
個人再生における住宅資金特別条項は「住宅の上に民事再生法第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき」には利用できません(民事再生法198条1項)。
簡単に言うと、住宅に、住宅ローン以外の債権を担保するための担保権が設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用できないのが原則であるということです。いわゆる諸費用ローンやペアローンなどの場合に問題となります。
住宅に住宅ローン以外の担保が設定されている場合における住宅資金特別条項の利用の可否
民事再生法 第198条
- 第1項 住宅資金貸付債権(民法第500条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第53条第1項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。
銀行や住宅金融支援機構などの住宅ローン会社から住宅ローンを借りる際、ローンの目的である住宅に住宅ローンの支払いを担保するための抵当権が設定されるのが通常です。
個人再生において「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用するためには、対象とする住宅ローンが「住宅資金貸付債権」に該当するものである必要があります。
そして、住宅資金貸付債権は、その借入れの目的が住宅の建設・購入・改良に必要な資金のためであり、分割払いの定めがあるというだけではなく、その貸付債権またはその貸付債権の保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されている場合でなければなりません(民事再生法196条3号)。
住宅ローンを担保するために住宅に抵当権が設定されているのであれば、「貸付債権またはその貸付債権の保証会社の求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されている場合」に該当します。
もっとも、住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当する場合であっても、「住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき」には、住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項ただし書き)。
簡単に言えば、住宅に住宅ローン以外の債権を担保するための抵当権等の担保権が設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用することができないのが原則であるということです。
1個の不動産に1つしか担保権を設定できないわけではありません。1個の不動産に複数の担保権を設定することは可能です。
したがって、住宅ローン支払いを担保するための抵当権が設定されている住宅に、別途、違う目的、例えば、事業資金の融資などの支払いを担保するための抵当権や不動産質権などの担保権を設定することができます。
しかし、住宅ローンを担保するための抵当権以外に、住宅ローンでない債権を担保するための担保権が設定されていると、仮に、住宅資金特別条項を定めたとしても、住宅ローン以外の債権のための担保権が実行されることによって住宅が失われ、住宅資金特別条項を定めた意味がなくなってしまいます。
そのため、住宅に、住宅ローンを担保するための抵当権以外の債権を担保するための担保権が設定されている場合には、住宅資金特別条項を利用できないのが原則とされているのです。
住宅資金特別条項を利用できる可能性がある場合
前記のとおり、住宅ローンを担保するための抵当権以外に、住宅ローンでない債権の担保権が設定されている場合には、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用できないのが原則です。
もっとも、名目が住宅ローンそのものではないとはいえ、住宅を建設・購入・改良するために、どうしても負担しなければならない債務もあるでしょう。
それを負担しなければ住宅の建設・購入・改良をすることができない債務について担保が設定されている場合であっても、名目が住宅ローンでないという理由だけで住宅資金特別条項を利用できなくなるというのでは、住宅を残すことによって債務者の経済的更生を図ろうとした住宅資金特別条項の趣旨に沿いません。
そこで、住宅ローンを担保するための抵当権以外に、住宅ローンそのものでない債権を担保するための担保権が住宅に設定されている場合であっても、その住宅ローン以外の債権が住宅を建設・購入・改良するために必要なものであると言えるときには、住宅資金特別条項の利用が可能とされることがあります。
また、前記のとおり、民事再生法198条1項の趣旨は、住宅ローン以外の債権のための担保権が実行されることによって住宅が失われてしまい、住宅資金特別条項を無意味にしてしまうことを防止することにあります。
そうであるとすれば、住宅ローン以外の債権のための担保権が実行されるおそれがない場合であれば、住宅資金特別条項の利用を認めても差し支えないはずです。
そこで、住宅ローン以外の債権のための担保権が住宅に設定されている場合であっても、その担保権が実行されるおそれがない特別な事情がある場合には、住宅資金特別条項の利用が可能とされることがあります。
諸費用ローンの場合
住宅ローンを借り入れる際に、住宅を建設・購入・改良するための資金のほか、それに付随する各種の手続をするための資金を一緒に借り入れることがあります。
例えば、不動産の登記費用、そのための司法書士報酬、保証会社に対する保証料、不動産屋に対する仲介手数料、各種の登録手数料、団体信用保険料や火災保険料など各種保険料などを支払うための資金です。
これらの資金のための借入れは、まとめて「諸費用ローン」と呼ばれることがあります。
これら諸費用ローンの支払いを担保するために、住宅ローンとは別に抵当権が設定されることがあります。
この諸費用ローンは住宅ローンそのものではありません。
したがって、諸費用とローンを担保するための抵当権が設定されている場合、住宅ローン以外の債権を担保するための抵当権が設定されていることになり、住宅資金特別条項は利用できなくなるのが原則です。
もっとも、諸費用ローンは、住宅を建設・購入・改良するために必要不可欠な資金を得るための借入れであることも少なくありません。
そこで、諸費用ローンが住宅を建設・購入・改良するために必要不可欠な資金を得るための借入れである場合には、住宅ローンに準ずる債権または付随する債権であることを明らかにすることによって、それら諸費用ローンを担保するための抵当権が設定されているときでも住宅資金特別条項を利用できることがあります。
ペアローンの場合
住宅ローンを借り入れる際に、いわゆる「ペアローン」を組むことが有ります。
ペアローンとは、例えば、夫婦で住宅を購入する際に、夫が住宅の持分を2分の1取得する代わりに住宅ローンの2分の1を借入れ、他方、妻が残りの住宅の持分の2分の1を取得する代わりに住宅ローンの残りの2分の1を借入れ、夫婦それぞれの2分の1ずつの住宅ローンについて、住宅全体について抵当権を設定するという場合です。
このようなペアローンですと、夫(または妻)が個人再生の住宅資金特別条項を利用しようという場合、夫(または妻)の2分の1の住宅ローンを担保するための抵当権は設定されていますが、同時に、他方配偶者である妻(または夫)の2分の1の住宅ローンを担保するための抵当権が設定されていることになります。
夫の住宅ローンと妻の住宅ローンは、別々の住宅ローンです。
そうすると、住宅資金貸付債権を担保するための抵当権(夫または妻自身の住宅ローンを担保するための抵当権)のほかに、それとは別の担保(他方配偶者の住宅ローンを担保するするための抵当権)も設定されていることになります。
したがって、ペアローンの場合は、夫(または妻)は住宅資金特別条項を利用することができないのが原則です。
もっとも、住宅ローン以外の債権を担保するための担保権が実行されるおそれがない場合であれば、民事再生法198条1項の趣旨に反しません。
そこで、東京地方裁判所などでは、ペアローン事案であっても、夫および妻の両者が同時に個人再生を申し立てた場合には、住宅資金特別条項の利用を認めるという運用をとっています。
ペアローン事案で住宅資金特別条項を定める個人再生を検討している場合には、まず、夫婦そろって個人再生申立てができないかどうかを考えるべきでしょう。
なお、上記のとおり、ペアローン事案では夫婦同時に個人再生を申し立てるのが原則ですが、夫婦の一方について債務整理をすべき事情がないことが明らかである等の場合には、例外的に、夫婦の他方のみの個人再生申立てで住宅資金特別条項の利用が認められることもあり得ます。