相続財産の代償財産は遺産分割の対象となるか?

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相続開始時に存在していた相続財産が、その後に生じた出来事の結果として相続財産から逸出し、これに代わって生じた財産的利益のことを「代償財産」といいます。

この代償財産は、原則として、遺産分割の対象とはなりませんが、共同相続人全員の合意によって遺産分割の対象とすることができると解されています。

相続開始後遺産分割までの間に遺産が存在しなくなった場合

相続が開始されると,被相続人が有していた一切の権利義務が,相続財産として相続人承継されることになります。

この相続財産は,相続開始によって,いったんは共同相続人にそれぞれの指定相続分または法定相続分に応じて共有されます。そして,遺産分割を経て,はじめて各共同相続人に具体的に分配されることになります。

そのため,実務上,遺産分割の対象となる財産が確定する基準時は,この遺産分割時であるとされています。

もっとも,相続開始時においては存在していたけれども,遺産分割時には,その財産がすでに存在しなくなってしまっている場合もあり得ます。

例えば,相続開始後に,相続人が相続財産を処分してしまった場合や,何らかの事情によって,相続財産が滅失してしまったような場合です。

このような場合,遺産分割時を基準とするならば,その処分されてしまったまたは滅失してしまった財産は,遺産分割の対象とはならないということになります。

相続開始後遺産分割までの代償財産

前記のとおり,相続開始時には存在していたけれども,遺産分割時にはすでに存在しなくなってしまっている財産については,原則として,遺産分割の対象とはなりません。

もっとも,その相続財産が消滅して遺産分割対象財産ではなくなったとしても,そのことによって,別の財産的利益が発生することはあります。

例えば,相続開始後に相続人によって売却された財産の売買代金や,火災によって相続財産たる不動産等が滅失してしまったことによって発生した火災保険金などです。

このように,相続開始時に存在していた相続財産が,その後に生じた出来事の結果として相続財産から逸出し,これに代わって生じた財産的利益のことを「代償財産」といいます。

この代償財産は,相続財産そのものではありません。しかし,相続財産を変容させた財産的利益ではあります。そこで,代償財産も遺産分割の対象となるのかどうかが問題となってきます。

遺産分割における代償財産の取扱い

代償財産を遺産分割の対象とするのかどうかについて,最高裁判所第二小法廷昭和52年9月19日判決(家裁月報30巻2号110号)は,「共同相続人が全員の合意によつて遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは,その不動産は遺産分割の対象から逸出し,各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し,これを個々に請求することができる」と判示しています。

つまり,代償財産は,原則として,遺産分割の対象とはならないということです。

もっとも,最高裁判所第一小法廷昭和54年2月22日判決(集民第126号129頁)は,以下のように判示しています。

共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである。

引用元:裁判所サイト(最一小判昭和54年2月22日)

したがって、代償財産は遺産分割の対象とはされませんが、共同相続人全員によって遺産分割の対象に含める旨の合意がなされている場合には,遺産分割の対象となるということです。

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