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破産手続(破産事件)の管轄裁判所はどこになるのか?

破産法の画像
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破産手続開始の申立ては、破産法で定められた裁判管轄のある管轄裁判所に対して行う必要があります。破産事件の事物管轄は、地方裁判所にあります土地管轄は、債務者の住所地または主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所にあるのが原則です

ただし、外国に主たる営業所がある場合や営業所が無い場合などには別の定めがあります(破産法5条1項・2項)。また、親子会社や連結子会社、大規模事件については管轄の特例があります(破産法5条3~9項)。これらの破産事件の管轄は専属管轄とされます(破産法6条)。

また、これらの管轄の判断の基準時は、破産手続開始の申立て時とされています。管轄裁判所を間違えていた場合には、申立てを受けた裁判所によって移送の決定がなされます(破産法7条)

破産事件の裁判管轄

破産手続を開始してもらうためには、裁判所に対して破産手続開始の申立てをしなければなりません。

破産手続開始の申立ては、どこの裁判所にしてもよいものではありません。破産事件について裁判管轄のある裁判所に対して申立てをする必要があります。

裁判管轄とは、各裁判所間での裁判権の分担に関する定めのことをいいます。破産手続開始の申立ては、この裁判管轄に従って、破産事件について裁判権を有する管轄裁判所に対して行う必要があるのです。

破産事件の裁判管轄については、破産法によって定められています。

裁判管轄には、事物管轄と土地管轄とがあります。事物管轄とは、事件の性質・内容に応じて定められる裁判管轄のことをいい、土地管轄とは、裁判所の所在地に応じて定められる裁判管轄のことをいいます。

破産手続開始の申立ては、この事物管轄と土地管轄の両方を満たす裁判所に申立てをする必要があるのです。

破産事件の事物管轄

破産法 第5条

  • 第1項 破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
  • 第2項 前項の規定による管轄裁判所がないときは、破産事件は、債務者の財産の所在地(債権については、裁判上の請求をすることができる地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
  • 第3項 前二項の規定にかかわらず、法人が株式会社の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き、会社法(平成17年法律第86号)第897条第3項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。次項、第83条第2項第2号及び第3項並びに第161条第2項第2号イ及びロにおいて同じ。)の過半数を有する場合には、当該法人(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「親法人」という。)について破産事件、再生事件又は更生事件(以下この条において「破産事件等」という。)が係属しているときにおける当該株式会社(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「子株式会社」という。)についての破産手続開始の申立ては、親法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、子株式会社について破産事件等が係属しているときにおける親法人についての破産手続開始の申立ては、子株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
  • 第4項 子株式会社又は親法人及び子株式会社が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には、当該他の株式会社を当該親法人の子株式会社とみなして、前項の規定を適用する。
  • 第5項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、株式会社が最終事業年度について会社法第444条の規定により当該株式会社及び他の法人に係る連結計算書類(同条第1項に規定する連結計算書類をいう。)を作成し、かつ、当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合には、当該株式会社について破産事件等が係属しているときにおける当該他の法人についての破産手続開始の申立ては、当該株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、当該他の法人について破産事件等が係属しているときにおける当該株式会社についての破産手続開始の申立ては、当該他の法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
  • 第6項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては、当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ、法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては、当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
  • 第7項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる者のうちいずれか一人について破産事件が係属しているときは、それぞれ当該各号に掲げる他の者についての破産手続開始の申立ては、当該破産事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
  • 第1号 相互に連帯債務者の関係にある個人
  • 第2号 相互に主たる債務者と保証人の関係にある個人
  • 第3号 夫婦
  • 第8項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が500人以上であるときは、これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
  • 第9項 第1項及び第2項の規定にかかわらず、前項に規定する債権者の数が1000人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも、破産手続開始の申立てをすることができる。
  • 第10項 前各項の規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは、破産事件は、先に破産手続開始の申立てがあった地方裁判所が管轄する。

前記のとおり、破産手続開始の申立ては、破産事件の裁判管轄のある管轄裁判所に対して行う必要があります。この裁判管轄には、事物管轄と土地管轄があります。

このうち、事物管轄については、破産事件の場合、地方裁判所にあるとされています(破産法5条)。

したがって、破産手続開始の申立てをするのは、簡易裁判所でも家庭裁判所でも高等裁判所でも最高裁判所でもなく、地方裁判所であるということになります。

破産事件の土地管轄

前記のとおり、破産手続開始の申立ては、地方裁判所に対して行う必要があります。

もっとも、地方裁判所であればどこでもよいわけでありません。土地管轄のある地方裁判所に申立てをしなければなりません。

会社など法人破産の場合

民事訴訟法 第4条

  • 第4項 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。

法人の破産手続開始の申立てについては、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に申立てをするのが原則です(破産法5条1項)。

