この記事にはPR広告が含まれています。

交通事故の加害者に科される刑事責任(刑罰)とは?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

交通事故(民事)の画像
point

交通事故の加害者は、法律上、刑事責任を科される場合があります。刑事責任とは、犯罪として刑罰を科されるということです。

加害者の負う刑事責任

交通事故の加害者は、さまざまな法的責任を負うことになります。具体的には、刑事責任、行政上の責任、民事責任があります。

民事責任とは、損害賠償責任です。被害者に対して、交通事故によって被った被害を填補するために損害賠償をしなければならないという法的責任です。

また、公益的な見地から、自動車運転免許の取り消しなどの行政上の責任を課される場合もあります。

そして、この行政上の責任と同様に、公益的な見地から加害者に対して科される法的責任として、「刑事責任」があります。端的にいうと、刑事責任とは、犯罪として刑罰を科されるということです。

以下では、人身事故と物損事故に分けて、交通事故の刑事責任について説明します。

人身事故の場合の刑事責任

人身事故には、被害者が傷害を負った場合と被害者が亡くなられた場合とがあります。さらに、傷害といっても、その程度はさまざまでしょう。

軽微な傷害もあれば、生命侵害に比肩するような重度の傷害もありますし、また、後遺障害が残るような傷害というものもあります。

いずれにしても、人の生命や身体という最も尊重されるべきものを侵害しているのですから、その被害は小さくありません。そのため、物損事故よりも重い刑事責任が科されることになります。

特に、自動車事故に関しては、厳罰化の傾向があります。そのため、特別刑法である「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)」によって処罰されます。

過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第5条

  • 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

自動車事故の場合、被害結果が傷害であれば過失運転傷害罪が、被害結果が死亡であれば過失運転致死罪(併せて「過失運転致死傷罪」といいます。)が科されるのが通常です(自動車運転死傷処罰法5条)。

自動車事故の場合、かつては刑法上の業務上過失致死傷が適用されていましたが、悪質な自動車事故に対して厳罰を科すため、自動車運転過失致死傷罪が刑法において新設されました。

さらに、その後、刑法の特別法として自動車運転死傷処罰法が新設されて過失運転致死傷罪が設けられるに至りました。

過失運転致死傷罪の場合、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金が科されることになります。

危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条以下)

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第2条

  • 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期拘禁刑に処する。
  • 第1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
  • 第2号 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
  • 第3号 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
  • 第4号 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  • 第5号 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
  • 第6号 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和32年法律第79号)第4条第1項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和27年法律第180号)第48条の4に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
  • 第7号 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  • 第8号 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

自動車運転による交通事故のうちでも、特にその内容が悪質なものについては、過失運転致死傷罪ではなく、より重い危険運転致死傷罪という刑罰が科されることになります(自動車運転死傷処罰法2条)。

具体的に言うと、正常な運転が困難なほどの飲酒運転、薬物使用運転、高速運転、技能不足状態での運転、信号無視などの場合に、この危険運転致死傷罪が適用されることとになります。

危険運転傷害罪の場合には1か月以上15年以下の懲役が科され、危険運転致死罪の場合には1年以上20年以下の懲役が科されることになります。

なお、飲酒運転については、酩酊の程度が正常な運転が困難な程度ではない場合でも、人を負傷させた場合には1月以上12年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1か月以上15年以下の懲役に処せられます(自動車運転死傷処罰法3条)。

また、飲酒していたことを隠そうとした場合には、別途1か月以上12年以下の懲役に処せられることがあります(自動車運転処罰死傷法4条)。

業務上過失致死傷罪等(刑法211条)

刑法 第211条

  • 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

前記のとおり、自動車事故については自動車運転処罰法がメインとなりますが、自動車事故以外の交通事故については、刑法上の業務上過失致死傷罪の適用がなされます(刑法211条前段)。

業務上過失致死傷罪の場合、1か月以上5年以下の懲役もしくは禁錮か、または100万円以下の罰金が科されることになります。

業務上過失致死傷罪に当てはまらないものの、通常の場合よりも過失の程度が重大であるような場合には、重過失致死傷罪(刑法211条後段)が適用されるという場合もあります。近時は、自転車などの交通事故において適用されることが多くなっているようです。

その他の刑罰

前記の各刑罰はあくまで過失による交通事故の場合です。加害者に故意があれば、殺人罪(刑法199条)や傷害罪(刑法204条)ということになるでしょう。

また、刑法犯以外にも、無免許運転、自賠責保険に加入していない場合、車検を通していない場合、事故後に救護義務に違反した場合、飲酒運転の場合などには、道路交通法違反によって刑罰を科されることもあります。

