この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

不当利得者が悪意の受益者であるといえる場合,不当利得に利息をつけて返還しなければならないとされています(民法704条)。
不当利得に対して利息が発生する場合
民法 第704条
- 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
民法第704条は,「悪意の受益者は,その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。」と規定しています。
本来,不当利得返還請求がなされた場合,受益者は損失者に対して現存利益を返還すれば足りるとされています(民法703条)。
つまり,仮に不当利得があったとしても,返還請求がなされた時点で利得者の手元に残っている利得分だけ返還すれば足り,すでに手元にはなくなっている分については返還する必要がないということです。
しかし,それは利得者が「悪意の受益者」ではない場合,つまり「善意」の受益者であった場合の話です。
上記704条のとおり,利得者が「悪意の受益者」である場合には,現存利益どころか,得た利益の全部を返還しなければならず,しかも,その不当利得に対して利息を付けて返還しなければならないのです。
- 善意の受益者:現存利益のみ
- 悪意の受益者:現存しているか否かにかかわらず、得た利益の全部 + 利息
受益者の「悪意」の意味
民法704条における「悪意」とは,一般的に用いられているような,相手方を害する意思とか,正義に反する意思とか,そういう意味ではありません。
法律上「悪意」という場合は,「知っている」「認識している」という意味で用いられる場合が大半です。
逆に,「善意」というのは,「知らない」「認識がない」という意味で用いられることが多くなっています(もちろん,そうでなく一般的な用法と同じ意味で用いられる場合もあります。)。
民法704条における悪意の受益者の「悪意」もやはり,上記のような「知っている」「認識している」という意味です。
では,何を知っていたのかというと,それは,利得に法律上の原因が無いことを知っていたということです。法律上の原因がないことを知って利得した者のことを「悪意の受益者」というのです。
悪意の受益者が支払うべき利息
前記のとおり、悪意の受益者は、不当利得に利息を付して返還しなければなりません。
この不当利得の利息は、民法704条に基づいて当然に発生する法定利息です。(損失者と悪意の受益者が契約をしていることは考えられませんが)当事者間で利息の発生を約束していなかったとしても、不当利得の利息は当然に発生します。
また、不当利得の利息は、受益した時、つまり、悪意の受益者が目的物を不当に利得した時から発生します。仮に不当利得した目的物が滅失していた場合であっても、その滅失の時からではなく、受益時から発生します。
不当利得の利息の利率は、法定利率によって算定されます。法定利率は、民法改正によって2020年4月1日を境に利率が異なります。具体的には、以下のとおりです。
- 2020年(令和2年)3月31日以前に利得者が受益した場合:年5パーセント
- 2020年(令和2年)4月1日以降に利得者が受益した場合:年3パーセント
現在の法定利率は、年3パーセントです(民法404条1項、2項)。
この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。
参考書籍
本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。
債権各論 下巻(民法講義Ⅴ4)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である民法案内13やダットサン民法2 債権法(第4版)などもありますが、いずれも良著です。
我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。
新注釈民法(15) 債権(8):697~711条
著者:窪田充見ほか 出版:有斐閣
民法全体の逐条解説書。全20巻!民法について知りたいことは、ほとんど解説されています。実務家向けの辞書です。
司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。
民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。
基本講義債権各論I 契約法・事務管理・不当利得(第4版補訂版)
著者:潮見佳男ほか 出版:有斐閣
債権各論(不法行為を除く)の基本書。初学者向けのため、基礎的なところから書かれています。どちらかと言うと入門書ですが、資格試験の基本書としても使えます。
債権各論 (伊藤真試験対策講座4)(第4版)
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。