この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
-1024x559.jpg)
交通事故の被害者は、加害者に対して、民事責任を追求することができます。つまり、加害者は被害者に対して損害賠償を支払う義務を課されるということです。
交通事故加害者が負う法的責任
交通事故の加害者は、さまざまな法的責任を負います。具体的には、民事責任、刑事責任、行政上の責任があります。
刑事責任とは、自動車運転過失致死傷罪などの刑罰を科されるということです。また、行政上の責任としては、自動車運転免許の取り消し等があります。
これらは、公益的な見地から課される法的責任ですから、交通事故の被害者ではあっても、自由にコントロールできる性質のものではありません。あくまで、国家機関が責任を課すべきか否か、どのような責任を課すかを判断することになります。
また、これらの法的責任が課されたとしても、当然に、被害者に生じた損失が填補されるわけではありません。
被害者が、交通事故によって被った被害を填補するためには、自ら、加害者に対して民事責任を追求する必要があります。
交通事故加害者が負う民事責任
前記のとおり、被害を填補するためには、被害者が加害者に対して民事責任を追求する必要があります。
この加害者が負う民事責任とは「損害賠償責任」です。つまり、被害者等に対して、損害賠償をしなければならないという法的責任です。
法律上、損害賠償を支払わなければならない民事責任としては、債務不履行責任と不法行為責任があります。
債務不履行責任とは、契約責任です。一定の契約関係に基づく義務を履行しなかった場合に生じる法的責任が債務不履行責任です。
しかし、交通事故の場合には、当然のことながら、被害者と加害者には契約関係などありません。
したがって、交通事故において加害者が負担すべき損害賠償責任は「不法行為責任」(または不法行為の特別類型である「運行供用者責任」)に基づく損害賠償義務です。
被害者の立場からみれば、被害者側は、加害者に対して、不法行為責任を追求し、それに基づく損害賠償を求めるということになります。
不法行為責任
民法 第709条
- 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法 第710条
- 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
前記のとおり、加害者が損害賠償責任を負う法的な根拠は「不法行為責任」です。
不法行為責任とは、故意または過失によって他人の権利や法的に保護される利益を侵害した者に課される法的責任です。この不法行為責任を負う者は、被害者に対して損害賠償を支払う義務を負うことになります(民法709条、710条)。
交通事故も不法行為に当たります。そのため、交通事故の加害者は、不法行為責任を負うことになり、被害者に損害賠償を支払わなければならないのです。
他方、被害者の側から見ると、被害者は、加害者に対して損害賠償を請求する権利を持つことになります。これを「不法行為に基づく損害賠償請求権」と呼ぶことがあります。
特殊の不法行為責任
交通事故加害者本人の民事責任ではありませんが、加害者本人以外の人が民事責任(損害賠償責任)を負うこともあります。
もちろん、交通事故の損害賠償を請求できる相手方は、基本的には直接の加害者です。もっとも、その直接の加害者以外の人に対しても、損害賠償を請求できる場合があるのです。
例えば、未成年者など自ら法的責任を負うことのできない責任無能力者が加害者である場合に、その責任無能力者の監督義務者が損害賠償責任を負う場合があります。監督義務者の責任と呼ばれるものです(民法714条1項)。
また、従業員が交通事故を起こした場合、その事故が事業の執行によるものであったときには、その従業員の使用者(雇用主)が損害賠償責任を負うということもあります。これは、使用者責任と呼ばれます(民法715条1項)。
これらの責任の法的根拠も、やはり不法行為責任です。ただし、直接の不法行為者(加害者)以外の者が不法行為責任を負うという特別な不法行為責任です。特殊の不法行為責任と呼ばれる場合もあります。
運行供用者責任
自動車損害賠償保障法 第3条
- 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
交通事故のうちでも自動車事故の人身事故の場合には、自動車損害賠償保障法(自賠法)により、加害者などに対して「運行供用者責任」という法的責任が課される場合があります。
この運行供用者責任は、直接の加害者はもちろん、それ以外に「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)」に対しても損害賠償義務が課されることになります。
運行供用者の典型例としては、自動車の所有者などが挙げられます。
また、運行供用者責任は、通常の不法行為責任よりも、被害者側の立証責任が軽減されています。
通常の不法行為に基づく損害賠償請求の場合、被害者が、加害者に過失があったことを立証しなければなりませんが、これは容易ではありません。
しかし、運行供用者責任の場合には、被害者保護の拡大の見地から、被害者が過失を立証する必要はなく、逆に、加害者側の方で過失がなかったことを立証しなければならないものとされ、立証責任の転換がなされています。
損害賠償の請求
民法 第417条
