがって、個人再生手続の開始時点では最低弁済額を上回る財産がなかったとしても、再生手続開始後に財産が増加しているような場合には、再生計画認可時に最低弁済額を上回る清算価値になっていないかどうかについて注意をしておく必要があるでしょう。

清算価値の算定方法

清算価値の算定については、個々の財産の価額を算定しておく必要があります。個々の財産の価額は、基本的に当該財産を処分した場合の時価金額を価額とします(民事再生規則56条1項)。

前記のとおり、清算価値の算定においては自由財産は除かれるのが通常ですので、自由財産に該当する財産は清算価値から控除します。

なお、各地の裁判所では、清算価値算出シートと呼ばれるエクセルの書式が用意されています。この算出シートに従って計算をして、裁判所に提出することになっています。

参考として、日弁連が公表している清算価値算出シートは、以下のページをご覧ください(なお、裁判所ごとに書式が異なりますので、以下のページの書式はあくまで参考にとどめてください。)。

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