
住宅ローンに連帯保証人が付いている場合でも、住宅資金特別条項が利用できなくなるわけではありません。したがって、住宅ローンの連帯保証人がいる場合でも、住宅ローンの主債務者だけが個人再生を申し立て、住宅資金特別条項を利用することは可能です。
他方、連帯保証債務履行請求権は住宅資金貸付債権とは言えないので、連帯保証人だけが個人再生を申し立てた場合、その連帯保証債務履行請求権に住宅資金特別条項は利用できません。
ただし、住宅ローンの主債務者と連帯保証人がともに個人再生を申し立てた場合には、主債務者の住宅ローンだけでなく、連帯保証人の連帯保証債務履行請求権も住宅資金貸付債権として認められることがあります。
住宅ローンの主債務者だけが個人再生を申し立てる場合
個人再生においては「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という特別な制度が用意されています。
住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されると、住宅ローンなどの住宅資金貸付債権だけはこれまでどおり(またはリスケして)支払い続けることにより、住宅ローンの残る自宅を維持しつつ、それ以外の借金だけ減額・分割払いにしてもらうことができます。
住宅ローンを組む際、その住宅ローンに連帯保証人を付けることがあります。住宅ローンに連帯保証人がいるからと言って、個人再生における住宅資金特別条項が利用できなくなることはありません。
したがって、住宅ローンに連帯保証人がいる場合であっても、住宅ローンの主債務者だけが個人再生を申し立て、住宅資金特別条項を利用することは可能です。
この場合、住宅資金特別条項による住宅ローンについて期限の猶予等の効果は連帯保証人にも及ぶため(民事再生法203条1項)、主債務者が住宅ローンの支払いを続けていく限り、連帯保証人には特段の影響を生じません。
住宅ローンの連帯保証人だけが個人再生を申し立てる場合の問題点
民事再生法 第196条
- この章、第12章及び第13章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
- 第1号 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。
- 第2号 住宅の敷地 住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権をいう。
- 第3号 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。
- 第4号 住宅資金特別条項 再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部又は一部を、第199条第1項から第4項までの規定するところにより変更する再生計画の条項をいう。
- 第5号 住宅資金貸付契約 住宅資金貸付債権に係る資金の貸付契約をいう。
前記のとおり、主たる債務者が住宅資金特別条項を利用することには、問題ありません。問題となるのは、連帯保証人が住宅資金特別条項を利用できるのかということです。
住宅資金特別条項を利用できるのは、その住宅ローン等が「住宅資金貸付債権」に該当する場合に限られます。
住宅資金貸付債権とは、住宅の建設もしくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む。)または住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。保証会社。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているもののことをいいます(民事再生法196条3号)。
この住宅資金貸付債権に該当しない債権は、他の債権と同様の扱い(一般の再生債権)として扱われ、減額・分割払いの対象となります。
連帯保証人が付くということは、住宅ローン会社は、その連帯保証人に対して連帯保証債務履行請求権という債権を有し、連帯保証人は、住宅ローン会社に対して連帯保証債務を負担することになるということです。
この連帯保証債務の履行請求権は、住宅の建設・購入等に必要な資金の借入金ではありませんから、上記の住宅資金貸付債権に該当しません。
したがって、連帯保証債務履行請求権については、住宅資金特別条項を利用できないのが原則です。
そうすると、住宅ローンの連帯保証人だけが個人再生を申し立てた場合には住宅資金特別条項を利用できないのが原則ということになります。
連帯保証債務履行請求権に住宅資金特別条項が利用できないため、その連帯保証債務履行請求権は、一般の再生債権として扱われ、減額・分割払いとなります。
住宅はどうなるか?
連帯保証債務が減額・分割払いになるということは、住宅ローンの担保としての価値が弱くなってしまうということです。
そのため、場合によっては、住宅ローン会社が、連帯保証人の信用不安や担保の毀損などを理由として、住宅ローン本体の契約の期限の利益を喪失させるなどの対応をする可能性があります。
期限の利益の喪失とは、要するに、住宅ローンは分割払いではなくなり、主債務者は、住宅ローン会社から、一括での支払いを請求されるということです。
主債務者において一括払いができなければ、抵当権が実行されて住宅が競売にかけられ、最終的にその住宅は処分されることになります。
主債務者と連帯保証人が一緒に個人再生を申し立てる場合
前記のとおり、住宅ローンの連帯保証人だけが個人再生を申し立てた場合には、住宅資金特別条項を利用できません。
それでは、住宅ローンの主債務者と連帯保証人が一緒に個人再生を申し立てた場合も、住宅資金特別条項を利用できないのでしょうか?
この場合も、原則論で言えば、連帯保証債務履行請求権は住宅資金貸付債権に該当しないので、住宅資金特別条項を利用できません。
そうすると、連帯保証債務履行請求権は一般の再生債権として減額され、前記のとおり、住宅ローン会社によって住宅ローンの期限の利益喪失等の措置がとられて住宅の抵当権が実行される可能性が生じます。
しかし、そうなると、仮に、住宅ローンについて住宅資金特別条項を利用できたとしても、意味がなくなってしまいます。
そこで、住宅ローンの連帯保証債務履行請求権についても、住宅資金貸付債権として扱うことができないかが問題となってきます。
住宅ローンの連帯保証債務履行請求権も住宅資金貸付債権として扱うことができれば、連帯保証債務履行請求権も、減額されずに、通常どおり(またはリスケして)支払うことができるようになります。
その結果、住宅ローン会社によって期限の利益喪失等の措置をとられることがなくなり、住宅の抵当権を実行されるおそれもなくなるからです。
連帯保証債務履行請求権を住宅資金貸付債権として扱うことができるか
たしかに、連帯保証債務履行請求権は、住宅の建設や購入等に必要な資金の借入れではありません。
しかし、連帯保証人を付けることが住宅の建設や購入等に必要である場合もあります。
また、連帯保証債務履行請求権を住宅資金貸付債権としなければ、住宅の維持を認めて経済的更生を図ろうとする住宅資金特別条項の目的を達成できない場合もあります。
仮に、連帯保証債務履行請求権に住宅資金特別条項の適用を認めても、住宅ローンが支払われている限り、連帯保証人の他の債権者を害することもありません。
そこで、東京地方裁判所などでは、住宅ローンの連帯保証債務履行請求権も住宅資金貸付債権として取り扱い、住宅資金特別条項の利用を認められることがあります。
具体的には、連帯保証人が、対象となる住宅の共有者であり、その住宅に居住しているなど、住宅資金貸付債権の要件をある程度満たしている場合には、住宅資金特別条項の利用を認められることがあります。