遺産分割が無効・取消しとなる場合はあるか?

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遺産分割の手続としては,協議・調停・審判があります。もっとも,遺産分割の協議・調停・審判,どのような場合でも常に有効であるとは限りません。無効または取り消されることもないわけではありません。

無効と取消し

契約などの法律行為や意思表示は,法律上「無効」となることがあります。

この法律上の無効とは,文字どおり,法律上の有効要件を満たしていないために,その法律行為等が,はじめから何らの効力も有していないということです。

他方,取消しとは,一応,有効要件を満たしているために有効な法律行為等であると見えるものの,実際には,法律で定められた取消し得る行為であり,取消権者の取消しの意思表示によって,遡及的に無効とさせることをいいます。

無効な法律行為等の場合には,特別な意思表示をすることなく,当然に無効となりますが,取消し得る法律行為等の場合には,取消権者が取消しの意思表示をするまでの間は,一応有効な法律行為等として扱われるという違いがあります。

もっとも,最終的な効果としては,いずれもはじめから無効な法律行為であったということになりますので,その点においては違いはありません。

遺産分割協議の無効・取消し

遺産分割協議も法律行為であると解されていますから,以下の場合には,無効となったり、取り消されたりすることがあります。

相続人でない者が参加していた遺産分割協議

遺産分割協議には,相続人しか参加することができません。

遺産分割協議書に相続人でない者(相続欠格等によって後に相続資格が失われた者も含みます。)の氏名が記載されているなど,協議分割に第三者が加わっていた場合には,その協議分割は無効となります。

相続人の一部が参加していなかった場合

遺産分割協議には,すべての共同相続人が参加していることが必要です。

1人でも共同相続人が参加していなければ,その協議はやはり無効となります(ただし,相続開始後に認知された者がいる場合には,その被認知者を除外してしまったときでも,協議は無効とならず,後に金銭的に調整することは可能とされています。)。

民法上の法律行為の無効に当たる場合

民法上,法律行為・意思表示の無効事由がある場合も,それぞれの規定に従って遺産分割協議は無効となります。

たとえば,相続人に意思能力が無い者がいた場合,協議内容等が強行法規または公序良俗に違反する場合,心裡留保・通謀虚偽表示・要素の錯誤がある場合等には,遺産分割協議は無効となります。

民法上の法律行為の取消事由がある場合

上記の無効事由がある場合と同じように,民法上の法律行為・意思表示の取消事由がある場合には,遺産分割協議について取消しの意思表示をすることができます。

たとえば,相続人の一部が未成年者で法定代理人がいなかった場合,遺産分割協議において詐欺や強迫があった場合などです。

遺産分割協議の解除

遺産分割協議については,相続人全員による同意があれば,協議を解除することができます。解除された場合には,遡及的に協議が無効となります。

遺産分割調停の無効・取消し

遺産分割調停の場合も,基本的に,前記の遺産分割協議が無効・取消しとなる場合と同じといってよいでしょう。

もっとも,調停分割においては,家庭裁判所で要件を吟味し,また専門家である調停委員や裁判官が内容をチェックしていますので,基本的に無効・取消原因があるということは稀でしょう。

遺産分割審判の無効・取消し

遺産分割の審判は裁判です。

したがって,基本的に,審判の無効・取消事由がある場合には,別途,無効・取消しを主張するのではなく,審判に対する不服申立ての手続を行い,上級審における裁判でその無効・取消しを主張して争うことになります。

遺産分割審判に対する不服申立ては「即時抗告」によって行います(家事事件手続法85条)。抗告の裁判は,審判をした家庭裁判所を管轄する高等裁判所によって行われます。

なお,すでに審判が確定してしまっている場合には,不服申立てをすることはできません。

その場合には,原則として,審判の無効や取消を主張することはできず,再審という方法によるしかありませんが,これはなかなか認められないため,無効・取消事由があるという場合には,すぐに対処をしておかなければなりません。

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