例えば、東京都千代田区に主たる営業所がある法人・会社の場合は、東京地方裁判所本庁に対して破産手続開始の申立てをしなければならないということです。

外国に主たる営業所がある法人の場合は、日本国内における主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所に土地管轄があります(破産法5条1項)。

また、営業所が無い場合は、普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄することになっています(破産法5条1項)。

営業所のない法人の普通裁判籍は、代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まります(民事訴訟法4条4項)。

つまり、営業所のない法人の破産手続開始の申立ては、代表者その他主たる業務担当者の住所地を管轄する地方裁判所に土地管轄があるということです。

なお、上記のいずれにも該当しない場合には、債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所に土地管轄があるとされています(破産法5条2項)。

債務者の財産が売掛金などの債権である場合は、その債権の第三債務者の普通裁判籍(第三債務者が個人であればその個人の住所地、法人であれば主たる営業所の所在地等)を管轄する地方裁判所に土地管轄があることになります。

個人(自然人)破産の場合

債務者が個人(自然人)の場合は、個人事業者(自営業者)かそうでないかによって異なります。

債務者が個人事業者の場合には、法人破産の場合と同じく、主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所です。営業所がない場合は、その個人の住所地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となります。

債務者が非事業者(消費者)の場合は、住所地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所です。

なお、上記のいずれにも該当しない場合には、債務者の財産の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所となります。

親子会社・連結子会社の特例

前記のとおり、会社など法人破産手続開始の申立ては、その法人・会社の主たる営業所の所在地などを管轄する裁判所に土地管轄があるのが原則です。

もっとも、親子関係にある法人・会社については、管轄の特例が認められています。

すなわち、ある法人・会社(親法人・親会社)が別の会社である株式会社(子会社)の総株主の議決権の過半数を有する場合、親法人・親会社または子会社について破産事件・再生事件または更生事件(破産事件等)が係属しているときは、他方の親法人・親会社または子会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条3項)。

子会社(または子会社と親会社)が他の株式会社(いわゆる孫会社)の総株主の議決権の過半数を有する場合も、その孫会社を親会社の子会社とみなし、すでに親会社または孫会社について破産事件等が係属しているときは、他方の親法人・親会社または孫会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条4項)。

例えば、東京都に本店営業所があるA社が大阪府に本店営業所があるB社の総株主の議決権の過半数を有する場合に、B社の破産事件が大阪地方裁判所に係属しているときは、A社も大阪地方裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることができるということです。

また、会計監査人設置会社がその最終事業年度についてその株式会社(親会社)と他の法人・会社(連結子会社)に関する連結計算書類を作成し、かつ、親会社の定時株主総会においてその内容が報告される関係にある場合、親会社または連結子会社について破産事件等が係属しているときは、他方の親会社または連結子会社も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条5項)。

法人とその代表者についての特例

会社などの法人が破産する場合、その法人・会社の債務の連帯保証人になっているなどの理由から、法人・会社の破産手続開始申立てに伴って、またはその後に、その法人・会社の代表者も破産手続開始の申立てを行うというがあります。

この法人とその代表者についても、管轄の特例があります。

すなわち、法人・会社またはその代表者のどちらかについて破産事件等が係属している場合、他方の法人・会社またはその代表者も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条6項)。

例えば、東京都に本店営業所のあるA法人の代表者が大阪府に住所のあるBであった場合、すでにA法人の破産事件が東京地方裁判所に係属しているときは、Bも東京地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるということです。

個人破産の場合における特例

個人破産の場合にも、土地管轄の特例があります。

具体的に言うと、以下の場合には、どちらかについて破産事件等が係属している場合、他方も、すでに破産事件等が係属している地方裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとされています(破産法5条7項)

個人破産の場合の特例が認められる場合
  • 相互に連帯債務者の関係にある場合
  • 相互に主たる債務者と保証人の関係にある場合
  • 夫婦

例えば、夫がすでに東京地方裁判所で破産手続を進めている場合、妻は、仮に本来の土地管轄が大阪地方裁判所であったとしても、東京地方裁判所に破産手続開始を申し立てることができます。

大規模事件の特例

会社などの法人破産においては、破産債権者の数が数百人以上という場合があり得ます。

そうなると、当然、裁判所が対応すべき事務も膨大になりますから、一定の人的・物的規模を持つ裁判所でなければ、事件に対応することができないおそれがあります。

そこで、大規模事件についても管轄の特例があります。

すなわち、破産債権者となるべき債権者数が500人以上(法人の場合は1社を1人とカウントします。)いる場合には、これまでに述べてきた管轄裁判所だけでなく、その管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも破産手続開始の申立てをすることができるとされています(破産法5条8項)。

