この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
- Q交通事故の被害者または遺族が利用できる公的給付には何がある?
- A
交通事故の被害者が利用できる公的給付には、自賠責保険・共済や政府保障事業、労災保険、健康保険、介護保険、障害年金などがあります。また、被害者遺族への公的給付として、遺族年金や労災年金からの給付があります。
この記事では、交通事故の被害者または遺族が利用できる各種の公的給付について説明します。
- 自賠責保険・共済や政府保障事業を利用できるケース
- 交通事故で労災保険を利用できるケースやメリット・デメリット
- 交通事故で健康保険・介護保険・障害年金を利用できるケース
- 交通事故の被害者の遺族が受け取れる遺族年金・労災年金からの給付
- 交通事故の被害者や遺族が利用できる低金利貸付けなどの支援制度
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交通事故の被害者が利用できる公的給付
交通事故の被害に遭った場合、被害者は加害者等に対して損害賠償を請求するのが基本ですが、加害者に支払い能力がない場合、十分に被った損害を補填できないおそれがあります。
交通社会である現代においては、交通事故は避けられない問題です。交通社会による利益を社会全体が享受している以上、それによって生じた損害の填補も、ある程度は社会全体で負担しなければならないでしょう。
そこで、交通事故の被害者や遺族を保護するため、各種の公的給付が支払われる制度が設けられています。具体的に言うと、被害者は、以下のような制度を利用できます。
- 自動車損害賠償保障保険・共済(自賠責保険・自賠責共済)
- 政府による自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)
- 労働者災害補償保険(労災保険)
- 健康保険
- 介護保険
- 遺族年金・労災年金
- 被害者や遺族への低金利貸付け制度
以下、それぞれについて詳しく説明します。
自賠責保険・共済
交通事故の被害者が利用できる公的給付制度として代表的な制度が、自動車損害賠償保障保険・共済(自賠責保険・共済)です。
自動車損害賠償責任保険・共済(自賠責保険・自賠責共済)とは、自動車による人身事故の被害者を保護するため、自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づき、自動車を運行する者に加入義務が課される公的な自動車保険・共済です。
自賠責保険は、被害者の最低限度の損害の填補を図るための公的保険制度です。強制加入が義務付けられていることから、強制保険と呼ばれることもあります。
加害者に支払能力がない場合でも、国が損害賠償を負担してくれるため、被害者が何も受け取れない状態になることを防ぐことができます。
自賠責保険・共済を利用できるケース
自賠責保険・共済は、以下の条件を満たす場合に利用可能です。
- 自動車の運行による人身事故であること
- 加害者が自賠責保険・共済に加入していること
自賠責保険・共済を利用できるのは、「自動車の運行による人身事故」です。自動車事故でない場合や物損事故の場合には利用できません。
また、あくまで自動車保険であるため、加害者が自賠責保険・共済に加入していない無保険車であった場合も、利用できません。
自賠責保険・共済で支払われる金額
自賠責保険・共済は広く被害者の損害を補填できる制度ですが、あくまで最低限度の補償であるため、支払額の上限が決められています。
- 死亡による損害:3000万円
- 死亡までの傷害による損害:120万円
- 傷害による損害:120万円
- 神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で、介護を要する場合の損害
- 常時介護が必要となる場合:4000万円
- 随時介護が必要となる場合:3000万円
- 介護を要する後遺障害に至るまでの傷害による損害:120万円
- その他の後遺障害の場合の損害(後遺障害等級により異なる)
- 第1級:3000万円
- 第2級:2590万円
- 第3級:2219万円
- 第4級:1889万円
- 第5級:1574万円
- 第6級:1296万円
- 第7級:1051万円
- 第8級:819万円
- 第9級:616万円
- 第10級:461万円
