責任無能力者の監督義務者等の責任とは?

不法行為の画像

未成年者等,加害行為者が責任無能力者であった場合,その責任無能力者の監督義務者が損害賠償責任を負担する場合があります。「責任無能力者の監督義務者等の責任」と呼ばれています。

責任無能力者とは

わが国の民法では,不法行為責任が成立する大前提として,その加害行為者に責任能力があることが求められています。

責任能力とは,要するに,不法行為責任を負うことができる能力のことです。具体的には「自己の行為の責任を弁識する能力」と規定されています(民法712条等)。

自分の行為がどのような責任を負わなければならないかを分からなければ,その行為をすることをとどまることができません。

したがって,そのような自己の行為の是非弁別の能力が不足している者に,その行為をしたことの責任を問うべきはないという考え方に基づいています。

そして,この責任能力の無い者のことを「責任無能力者」と呼んでいます。

責任無能力者に該当する者

どのような人が責任無能力者に当たるのかについては,民法によって類型的に定められています。

民法 712条
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

民法 713条
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

上記のとおり,民法上の責任無能力者とされるのは,「未成年者」と「精神上の障害のある者」ということになります。

未成年者とは満18歳未満の者のことをいいますが(民法4条),未成年者だからといって,常に責任無能力者とされるわけではありません。

責任無能力者となる未成年者とは,未成年者のうちでも「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えていない者に限られます。

何歳であれば責任能力があると言えるのかは、ケースバイケースですが、例えば,未成年であっても,すでに17歳くらいになっていれば,基本的には責任無能力者とはいえないでしょう。

また,精神上の障害にある者についても同様です。常に責任無能力者となるわけではなく,「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある」場合に限られます。

ただし,自身の故意・過失によって一時的に自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態になったような場合には,やはり責任無能力者とはされず不法行為責任を負うことになります。例えば,飲酒により酩酊した場合などが挙げられます。

責任無能力者の監督義務者の責任

民法 714条
第1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
第2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

前記のとおり,責任無能力者は不法行為責任を負いません。

したがって,責任無能力者が不法行為を起こしたとしても,被害者の方は,その加害者たる責任無能力者に対して損害賠償を請求できないということになります。

しかし,加害者が責任無能力者であるから損害の填補がまったく受けられないということになると,被害者保護の理念に反します。

そこで,法は,責任無能力者に代わって,その責任無能力者の監督義務者等に損害賠償責任を負担させるとしています。これを「責任無能力者の監督義務者等の責任」と呼んでいます。

したがって,不法行為の加害者が責任無能力者であった場合,その加害者自身に損害賠償を請求することはできませんが,その加害者の監督義務者等に対して損害賠償を請求できるということになります。

監督義務者の責任の要件

監督義務者等の責任が成立するためには,以下の要件が必要となってきます。

  • 加害行為者が責任無能力者であること
  • その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(またはその者に代わって責任無能力者を監督する者)であること
  • 責任無能力者の行為について(責任能力を除いて)不法行為責任が成立しうること
  • 監督義務者等が法定の監督義務を怠らなかった場合またはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであった場合に当たらないこと

責任無能力者の監督義務者等の責任ですから,前提として,まず責任無能力者の行為が対象とされます。

そして,その行為が,責任能力の点を除いて,一般の不法行為の要件を満たしているということが必要となってきます。

また,その責任無能力者の監督義務者の監督義務とは,倫理的・道徳的な意味での監督義務ではなく,法的な監督義務でなければなりません。

この監督義務者の責任を追求する場合,被害者は,その監督義務者に監督義務違反があったことやそれが故意または過失に基づくことなどを立証する必要はありません(もっとも,責任無能力者の加害行為が故意または過失に基づくものであることの立証は必要となります。)。

逆に,監督義務者の方で,監督義務を怠らなかったことまたはその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったことを立証しなければ責任を免れないものとされています。

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