- 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
民法 第722条
- 第1項 第417条及び第417条の2の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
- 第2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
被害者としては、後遺障害が残るような場合であれば、金銭などではなく元の体に戻してほしいでしょうし、死亡事故であれば、亡くなられた方を返してほしいと考えるのは当然でしょう。しかし、残念ながら、現実的にはそれは困難または不可能です。
そのため、民法上、不法行為に基づく損害賠償は、原則として「金銭」によるものとされています(これを「金銭賠償の原則」といいます。)。
したがって、心情的に納得ができない部分もあるかもしれませんが、交通事故の場合においても、損害賠償は、損害賠償金という形で金銭によって支払われることになります。
したがって、被害者側としては、加害者に対して不法行為責任等を追求し、それに基づく損害賠償金の支払いを求めるという方法しかない以上、少しでも多くの賠償額を獲得して、それをもって損失を少しでも多く填補できるよう行動するほかないでしょう。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になりましたら幸いです。
弁護士に依頼するメリット
「交通事故の損害賠償請求は弁護士に頼んだ方がいいの?」
とお悩みの方は少なくないでしょう。
実は、交通事故の損害賠償額には、保険会社の基準と裁判基準(弁護士基準とも呼ばれます。)があります。保険会社の基準は、裁判基準よりもかなり低額に抑えられています。
そのため、自分で保険会社と示談交渉する場合よりも、弁護士に依頼して裁判基準で示談交渉または訴訟をしてもらう方が、損害賠償額が高額になる可能性が高いのです。弁護士に依頼する一番のメリットは、その点にあります。
特に、自動車保険に弁護士特約を付けてある場合には、弁護士費用を保険金で支払うことが可能です。そのため、自己負担がほとんどないまま、弁護士に依頼することができます。弁護士特約がある場合には、間違いなく弁護士に依頼すべきです。
北千住いわき法律事務所
・被害者の相談無料
・メール相談可・土日祝日対応可
・着手金無料(完全成功報酬・費用の後払い可能)
・損害賠償額が増額しない場合は弁護士報酬0円
・弁護士特約の利用可能
・所在地:東京都足立区
やよい共同法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可
・着手金無料(完全成功報酬型)
・増額できなければ弁護士費用は無料
・弁護士特約の利用可能
・所在地:東京都港区
参考書籍
本サイトでも交通事故損害賠償について解説していますが、より深く知りたい方のために、交通事故損害賠償の参考書籍を紹介します。
民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
出版:日弁連交通事故相談センター東京支部
通称「赤い本」。交通事故損害賠償請求を扱う弁護士は、ほとんどが持っている必携書。東京地裁の実務を中心に、損害賠償額の算定基準(裁判基準)を解説しています。この本の基準が実務の基準と言ってよいほどに影響力があります。毎年改定されています。
交通事故損害額算定基準 -実務運用と解説-
出版:日弁連交通事故相談センター
通称「青本」。こちらは、赤い本と違って、東京地裁だけでなく、全国の裁判所における裁判例を紹介しています。2年に1回改訂されています。
別冊判例タイムズ38号(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)全訂5版
編集:東京地裁民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
こちらも実務必携と言われる書籍。交通事故では過失相殺がよく問題となりますが、その過失相殺率の認定基準を解説する実務書です。東京地裁の裁判官が中心となって執筆されている本ですが、この本の認定基準が全国的な実務の基本的な認定基準となっています。
大阪地裁における交通損害賠償額の算定基準
編集:大阪民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
大阪地裁交通部(第15民事部)の裁判官による大阪地裁における交通事故損害賠償額算定基準を解説する実務書。大阪地裁で交通事故訴訟をする場合には必携です。(※なお、大阪弁護士会交通事故委員会による「交通事故損害賠償算定のしおり(通称、緑の本)」とは異なります。こちらは、裁判官執筆の本です。)
注解交通損害賠償算定基準(新版)
著者:高野真人ほか 出版:ぎょうせい
赤い本や青本の解説書。実務書の解説書という珍しい本ですが、赤い本や青本はどちらかと言うと資料集的な実務書であるため、詳細な理由付けなどが説明されていない部分もあります。本書は、そこを解説しています。赤い本や青本とセットで持っていると便利です。
交通事故損害賠償法(第3版)
編集:北河隆之 出版:弘文堂
交通事故損害賠償に関する法律の体系書。実務マニュアル的なものではなく、理論的な面の解説も体系的にまとめられており、交通事故損害賠償の基本書といった感じの本です。