
破産手続が開始されると、破産者には、説明義務(破産法40条)、重要財産開示義務(破産法41条)や、債権調査期日への出頭および意見陳述義務(破産法121条1項、3項、122条2項)が課されます。
破産者が法人である場合、その法人の取締役や理事にも、説明義務が課されます(破産法40条1項3号)。
説明義務および重要財産開示義務に違反した場合、破産犯罪が成立し、刑罰を科されることがあります(破産法268条、269条)。
破産者に課される義務
破産者とは、債務者であって、裁判所により破産手続開始の決定がされている者のことをいいます(破産法2条3項)。
破産法の目的である債権者に対する公平な分配を達成するため、破産者は財産の管理処分権を失い、自分たちの意思決定によって事業活動を継続することもできなくなります。
もっとも、破産者の財産状況や負債状況などを最もよく知るのは、当然、その破産者であり、破産者が会社などの法人であれば、その法人・会社の役員等であるはずです。
そのため、破産手続を円滑に進め、債権者に対する公平な分配を実現するためには、破産者および役員等の協力が必要となってきます。
そこで、破産手続の実効性を担保するために、破産者および役員等に対しては、破産手続において一定の義務が課せられています。具体的には、以下のような義務が課されています。
- 説明義務
- 重要財産開示義務
- 債権調査期日への出頭および意見陳述義務
これらの義務に違反した場合、違反の程度や内容によっては、破産犯罪として刑罰の対象となる可能性もあります。
取締役・理事等の説明義務
破産法 第41条
- 第1項 次に掲げる者は、破産管財人若しくは第144条第2項に規定する債権者委員会の請求又は債権者集会の決議に基づく請求があったときは、破産に関し必要な説明をしなければならない。ただし、第5号に掲げる者については、裁判所の許可がある場合に限る。
- 第1号 破産者
- 第2号 破産者の代理人
- 第3号 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役及び清算人
- 第4号 前号に掲げる者に準ずる者
- 第5号 破産者の従業者(第2号に掲げる者を除く。)
- 第2項 前項の規定は、同項各号(第1号を除く。)に掲げる者であった者について準用する。
破産手続の実効性を確保するため、以下の者に対しては、破産に関して必要な説明をしなければならない義務が課せられています(破産法40条1項、2項)。この義務のことを「説明義務」といいます。
- 破産者
- 破産者の代理人(および過去に破産者の代理人であった者)
- 破産者が法人である場合は、その理事・取締役・執行役・監事・監査役・清算人・これらに準ずる者(および過去に理事・取締役・執行役・監事・監査役・清算人・これらに準ずる者であった者)
- 破産者の従業員(および過去に破産者の従業員であった者)
上記の「破産者」(破産法40条1項1号)は、個人である破産者のことを指すと解されています。
したがって、法人破産の場合は、破産者である法人自身ではなく、上記のうちから「破産者」を除く者、特に理事や取締役等に対して、説明義務が課せられることになります(破産法40条1項3号)。
なお、破産者の従業員については、裁判所の許可があった場合に限り、説明義務が課せられます(破産法40条1項5号)。
これらの説明義務者に対して説明を請求できるのは、破産管財人です。ただし、債権者委員会からの請求や債権者集会における決議に基づく請求があった場合も、破産に関し必要な説明をしなければなりません。
説明義務に基づき説明しなければならない破産に関する必要な事項には、破産者の財産や負債等に関する一切の事項の説明が含まれます。
また、説明義務には、口頭説明だけでなく、必要書類の提出義務も含まれると解されています。
重要財産開示義務
破産法 第41条
- 破産者は、破産手続開始の決定後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。
破産手続の実効性を確保するため、破産者には、破産手続開始後に遅滞なく、所有する不動産・現金・有価証券・預貯金・その他裁判所が指定する財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない義務を課せられます(破産法41条)。
この義務のことを「重要財産開示義務」といいます。
重要財産開示義務を課せられる「破産者」には、個人破産者だけでなく、法人・会社の破産者も含まれます。ただし、現実にこの義務を履行することになるのは、法人・会社の代表者です。
重要財産開示義務によって開示しなければならない財産は、破産手続開始の時点で破産者が所有していた財産です。
破産法41条に列挙されている不動産・現金・有価証券・預貯金だけでなく、裁判所が指定する財産についても開示が必要となります。
開示は、財産の内容を記載した書面を裁判所に提出する方法によって行う必要があります。
債権調査期日に関する義務
破産法 第121条
- 第3項 破産者は、一般調査期日に出頭しなければならない。ただし、正当な事由があるときは、代理人を出頭させることができる。
- 第4項 前項本文の規定により出頭した破産者は、第1項の破産債権の額について、異議を述べることができる。
- 第5項 第3項本文の規定により出頭した破産者は、必要な事項に関し意見を述べなければならない。
- 第6項 前二項の規定は、第3項ただし書の代理人について準用する。
破産法 第122条
- 第2項 第119条第2項及び第3項、同条第6項において準用する第118条第3項から第5項まで、第120条並びに前条(第7項及び第9項を除く。)の規定は、前項本文の場合における特別調査期日について準用する。
破産手続における債権調査手続には、一般調査と特別調査がありますが、いずれの場合も、債権調査期日が定められることがあります。
一般的には、債権者集会の開催に合わせて債権調査期日が指定される運用になっています。
破産者は、一般調査期日および特別調査期日のいずれにも出頭しなければならない義務が課せられます(破産法121条3項、122条2項)。
また、出頭義務だけではなく、一般調査期日および特別調査期日のいずれにおいても、必要な事項に関して意見を述べなければならない義務が課せられます(破産法121条5項、122条2項)。
法人・会社が破産者である場合は、その法人・会社の代表者が出頭し、意見を述べることになります。
ただし、正当な理由がある場合には、法人・会社の代表者ではなく、代理人のみの出頭及び意見陳述で足りるとされています(破産法121条3項ただし書き、6項、122条2項)。
なお、債権調査期日への出頭や意見陳述は、上記のとおり破産者の義務ではありますが、出頭して破産債権等に対する意見を述べる機会が与えられる点からみれば、破産者の権利であるともいえるでしょう。
義務違反があった場合
説明義務および重要財産開示義務に違反した場合、破産犯罪が成立し、破産者(または理事や取締役等)は、刑罰を科せられることがあります。
まず、説明義務者が、破産法40条に定める説明義務に違反して、説明を拒み、または虚偽の説明をした場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方を科せられることがあります(破産法268条1項)。
また、破産者が、破産法41条に定める重要財産に関する書面の提出を拒み、または裁判所に対して虚偽の書面を提出した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方を科せられることがあります(破産法269条)。
個人破産の場合には、これらの義務違反行為は、破産犯罪とされるだけでなく、免責不許可事由に該当することにもなります。
債権調査期日への出頭および意見陳述義務違反は、破産犯罪にはなりませんが、個人破産の場合であれば、免責不許可事由に該当します。