
破産事件の土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所とされています。もっとも、この土地管轄にはいくつかの特例があります。そのうちの1つが親子会社・連結親子会社の特例です(破産法5条3項、4項、5項)。
破産事件の土地管轄における親子会社等の特例
破産法 第5条
- 第1項 破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
- 第2項 前項の規定による管轄裁判所がないときは、破産事件は、債務者の財産の所在地(債権については、裁判上の請求をすることができる地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
- 第3項 前二項の規定にかかわらず、法人が株式会社の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き、会社法(平成17年法律第86号)第897条第3項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。次項、第83条第2項第2号及び第3項並びに第161条第2項第2号イ及びロにおいて同じ。)の過半数を有する場合には、当該法人(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「親法人」という。)について破産事件、再生事件又は更生事件(以下この条において「破産事件等」という。)が係属しているときにおける当該株式会社(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「子株式会社」という。)についての破産手続開始の申立ては、親法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、子株式会社について破産事件等が係属しているときにおける親法人についての破産手続開始の申立ては、子株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第4項 子株式会社又は親法人及び子株式会社が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には、当該他の株式会社を当該親法人の子株式会社とみなして、前項の規定を適用する。
- 第5項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、株式会社が最終事業年度について会社法第444条の規定により当該株式会社及び他の法人に係る連結計算書類(同条第1項に規定する連結計算書類をいう。)を作成し、かつ、当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合には、当該株式会社について破産事件等が係属しているときにおける当該他の法人についての破産手続開始の申立ては、当該株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、当該他の法人について破産事件等が係属しているときにおける当該株式会社についての破産手続開始の申立ては、当該他の法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第6項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては、当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては、当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第7項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる者のうちいずれか一人について破産事件が係属しているときは、それぞれ当該各号に掲げる他の者についての破産手続開始の申立ては、当該破産事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
- 第1号 相互に連帯債務者の関係にある個人
- 第2号 相互に主たる債務者と保証人の関係にある個人
- 第3号 夫婦
- 第8項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が500人以上であるときは、これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第9項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、前項に規定する債権者の数が1000人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
- 第10項 前各項の規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは、破産事件は、先に破産手続開始の申立てがあった地方裁判所が管轄する。
破産事件も裁判手続ですから、どこの裁判所に申立てをすべきかは、破産法によって定められています。このことを「法定管轄」と呼んでいます。
法定管轄には、職分管轄、事物管轄、土地管轄がありますが、このうち土地管轄とは、裁判所の所在地に応じて定められる裁判管轄のことをいいます。
破産事件においても、もちろん土地管轄が定められています。
破産事件における土地管轄は、原則として、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所とされています。営業所が無い場合は、普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となります(破産法5条1項)。
普通裁判籍は、原則として住所地です(民事訴訟法4条1項)。したがって、個人破産の場合、営業所がなければ、住所地を管轄する地方裁判所に土地管轄があります。法人破産の場合は、代表者等の住所地を管轄する地方裁判所になります(民事訴訟法4条3項)。
外国に主たる営業所がある法人・会社の場合は、日本国内における主たる営業所を管轄する地方裁判所が管轄裁判所になります(破産法5条1項)。
ただし、破産事件の土地管轄には例外があります。その例外の1つが、親子会社または連結子会社に関する特例です。
親子会社の場合の特例
ある法人が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合に、この議決権の過半数を有する法人を「親会社」といい、他の株式会社を「子会社」といい、これら両者の法人の関係を「親子会社」と呼んでいます(破産法5条3項)。
この親子会社関係にある会社については、親法人・親会社または子会社について破産事件・再生事件または更生事件(破産事件等)が係属しているときは、他方の親法人・親会社または子会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条3項)。
例えば、東京都に本店営業所があるA社が大阪府に本店営業所があるB社の総株主の議決権の過半数を有する場合に、B社の破産事件等が大阪地方裁判所に係属しているときは、A社も大阪地方裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることができるということです。
また、子会社(または子会社と親会社)が他の株式会社(いわゆる孫会社)の総株主の議決権の過半数を有する場合も、その孫会社を親会社の子会社とみなし、すでに親会社または孫会社について破産事件等が係属しているときは、他方の親法人・親会社および孫会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条4項)。
例えば、東京都に本店営業所があるA社が大阪府に本店営業所があるB社の総株主の議決権の過半数を有し、そのB社が名古屋市に本店営業所があるC社の総株主の議決権の過半数を有している場合、C社の破産事件等が名古屋地方裁判所に係属しているときは、A社およびB社も、名古屋地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるということです。
連結親子会社の場合の特例
連結子会社とは、ある株式会社が、別の株式会社について最終事業年度について会社法444条1項に定める連結計算書類を作成し、かつ、当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合のその別の株式会社のことをいいます。
この連結子会社の連結計算書類を作成した会社のことを連結親会社と呼ぶこともあります。
この連結親子会社についても、土地管轄の特例があります(破産法5条5項)。
連結親会社が、同社と連結子会社に関する連結計算書類を作成し、かつ、連結親会社の定時株主総会においてその内容が報告される関係にある場合、連結親会社または連結子会社について破産事件等が係属しているときは、他方の連結親会社または連結子会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条5項)。
例えば、東京都に本店営業所があるA社が、B社を連結子会社としている場合、B社の破産事件等が大阪地方裁判所に係属しているときは、A社も大阪地方裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることができるということです。