
破産手続(破産事件)の土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所とされています。営業所が無い場合は、普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となります。
外国に主たる営業所がある法人・会社の場合は、日本国内における主たる営業所を管轄する地方裁判所が管轄裁判所になります(破産法5条1項)。ただし、親子会社または連結子会社に関する特例、法人と代表者に関する特例、大規模事件の特例があります。
債務者が事業者でない個人(自然人)の場合は、住所地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所になります。
土地管轄とは
裁判所に対して裁判を申し立てる場合、どこの裁判所にでも申し立ててよいというわけではありません。
当事者の住所や所在地、事件の内容、金額の多寡に応じて、どこの裁判所に申立てをするのかは、法律によって定められています。このことを「法定管轄」と呼んでいます。
法定管轄には、職分管轄、事物管轄、土地管轄があります。
このうち、土地管轄とは、裁判所の所在地に応じて定められる裁判管轄のことをいいます。
破産手続も裁判ですから、この土地管轄が定められています。
破産事件における土地管轄
破産法 第5条
- 第1項 破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
- 第2項 前項の規定による管轄裁判所がないときは、破産事件は、債務者の財産の所在地(債権については、裁判上の請求をすることができる地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
- 第3項 前二項の規定にかかわらず、法人が株式会社の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き、会社法(平成17年法律第86号)第897条第3項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。次項、第83条第2項第2号及び第3項並びに第161条第2項第2号イ及びロにおいて同じ。)の過半数を有する場合には、当該法人(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「親法人」という。)について破産事件、再生事件又は更生事件(以下この条において「破産事件等」という。)が係属しているときにおける当該株式会社(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「子株式会社」という。)についての破産手続開始の申立ては、親法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、子株式会社について破産事件等が係属しているときにおける親法人についての破産手続開始の申立ては、子株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第4項 子株式会社又は親法人及び子株式会社が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には、当該他の株式会社を当該親法人の子株式会社とみなして、前項の規定を適用する。
- 第5項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、株式会社が最終事業年度について会社法第444条の規定により当該株式会社及び他の法人に係る連結計算書類(同条第1項に規定する連結計算書類をいう。)を作成し、かつ、当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合には、当該株式会社について破産事件等が係属しているときにおける当該他の法人についての破産手続開始の申立ては、当該株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、当該他の法人について破産事件等が係属しているときにおける当該株式会社についての破産手続開始の申立ては、当該他の法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第6項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては、当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては、当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第7項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる者のうちいずれか一人について破産事件が係属しているときは、それぞれ当該各号に掲げる他の者についての破産手続開始の申立ては、当該破産事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第1号 相互に連帯債務者の関係にある個人
- 第2号 相互に主たる債務者と保証人の関係にある個人
- 第3号 夫婦
- 第8項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が500人以上であるときは、これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第9項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、前項に規定する債権者の数が1000人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第10項 前各項の規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは、破産事件は、先に破産手続開始の申立てがあった地方裁判所が管轄する。
民事訴訟法 第4条
- 第2項 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
- 第3項 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
- 第4項 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
前記のとおり、破産手続も裁判です。したがって、破産手続開始の申立てをする場合も、破産法によって、土地管轄が決められています(破産法5条)。
債務者が会社など法人の場合
破産事件における土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所とされています(破産法5条1項)。
例えば、主たる営業所が東京都千代田区にある場合には、東京地方裁判所本庁が管轄裁判所となります。
営業所が無い場合は、普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となります(破産法5条1項)。
会社など法人の破産事件の場合、普通裁判籍は、代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まります(民事訴訟法4条4項)。
例えば、営業所が無く、代表者の住所が大阪府大阪市であれば、大阪地方裁判所本庁が管轄裁判所となります。
