
個人再生において住宅資金特別条項を利用したとしても、住宅ローン自体の総額を減額してもらうことはできません。住宅資金特別条項は、住宅ローンだけは減額の対象外とすることにより、住宅を維持したまま、住宅ローン以外の借金などを減額してもらえるという制度だからです。
ただし、リスケジュールをすることにより、毎月の返済額を軽減してもらうことは可能な場合があります。
住宅ローン総額を減額することの可否
個人再生には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」と呼ばれる制度が用意されています。
個人再生の手続において住宅資金特別条項を定めた再生計画が認可されると、住宅ローンを従前どおり(または若干リスケジュール)して支払いを継続することができるようになり、住宅を競売等によって処分されることがなくなります。
それにより、住宅を維持したまま、住宅ローン以外の借金などを個人再生によって減額・分割払いにしてもらうことができます。
つまり、住宅資金特別条項とは、住宅ローンだけ個人再生による減額等の対象から外すことができるようになるという制度なのです。
住宅ローンを減額したいならば、むしろ、住宅資金特別条項を利用しない個人再生にすべきです。
しかし、住宅ローンが減額されてしまうと、当然、住宅ローン会社は、その住宅を競売にかけるなどして売却処分し、住宅ローンの残額を回収しようとするでしょう。
そうならないように、住宅ローンだけ対象外とすることにより、通常どおり支払うことができるようになり、それによって、住宅を競売等により処分されてしまうのを防ぐというものが住宅資金特別条項です。
したがって、住宅資金特別条項を利用したとしても、住宅ローン自体の総額を減額してもらうことはできません(住宅ローン債権者が減額に同意することがあれば減額も可能ですが、現実にはほとんど無いでしょう。)。
ただし、後述のとおり、総額の減額はできませんが、リスケジュールをして毎月の返済額を軽減してもらうことは可能な場合があります。
住宅ローンのリスケジュール方法
上記のとおり、住宅資金特別条項を利用しても、住宅ローンの総額を減額することはできませんが、リスケジュールをして毎月の返済額を軽減してもらうことは可能な場合があります。
再生計画に住宅資金特別条項として定めることができる内容のうち、毎月の返済額を減額できるタイプには、以下のものがあります(民事再生法199条)。
- リスケジュール型
- 元本猶予期間併用型
- 合意型
上記の内容を再生計画に定めることにより、住宅ローンをリスケジュールして毎月の返済額を軽減してもらうことになります。
ただし、いずれの場合も、住宅ローン会社の同意・協力がなければ実現は難しいため、協力をしてもらうよう働きかける必要があります。
リスケジュール型の住宅資金特別条項によるリスケジュール
リスケジュール型とは、利息と遅延損害金を含めた住宅ローンの全額を弁済することを条件として、支払期限を延長してにもらい、各回の弁済額を減額することができるというものです。
リスケジュールして毎月の返済額を軽減する方法としては、リスケジュール型が最も単純でしょう。ただし、支払期限の限度は最大で10年間、かつ70歳までとされています。
元本猶予期間併用型の住宅資金特別条項によるリスケジュール
元本猶予期間併用型とは、上記のリスケジュール型に、再生計画期間内において元本の一部の弁済猶予を受けることを加えるものです。
リスケジュール型では返済が難しい場合に、再生計画による住宅ローン以外の借金等の返済が終わるまでの間、元本の一部の支払いを猶予してもらいつつ、リスケジュールするという方法です。
住宅ローン以外の借金等の返済が終わった後に、猶予してもらっていた部分を支払っていくことになります。
ただし、支払期限の限度は、リスケジュール型と同じく、最大で10年間、かつ70歳までとされています。
合意型の住宅資金特別条項によるリスケジュール
合意型とは、住宅ローン債権者の同意がある場合に、これまで述べてきたいずれのタイプとも異なる条項を定めることができるとするものです。
住宅ローン債権者の同意さえ得られれば、基本的にどのような内容のリスケジュールでも可能です。10年を超える期間や70歳を超える期間でも可能でしょう。
ボーナス払いをなくして均等払いにしてもらうなども、よくある合意型のリスケジュールです。
なお、実際にはほとんどないでしょうが、極端に言えば、住宅ローンの総額を減額する内容のリスケジュールを組むことも可能です。
実際、住宅ローンをリスケジュールする場合は、この合意型を利用することが多いと思われます。
住宅ローンをリスケジュールする場合の注意点
住宅資金特別条項を利用して住宅ローンをリスケジュールするためには、前記の合意型の場合だけなく、それ以外のタイプの場合であっても、住宅ローン債権者の同意や協力が不可欠です。
住宅ローン債権者に協力してもらわなければ、リスケジュール型であれ、元本猶予期間併用型であれ、そもそもリスケジュール返済計画を立案することすら容易でないからです。
実際、住宅金融支援機構などのように、リスケジュールへの協力に消極的(そのまま型を求められます。)な住宅ローン会社もあります。
したがって、他の借金さえ個人再生で整理できれば、住宅ローンは約定どおりに支払っていけるという場合には、住宅ローンはリスケジュールせずに(そのまま型)進めていく方が無難でしょう。