- 第11級:331万円
- 第12級:224万円
- 第13級:139万円
- 第14級:75万円
この支払上限額の範囲内で、法令で定められた支払基準に基づいて具体的な支払額が決められます。損害の全部を補填できるとは限りません。
自賠責保険・共済だけでは損害全部を補填できない場合は、別途、加害者(または加害者側の任意保険会社)に請求する必要があります。
政府保障事業
ひき逃げで加害者が不明な場合や無保険車による事故のように、自賠責保険・共済を利用できない場合に利用できる制度が、政府による自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)です。
政府保障事業とは、自動車による人身事故において自賠責保険が適用されない場合に、法令で定める限度で、被害者が被った損害を政府が填補する制度です。
政府保障事業が利用できれば、自賠責保険・共済が利用できない場合でも、自賠責保険・共済と同程度の補償を受けることができます。
政府保障事業を利用できるケース
政府保障事業を利用できるのは、以下のようなケースです。
- 自動車によるひき逃げにあったため、自動車の保有者が不明な場合
- 加害者が自賠責保険・共済に加入していない無保険車であった場合
- 盗んだ自動車の運行で被害を受けた場合(泥棒運転)
政府保障事業は、あくまで自賠責保険・共済を補完する制度であるため、自動車の運行による人身事故の場合にのみ利用が可能です。自動車でない事故や物損事故では利用できません。
政府保障事業で支払われる金額
政府保障事業で支払われるのは、基本的に自賠責保険・共済と同じです。そのため、法令によって上限が決められています。
労災保険
交通事故被害に遭った場合には、各種の社会保険によって一定の給付を受けられる場合もあります。労災保険給付もそのひとつです。
労働者災害補償保険(労災保険)とは、労働者の業務または通勤によって生じた傷病や死亡について必要な給付を行う公的保険です。労働者を1人でも雇用する事業者には労災保険への加入義務が課されています。
加害者が自賠責保険・共済に加入していない場合や、自動車の運行でないため自賠責保険・共済や政府保障事業が使えない場合でも、労災保険の適用されるケースであれば、被害者は補償を受けることができます。
労災保険を利用できるケース
交通事故で労災保険を利用できるのは、以下の場合です。
- 業務災害:業務中に傷病・死亡した場合
- 通勤災害:通勤中に傷病・死亡した場合
労災保険を利用できるのは、業務中または通勤中に交通事故(人身事故)に遭った場合に限られます。業務・通勤外の事故や物損事故には利用できません。
交通事故で労災保険を利用するメリット
労災保険には、以下のようなメリットがあります。
- ひき逃げや無保険車による事故など自賠責保険・共済が利用できない場合や、自動車の運行による事故でないため自賠責保険・共済も政府保障事業も利用できない場合でも、補償を受けられる
- 治療費に上限がなく全額支給を受けられる
- 被害者自身に過失がある場合でも、過失相殺による減額が行われない
- 特別支給金が上乗せで支払われる
労災保険では自賠責保険のような上限額がないため、まず労災保険を利用して治療費をまかない、その上で自賠責保険に請求して上限額までもらうことにより、自賠責保険単体に請求する場合よりも多くの補償を受けられます。
また、労災保険では過失相殺が行われません。そのため、被害者自身の過失が大きい場合でも、受け取れる金額を減額されずに済みます。
交通事故で労災保険を利用するデメリット・注意点
交通事故で労災保険を利用する場合には、以下のデメリット・注意点があることも確認しておきましょう。
- 慰謝料が支払われない
- 勤務先会社の協力を得られず、労災認定に時間がかかることがある
労災保険には、慰謝料がありません。慰謝料が高額になるケース(特に後遺障害や死亡事故)の場合には、自賠責保険や政府保障事業を先に利用した方がよいでしょう。
また、交通事故の認定だけでなく、会社側が労災利用を嫌がって、通勤災害や業務災害該当性などの労災認定自体にも時間がかかってしまう場合があり得るのも、現実的なデメリットです。
健康保険
交通事故による診療のためであっても、健康保険を利用することは可能です。
健康保険診療は保険点数が低いため、医師によっては健康保険診療を拒否する場合があるようですが、そのようなことはありません。健康保険は交通事故でも、当然に使えます。
