
法人・会社の破産と個人(自然人)の破産の最大の違いは、法人・会社の破産の場合にはその法人・会社は消滅するのに対し、個人の場合には破産してもその個人が消滅することはないという点です。
そのため、個人破産の場合は、破産後の生活を考慮して免責制度や自由財産制度などが設けられていますが、法人破産にはそのような制度は存在しません。また、手続の運用は、個人破産に比べ、法人・会社の破産の場合の方がかなり厳格に運用されています。
法人破産と個人破産の基本的な異同
破産法に基づく破産手続は、会社などの法人だけではなく、個人(自然人)でも利用できます。法人であれ個人であれ、負債清算のための最後の手段は、やはりこの破産手続という方法になるでしょう。
破産法上、手続に関しては、法人が利用する場合と個人が利用する場合とで区別されていません。法人の破産手続も個人の破産手続も、手続それ自体には違いがないということです。
もっとも、法人が破産すると、その法人は消滅します。これに対し、個人の場合には、破産したからといってその個人が消滅するわけではありません。破産した後も生きていかなければなりません。
この「破産すると法人は消滅するが、個人は破産しても消滅しない」ということは、以下に述べるとおり、法人破産と個人破産との間に大きな違いを生じさせています。
また、法人・会社には、金融機関だけでなく、買掛先・取引先・顧客さらには従業員などさまざま利害関係人がおり、さらに保有財産にもさまざまなものがあります。
それだけに、法人・会社の場合には、個人の場合よりも法律関係が非常に複雑な場合が少なくありません。その点も、法人・会社の破産と個人の破産の手続に違いを生じさせてきます。
免責手続の有無における違い
破産手続は、裁判所から選任された破産管財人によって破産者の財産が管理・換価処分され、それによって得た金銭を債権者に弁済または配当していくという手続です。
破産手続は、上記のように、あくまで破産者の財産関係等の清算を目的とする制度です。それでも支払いきれなかった債務をどうするのかということは、破産手続それ自体では何らのケアもされていません。
ただし、会社などの法人の破産の場合であれば、破産によってその法人は消滅します。
破産者の財産を清算した金銭を弁済または配当したものの債務を支払いきれなかったとしても、法人の消滅により債務の主体がいなくなるので、支払いきれなかった分の債務も消滅します。
ところが、個人破産の場合には、破産をしてもその個人が消滅するわけではありません。つまり、破産手続において支払いきれなかった債務は、破産手続が終わった後も残ってしまいます。
破産をしたのに債務だけは残っているというのでは、破産法の目的である債務者の経済的更生の趣旨に反します。そこで、破産法では、個人の破産について「免責」という制度を設けられています。
免責とは、借金など債務の支払義務を免除させるという制度です。裁判所によって免責が許可されると、破産者である個人は、破産手続によって支払いきれなかった債務を支払わなくてもよいことになるのです。
このように、法人・会社の破産の場合には、破産によってすべての債務が消滅するため免責制度はありませんが、個人の破産の場合には、破産手続とは別途、免責手続が必要となるという違いがあります。
そして、免責制度がないのですから、法人・会社の破産の場合には、免責不許可事由や非免責債権といった制度も無いということになります。
法人破産の場合に免責制度がないのは、破産によって債務も消滅するため免責する必要がないからであって、法人破産をしても債務を免れることができないということではありません。
財産・資産の処分における違い
前記のとおり、破産手続は、破産者の財産を換価処分して債権者への配当等に充てることを目的とする手続ですから、基本的には、破産者の財産をすべて処分することになります。
特に、会社などの法人の破産の場合、破産の結果、その法人・会社は消滅してしまうのですから、財産を残しておくわけにはいきません。
したがって、よほどの事情がない限り、法人・会社の資産・財産はすべて処分されることになります。
他方、個人の破産の場合には、破産後も生活をしていかなければなりません。すべての資産・財産を処分してしまうと、破産手続後の個人生活を阻害してしまいます。
そこで、個人の破産においては、生活に必要最小限の財産は処分しなくてもよいという制度が設けられています。これを「自由財産」制度といいます。
このように、法人・会社の破産においてはすべての財産・資産が処分されますが、個人の破産においては処分しなくてもよい自由財産が認められているという違いがあります。
手続の運用における違い
破産手続には、原則型である管財事件と例外型である同時廃止事件と呼ばれる手続の種類があります。
管財事件では、裁判所から破産管財人が選任され、破産者の財産・債務の調査・管理・換価処分を行うことになります。
これに対し、同時廃止事件の場合には、破産管財人は選任されず、簡易・迅速に破産手続が終結することになります。
前記のとおり、法人・会社は、前記のとおり、個人の場合に比べて、非常に複雑かつ多岐にわたる財産や法律関係が存在する場合があります。
そのため、何らの調査も行わずに手続を終結させると、不公正な事態が発生するおそれがあります。
そこで、法人・会社の破産においては、原則として、破産管財人による調査が行われる管財事件として扱われることになります。同時廃止事件となることは、ほとんどないといってよいでしょう。
他方、個人破産の場合には、もちろん管財事件が原則ではありますが、同時廃止事件として処理されることも少なくありません。
また、同じ管財事件であっても、調査事項が多岐にわたり、詳細な調査が必要となる法人・会社の破産の場合の方が、個人破産の場合よりも、かなり厳格な手続の運用がなされています。
費用における違い
前記のとおり、会社などの法人の破産事件の場合には、管財事件となるのが通常です。管財事件の場合には、同時廃止事件と異なり、裁判手数料や官報公告費だけではなく、引継予納金の納付が必要となってきます。
引継予納金の金額は、その事件の内容に異なりますが、中小企業の場合には、少額管財といって、引継予納金の金額が少額で済むという運用がなされている裁判所もあります。
東京地方裁判所や大阪地方裁判所など多くの裁判所では、少額管財の引継予納金は最低20万円とされています。ただし、不動産明渡し費用などが必要となる場合には、増額されることがあります。
また、弁護士報酬も、個人の破産の場合に比べて作業量や手間のかかる法人・会社の破産申立ての方が、個人破産よりも高額となるのが通常です。
つまり、法人・会社の破産の場合には、個人破産の場合よりも、裁判所費用・弁護士費用も含めて、自己破産申立てのための費用が大きくなるという違いがあります。