物損事故の場合の刑事責任

物損事故の場合にも、被害者の財産権を侵害していることは間違いありませんから、刑罰を科されることがあります。

財産に対する侵害というと器物損壊罪(刑法261条)という犯罪がありますが、この器物損壊罪には過失犯がありません。つまり、過失で他人の財物を壊したりしたとしても、器物損壊罪を科されることはありません。

したがって、物損事故の場合に器物損壊罪が成立するのは、事故が故意によるものであった場合に限られます。

ただし、過失であっても、自動車などの運転によって損壊した物が建造物などであった場合には、過失運転建造物損壊罪(道路交通法116条)の刑事責任を問われることはあります。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になりましたら幸いです。

弁護士に依頼するメリット

「交通事故の損害賠償請求は弁護士に頼んだ方がいいの?」
とお悩みの方は少なくないでしょう。

実は、交通事故の損害賠償額には、保険会社の基準と裁判基準(弁護士基準とも呼ばれます。)があります。保険会社の基準は、裁判基準よりもかなり低額に抑えられています。

そのため、自分で保険会社と示談交渉する場合よりも、弁護士に依頼して裁判基準で示談交渉または訴訟をしてもらう方が、損害賠償額が高額になる可能性が高いのです。弁護士に依頼する一番のメリットは、その点にあります。

特に、自動車保険に弁護士特約を付けてある場合には、弁護士費用を保険金で支払うことが可能です。そのため、自己負担がほとんどないまま、弁護士に依頼することができます。弁護士特約がある場合には、間違いなく弁護士に依頼すべきです

北千住いわき法律事務所
・被害者の相談無料
・メール相談可・土日祝日対応可
・着手金無料(完全成功報酬・費用の後払い可能)
・損害賠償額が増額しない場合は弁護士報酬0円
・弁護士特約の利用可能
・所在地:東京都足立区

やよい共同法律事務所
・相談無料
・全国対応・メール相談可
・着手金無料(完全成功報酬型)
・増額できなければ弁護士費用は無料
・弁護士特約の利用可能
・所在地:東京都港区

参考書籍

本サイトでも交通事故損害賠償について解説していますが、より深く知りたい方のために、交通事故損害賠償の参考書籍を紹介します。

民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準
出版:日弁連交通事故相談センター東京支部
通称「赤い本」。交通事故損害賠償請求を扱う弁護士は、ほとんどが持っている必携書。東京地裁の実務を中心に、損害賠償額の算定基準(裁判基準)を解説しています。この本の基準が実務の基準と言ってよいほどに影響力があります。毎年改定されています。

交通事故損害額算定基準 -実務運用と解説-
出版:日弁連交通事故相談センター
通称「青本」。こちらは、赤い本と違って、東京地裁だけでなく、全国の裁判所における裁判例を紹介しています。2年に1回改訂されています。

別冊判例タイムズ38号(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)全訂5版
編集:東京地裁民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
こちらも実務必携と言われる書籍。交通事故では過失相殺がよく問題となりますが、その過失相殺率の認定基準を解説する実務書です。東京地裁の裁判官が中心となって執筆されている本ですが、この本の認定基準が全国的な実務の基本的な認定基準となっています。

大阪地裁における交通損害賠償額の算定基準
編集:大阪民事交通訴訟研究会 出版:判例タイムズ社
大阪地裁交通部(第15民事部)の裁判官による大阪地裁における交通事故損害賠償額算定基準を解説する実務書。大阪地裁で交通事故訴訟をする場合には必携です。(※なお、大阪弁護士会交通事故委員会による「交通事故損害賠償算定のしおり(通称、緑の本)」とは異なります。こちらは、裁判官執筆の本です。)

注解交通損害賠償算定基準(新版)
著者:高野真人ほか 出版:ぎょうせい
赤い本や青本の解説書。実務書の解説書という珍しい本ですが、赤い本や青本はどちらかと言うと資料集的な実務書であるため、詳細な理由付けなどが説明されていない部分もあります。本書は、そこを解説しています。赤い本や青本とセットで持っていると便利です。

交通事故損害賠償法(第3版)
編集:北河隆之 出版:弘文堂
交通事故損害賠償に関する法律の体系書。実務マニュアル的なものではなく、理論的な面の解説も体系的にまとめられており、交通事故損害賠償の基本書といった感じの本です。

タイトルとURLをコピーしました