健康保険を利用することで治療費を抑えることにより、自賠責保険で受領できる金額が大きくなる場合があります。
ただし、労災保険が利用できる場合は健康保険を利用できません。ただし、労災認定に時間がかかっている場合には、とりあえず健康保険を利用して治療費を支払い、後に切り替えることが可能です。
なお、業務中または通勤中以外の交通事故で4日以上休業した場合には、健康保険から傷病手当金の給付を受けられることがあります。
介護保険
介護保険の対象者(65歳以上)は、交通事故によって介護が必要な状態になった場合、介護保険の利用が可能です。
ただし、交通事故の場合、加害者が介護サービスの費用を負担するのが原則です。そのため、交通事故で介護保険を利用するときは、市区町村への届出(第三者行為による傷病の届出)が必要になります。
障害年金からの給付
交通事故で重度の後遺障害を生じた場合には、障害年金から以下のような年金または一時金を受け取れることがあります。
- 国民年金(障害基礎年金)
国民年金に加入していた被害者が後遺障害等級1級または2級に相当する障害を負った場合に年金を受け取れます。 - 厚生年金(障害厚生年金・障害手当金)
厚生年金に加入していた被害者が後遺障害等級1級~3級に相当する障害を負った場合に障害厚生年金を受け取れます。後遺障害等級3級に満たない障害の場合は、一時金として障害手当金が給付されることがあります。
遺族年金・労災年金からの給付
交通事故によって被害者が亡くなった場合、遺族に対して一定の公的給付がされることがあります。具体的には、以下の年金からの給付があります。
- 国民年金(遺族基礎年金)
被害者が国民年金に加入していた場合、被害者によって生計を維持されていた「18歳到達年度の末日までにある子(障害者は20歳未満)のいる配偶者」または「子」に支給されます。 - 厚生年金(遺族厚生年金)
被害者が厚生年金に加入していた場合、被害者によって生計を維持されていた遺族(配偶者または子、父母、孫、祖父母の中で優先順位の高い人)に支給されます。 - 厚生年金(遺族基礎年金)
被害者が厚生年金に加入していた場合、被害者によって生計を維持されていた「子のある妻」または「子」に遺族厚生年金とあわせて支給されます。 - 労災年金(遺族補償給付・遺族給付)
業務中または通勤中の交通事故で被害者が亡くなった場合、被災労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた「配偶者」「子」「父母」「孫」「祖父母」「兄弟姉妹」に支給されます。 - 労災年金(葬祭料・葬祭給付)
業務中または通勤中の交通事故で被害者が亡くなった場合、葬祭を行った遺族に支給されます。
なお、国民年金・厚生年金からの給付と労災年金からの給付は併用する場合、労災年金からの給付が減額されます。
また、加害者からの損害賠償金などから拠出金を支払うことによって、「子」が満19歳になるまで給付金を受け取れる「交通遺児等育成基金による交通遺児育成基金制度」などもあります。
交通事故被害者・遺族に対する支援制度
公的給付とまではいえませんが、交通事故遺児や、交通事故によって生活が困窮してしまった場合などには、以下のような介護料の支援や無利子または低金利での貸付けが利用できます。
- 自動車事故対策機構の介護料の支援制度
- 自動車事故対策機構の交通遺児貸付制度
- 交通遺児育英会の奨学金貸与制度
- その他一般的な低金利融資制度
- 社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度
- 各地方公共団体の母子・父子福祉資金貸付制度
- 日本学生支援機構の奨学金貸与制度
どの公的給付を利用したらよいのかの判断
交通事故の被害者が利用できる公的給付や支援制度は数多くあります。
ただし、すべてを満額まで利用できるわけではなく、複数の制度を利用すると金額を調整されることもあります。また、公的給付を受ける前に加害者と示談交渉が成立すると、公的給付を受けられなくなります。
それぞれの制度ごとに特徴があるため、「どの公的制度を利用すればよいのか」「いつ加害者と示談するのがベストなのか」を判断するのは、非常に難しいです。
