相続開始後遺産分割までの間に生じた相続財産(遺産)からの果実は、遺産分割の対象とならないのが原則です。ただし、共同相続人全員の合意により遺産分割の対象にできるとする裁判例があります。
相続財産からの果実
相続が開始されると,被相続人が有していた一切の権利義務が,相続財産として相続人に承継されることになります(民法896条)。
この相続財産は,相続開始によって,いったんは共同相続人にそれぞれの指定相続分または法定相続分に応じて共有されます(民法898条)。そして,遺産分割を経て,はじめて各共同相続人に具体的に分配されることになります。
そのため,実務上,遺産分割の対象となる財産が確定する基準時は,この遺産分割時であるとされています。
ここで問題となるのが,相続開始後遺産分割までの間に発生した相続財産からの「果実(かじつ)」を遺産分割の対象とすべきかという問題です。
法律用語としての「果実」とは,物から生じる利益・収益のことをいいます。この法律上の果実には,天然果実と法定果実があります。
天然果実とは,物の用法に従い収取する産出物のことをいい(民法88条1項),法定果実とは,物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物のことをいいます(同条2項)。
遺産分割の対象となるのかについては,もちろん天然果実も問題となることはありますが,やはり法定果実が問題となることの方が多いでしょう。
相続開始後遺産分割までの果実
相続開始後遺産分割までの間に相続財産たる物から生じた果実を遺産分割の対象とするかどうかは,実務的にはよくある問題です。
特に多いものは法定果実,そのうちでも,相続財産である不動産の賃料収入が問題となることは少なくありません。
この点について,最高裁判所第一小法廷平成17年9月8日判決(民集59巻7号1931頁)は,以下のとおり判示しています。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
上記判決のとおり,相続開始後遺産分割までの間に生じた果実は,遺産(相続財産)とは別個の財産であり,共同相続人が相続分に応じて個別に取得する財産であると解されています。
そして,さらに,この共同相続人が個別に取得した相続財産からの果実は,遺産分割の影響を受けないと解されています。つまり,相続開始後遺産分割までの間に生じた果実は,遺産分割の対象とはならないということです。
したがって,相続開始後遺産分割までの間に生じた果実は,各共同相続人がそれぞれの相続分に応じて個別に取得することになります。
共同相続人の合意がある場合
前記のとおり,相続開始後遺産分割までの間に生じた果実は,遺産分割の対象とはなりません。
もっとも,共同相続人全員が遺産分割の対象となるという合意をした場合にも,遺産分割の対象とはならないのかということが問題となります。
この点についての最高裁判所の判決はまだありません。
ただし,下級審裁判例には,共同相続人全員が果実を遺産分割の対象とすることに合意した場合には,遺産分割の対象とすることができるとした裁判例があります(東京高等裁判所昭和63年1月14日判決等)。
そのため,実務においては,相続開始後遺産分割前の相続財産からの果実も,共同相続人全員が遺産分割の対象とすることに合意している場合には,遺産分割の対象とするのが通常です。
ただし,この考え方に対しては,相続財産(遺産)でないものを合意だけで遺産分割の対象とすることは無理があるとして,遺産分割審判の対象にすることはできないという見解もあります。