さらに、破産債権者となるべき債権者数が1000人以上になると、上記のほか、東京地方裁判所本庁または大阪地方裁判所本庁にも破産手続開始の申立てをすることができるとされています(破産法5条9項)。

例えば、福井県に本店営業所のあるA社について破産債権者となるべき債権者数が1000人以上いる場合、A社の破産手続開始の申立ては、本店営業所の所在地を管轄する「福井地方裁判所」、福井地方裁判所の所在地を管轄する名古屋高等裁判所の所在地を管轄する「名古屋地方裁判所」、「東京地方裁判所」および「大阪地方裁判所」のいずれかを選択して行うことができるということです。

なお、上記事例のように破産手続開始の申立ての管轄が複数ある場合には、先に破産手続開始の申立てがされた裁判所が当該破産事件を管轄することになります(破産法5条10項)。

専属管轄であること

破産法 第6条

  • この法律に規定する裁判所の管轄は、専属とする。

これまで述べてきた法人・会社が破産事件の管轄は、専属管轄です(破産法6条)。

専属管轄とは、公益的な理由等から、特定の裁判所にのみ管轄が認められる場合のことをいいます。つまり、専属管轄の場合、法律で定められたとおりの裁判管轄しか認められないということです。

専属管轄の場合は、合意管轄や応訴管轄は認められません。

したがって、例えば、債権者との間で破産した場合の管轄は●●裁判所とすると合意していたとしても、破産法で定められた管轄と異なる裁判所に破産手続開始を申し立てることはできません。

法定の管轄と異なる裁判所に破産手続開始の申立てをしたとしても、その申立ては、管轄違いとして、法定の管轄がある裁判所に移送されることになります。

なお、破産手続開始の申立ての法定の裁判管轄は、1つとは限りません。事件の内容によっては、複数の地方裁判所に法定管轄が生じ、いずれかを選択して申し立てることが可能な場合があります。

この場合には、破産手続開始の申立てがされた裁判所にのみ管轄権が生じることになります。

管轄の判断基準時

破産法 第13条

  • 破産手続等に関しては、特別の定めがある場合を除き、民事訴訟法の規定を準用する。

民事訴訟法 第15条

  • 裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。

前記のとおり、破産事件の裁判管轄は、破産法によって定められており、当事者間の合意等によってもこれを変更することはできません。

もっとも、主たる営業所の所在地などは、営業所の移転等の理由から、時期によって異なる場合もあります。

そこで、破産事件の管轄を決めるための判断を、どの時点ですべきなのかという問題が生じます。管轄の判断の基準時の問題です。

民事訴訟法においては、裁判所の管轄は訴え提起の時点を判断の基準時としています(民事訴訟法15条)。

破産法は、特別の定めがある場合を除いて、この民事訴訟法の規定を重用するものとされています(破産法13条)。

そこで、破産事件の管轄の判断基準時は、破産事件における訴えの提起といえる破産手続開始の申立ての時点を基準時とするものとされています(破産法13条、民事訴訟法15条)。

例えば、支払停止時には大阪府に主たる営業所があったとしても、破産手続開始の申立て時点で主たる営業所が東京都に移転していたのであれば、破産手続開始の申立ての管轄裁判所は東京地方裁判所になる、ということです。

管轄裁判所を間違えた場合

破産法 第7条

  • 裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、破産事件(破産事件の債務者又は破産者による免責許可の申立てがある場合にあっては、破産事件及び当該免責許可の申立てに係る事件)を次に掲げる地方裁判所のいずれかに移送することができる。
  • 第1号 債務者の主たる営業所又は事務所以外の営業所又は事務所の所在地を管轄する地方裁判所
  • 第2号 債務者の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所
  • 第3号 第5条第2項に規定する地方裁判所
  • 第4号 次のイからハまでのいずれかに掲げる地方裁判所
     第5条第3項から第7項までに規定する地方裁判所
     破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者(破産手続開始の決定後にあっては、破産債権者。ハにおいて同じ。)の数が500人以上であるときは、第5条第8項に規定する地方裁判所
     ロに規定する債権者の数が1000以上であるときは、第5条第9項に規定する地方裁判所
  • 第5号 第5条第3項から第9項までの規定によりこれらの規定に規定する地方裁判所に破産事件が係属しているときは、同条第1項又は第2項に規定する地方裁判所

破産手続開始の申立てをすべき管轄裁判所を間違えてしまった場合、申立てを受けた裁判所は、著しい損害または遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、正しい管轄裁判所に対して事件を移送する決定をします(破産法7条)。

移送決定がなされた場合、移送先の裁判所が破産事件を進めていくことになります。

もっとも、実務では、移送決定をするのではなく、裁判所から申立ての取下げ(または撤回)を促され、それに従って申立てを取下げ(または撤回)し、あらためて正しい管轄裁判所に再度申立てをするというのが一般的かと思われます。

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