最適な判断をするためには、交通事故に遭ったらなるべく早い段階で弁護士に相談し、どのような段取りで公的制度の利用や加害者との交渉を進めればよいのかを聞いておいた方がよいでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
弁護士に依頼するメリット
「交通事故の損害賠償請求は弁護士に頼んだ方がいいの?」
とお悩みの方は少なくないでしょう。
実は、交通事故の損害賠償額には、保険会社の基準と裁判基準(弁護士基準とも呼ばれます。)があります。保険会社の基準は、裁判基準よりもかなり低額に抑えられています。
そのため、自分で保険会社と示談交渉する場合よりも、弁護士に依頼して裁判基準で示談交渉または訴訟をしてもらう方が、損害賠償額が高額になる可能性が高いのです。弁護士に依頼する一番のメリットは、その点にあります。
特に、自動車保険に弁護士特約を付けてある場合には、弁護士費用を保険金で支払うことが可能です。そのため、自己負担がほとんどないまま、弁護士に依頼することができます。弁護士特約がある場合には、間違いなく弁護士に依頼すべきです。
- 被害者の相談無料
- メール相談可・土日祝日対応可
- 着手金無料(完全成功報酬・費用の後払い可能)
- 損害賠償額が増額しない場合は弁護士報酬0円
- 弁護士特約の利用可能
- 所在地:東京都足立区
- 相談無料
- 全国対応・メール相談可
- 着手金無料(完全成功報酬型)
- 増額できなければ弁護士費用は無料
- 弁護士特約の利用可能
- 所在地:東京都港区
参考書籍
本サイトでも交通事故損害賠償について解説していますが、より深く知りたい方のために、交通事故損害賠償の参考書籍を紹介します。
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
出版:日弁連交通事故相談センター東京支部
通称「赤い本」。交通事故損害賠償請求を扱う弁護士は、ほとんどが持っている必携書。東京地裁の実務を中心に、損害賠償額の算定基準(裁判基準)を解説しています。この本の基準が実務の基準と言ってよいほどに影響力があります。毎年改定されています。
交通事故損害額算定基準 -実務運用と解説-
出版:日弁連交通事故相談センター
通称「青本」。こちらは、赤い本と違って、東京地裁だけでなく、全国の裁判所における裁判例を紹介しています。2年に1回改訂されています。
民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)別冊判例タイムズ38号
編集:東京地裁民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
こちらも実務必携と言われる書籍。交通事故では過失相殺がよく問題となりますが、その過失相殺率の認定基準を解説する実務書です。東京地裁の裁判官が中心となって執筆されている本ですが、この本の認定基準が全国的な実務の基本的な認定基準となっています。
大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(第4版)
編集:大阪民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
大阪地裁交通部(第15民事部)の裁判官による大阪地裁における交通事故損害賠償額算定基準を解説する実務書。大阪地裁で交通事故訴訟をする場合には必携です。(※なお、大阪弁護士会交通事故委員会による「交通事故損害賠償算定のしおり(通称、緑の本)」とは異なります。こちらは、裁判官執筆の本です。)
新版注解交通損害賠償算定基準
著者:高野真人ほか 出版:ぎょうせい
赤い本や青本の解説書。実務書の解説書という珍しい本ですが、赤い本や青本はどちらかと言うと資料集的な実務書であるため、詳細な理由付けなどが説明されていない部分もあります。本書は、そこを解説しています。赤い本や青本とセットで持っていると便利です。
交通事故損害賠償法(第3版)
編集:北河隆之 出版:弘文堂
交通事故損害賠償に関する法律の体系書。実務マニュアル的なものではなく、理論的な面の解説も体系的にまとめられており、交通事故損害賠償の基本書といった感じの本です。
逐条解説自動車損害賠償保障法(第3版)
著者:北河隆之ほか 出版:弘文堂
弁護士・裁判官など実務家による自動車損害賠償保障法の逐条解説書。1冊持っていると便利です。

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