外国に主たる営業所がある法人・会社の場合は、日本国内における主たる営業所を管轄する地方裁判所が管轄裁判所になります(破産法5条1項)。
例えば、主たる営業所はアメリカにあるとしても、日本国内の主たる営業所が東京都千代田区にあれば、東京地方裁判所本庁が管轄裁判所となります。
債務者が個人の場合
債務者が個人(自然人)の場合も、個人事業(自営業)を営んでおり、営業所がある場合には、その主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に土地管轄があります。
営業所がない場合には、普通裁判籍によって決まります。個人の場合の普通裁判籍は、住所により決まります。住所がない場合は居所となり、居所がない場合には最後の住所が普通裁判籍です。
したがって、営業所がない場合には、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に土地管轄があるのが原則です。住所がない場合には居所地、居所がない場合には最後の住所地を管轄する地方裁判所に土地管轄があります。
事業者でない個人の場合も、営業所がない場合と同様です。したがって、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に土地管轄があります。また、住所がない場合には居所地、居所がない場合には最後の住所地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となります。
親子会社・連結子会社の特例
前記のとおり、破産事件の土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所等とされていますが、これには例外があります。
そのうちの1つが、親子会社または連結子会社に関する特例です。
すなわち、ある法人・会社(親法人・親会社)が別の会社である株式会社(子会社)の総株主の議決権の過半数を有する場合、親法人・親会社または子会社について破産事件・再生事件または更生事件(破産事件等)が係属しているときは、他方の親法人・親会社または子会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条3項)。
子会社(または子会社と親会社)が他の株式会社(いわゆる孫会社)の総株主の議決権の過半数を有する場合も、その孫会社を親会社の子会社とみなし、すでに親会社または孫会社について破産事件等が係属しているときは、他方の親法人・親会社または孫会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条4項)。
例えば、東京都に本店営業所があるA社が大阪府に本店営業所があるB社の総株主の議決権の過半数を有する場合に、B社の破産事件等が大阪地方裁判所に係属しているときは、A社も大阪地方裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることができるということです。
また、会計監査人設置会社がその最終事業年度についてその株式会社(親会社)と他の法人・会社(連結子会社)に関する連結計算書類を作成し、かつ、親会社の定時株主総会においてその内容が報告される関係にある場合、親会社または連結子会社について破産事件等が係属しているときは、他方の親会社または連結子会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条5項)。
例えば、東京都に本店営業所があるA社が、B社を連結子会社としている場合、B社の破産事件等が大阪地方裁判所に係属しているときは、A社も大阪地方裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることができるということです。
法人とその代表者についての特例
会社などの法人が破産する場合、その法人・会社の債務の連帯保証人になっているなどの理由から、法人・会社の破産手続開始申立てに伴って、またはその後に、その法人・会社の代表者も破産手続開始の申立てを行うというがあります。
この法人とその代表者についても、管轄の特例があります。
すなわち、法人・会社またはその代表者のどちらかについて破産事件等が係属している場合、他方の法人・会社またはその代表者も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条6項)。
例えば、東京都に本店営業所のあるA法人の代表者が大阪府に住所のあるBであった場合、すでにA法人の破産事件が東京地方裁判所に係属しているときは、Bも東京地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるということです。
逆も同様で、代表者Bの破産事件が大阪地方裁判所に係属しているときは、東京都に本店営業所があるA法人も、大阪地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができます。
個人破産の場合における特例
個人破産の場合にも、土地管轄の特例があります。
具体的に言うと、以下の場合には、どちらかについて破産事件等が係属している場合、他方も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条7項)
- 相互に連帯債務者の関係にある場合
- 相互に主たる債務者と保証人の関係にある場合
- 夫婦
例えば、夫がすでに東京地方裁判所で破産手続を進めている場合、妻は、仮に本来の土地管轄が大阪地方裁判所であったとしても、東京地方裁判所に破産手続開始を申し立てることができます。
大規模事件の特例
法人・会社が破産においては、破産債権者の数が数百人以上という場合があり得ます。
そうなると、当然、裁判所が対応すべき事務も膨大になりますから、一定の人的・物的規模を持つ裁判所でなければ、事件に対応することができないおそれがあります。
そこで、大規模事件についても管轄の特例があります。
すなわち、破産債権者となるべき債権者数が500人以上(法人の場合は1社を1人とカウントします。)いる場合には、これまでに述べてきた管轄裁判所だけでなく、その管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも破産手続開始の申立てをすることができるとされています(破産法5条8項)。
例えば、岐阜県に本店営業所があるA社について、破産債権者となるべき債権者数が500名以上いる場合、A社の破産手続開始の申立ては、本店営業所の所在地を管轄する「岐阜地方裁判所」、福井地方裁判所の所在地を管轄する名古屋高等裁判所の所在地を管轄する「名古屋地方裁判所」のいずれかを選択して行うことができるということです。
さらに、破産債権者となるべき債権者数が1000人以上になると、上記のほか、東京地方裁判所本庁または大阪地方裁判所本庁にも破産手続開始の申立てをすることができるとされています(破産法5条9項)。
例えば、福井県に本店営業所のあるA社について破産債権者となるべき債権者数が1000人以上いる場合、A社の破産手続開始の申立ては、本店営業所の所在地を管轄する「福井地方裁判所」、福井地方裁判所の所在地を管轄する名古屋高等裁判所の所在地を管轄する「名古屋地方裁判所」、「東京地方裁判所」および「大阪地方裁判所」のいずれかを選択して行うことができるということです。
なお、上記事例のように破産手続開始の申立ての管轄が複数ある場合には、先に破産手続開始の申立てがされた裁判所が当該破産事件を管轄することになります(破産法5条10項)。