不法行為に基づく損害賠償請求権は相続されるか?

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不法行為に基づく損害賠償請求権が相続されるかについては、否定説・民法711条説・肯定説などの争いがあります。判例・通説は肯定説です。

不法行為に基づく損害賠償請求権の相続

不法行為の加害者は,原則として不法行為責任を負うことになります。他方,被害者は,その加害者に対して不法行為責任の追求として損害賠償を請求する権利を取得します。この権利のことを「不法行為に基づく損害賠償請求権」と呼んでいます。

この不法行為に基づく損害賠償請求権に関しては,被害者本人が亡くなった場合にその損害賠償請求権はどうなるのかという論点があります。例えば、交通事故の死亡事故の場合などです。

ある人が死亡すると,その財産は相続人に相続されることになります。ここでいう財産(遺産)は,物に限られません。死亡した人(被相続人)が有していた権利も相続人に相続されます。

それでは,不法行為に基づいて損害賠償を請求する権利(損害賠償請求権)も相続されるのでしょうか?

上記のとおり,不法行為に基づく損害賠償請求権も権利である以上,相続の対象となるはずです。しかし,ここで問題となることがあります。それは,死亡事故の場合,被害者はすでに死亡しているということです。

被害者は死亡しているのですから,死亡の時点で権利を持っているということ自体を観念することができず,結果として,被害者には死亡による損害賠償請求権が認められないことになり,相続もまた発生しない,というように考えることもできます。

そのため,この不法行為に基づく損害賠償請求権の相続という点が問題となってくるのです。

なお,結論から先に言ってしまうと,実務上,不法行為に基づく損害賠償請求権は相続の対象となるということで争いはありません。あくまで講学上の論点ということです。

損害賠償請求権の相続に関する考え方

不法行為に基づく損害賠償請求権の相続については,講学上,いくつかの考え方があります。

否定説

まず,第1の考え方は,前記のとおり,被害者の方が亡くなっている以上,権利の主体が消滅するので,その亡くなった時点で不法行為に基づく損害賠償請求権も消滅し,相続されることはないという考え方です。

この考え方の根底には,不法行為に基づく損害賠償請求権という権利が,裁判や和解などによって確定するまで,その内容や金額が不確定であるということがあります。

しかし,この考え方によると,不法行為によって重傷を負った後死亡した場合と即死の場合とで不均衡が生じてしまいます。

つまり,重傷後死亡した場合には,重傷を負わされたことによって損害賠償請求権が発生するので,仮に死亡を理由とする損害賠償請求ができないとしても,少なくとも,生きている間に重傷を理由とする損害賠償請求ができることになります。

そして、重症後死亡の場合で死亡前に権利が確定されれば,上記のとおり不確定な権利ではなくなるので,この否定説においても,重傷を理由とした損害賠償請求権は相続の対象となることになります。

ところが,即死の場合には,何らの損害賠償請求もできないまま被害者が亡くなってしまっています。そのため,否定説によると,権利が不確定なままなので,相続の対象とはならないということになります。

重傷後死亡よりも即死の方が違法性は大きいにもかかわらず,即死の場合の方が被害者の保護が薄くなるという点で不均衡・不合理な結論になってしまいます。

民法711条説

そこで,死亡によって権利は発生しないので相続はやはり発生しないが,遺族は,相続ではなく,遺族自身の損害として損害賠償請求権を取得するという考えが生まれました。

民法は711条で近親者固有の慰謝料請求を認めていますが,財産的損害にまで近親者固有の損害賠償請求権を拡大しようという考え方です。この考え方は,遺族等の保護を厚くしようという点で評価できます。

もっとも,この見解によると,遺族等は,被害者が死亡したことによって自分がどのくらいの損害を受けたのか(例えば,被害者が生きていれば毎月一定額の仕送りをもらえたはずだ,など)を立証しなければならないことになります。

現実的に言って,このような間接的な損害の立証はかなり困難ですし,仮に立証したとしても損害賠償額は被害者本人が請求する場合に比べてかなり減額されます。

そのため、やはり重傷後死亡の場合の方が損害賠償の金額の方が大きくなり,即死の場合との不均衡・不合理は残ってしまいます。

肯定説

そこで,現在では,即死の場合であっても,受傷の時から死亡の時までの間には(現実にはコンマ何秒という単位だったとしても)時間的間隔を観念できるので,受傷時点で損害賠償請求権が発生し死亡の時点でそれが相続されると考え,原則として,交通事故における死亡を理由とした損害賠償請求権は相続されるという見解が通説となっています。

最高裁判所の判例も,通説と同じ考え方を採用しています。実務ではもはや定説と言ってよいと思います。

慰謝料請求権の場合

前記のとおり,不法行為に基づく損害賠償請求権は相続されると考えるのが,通説・判例です。

もっとも,慰謝料請求権,つまり精神的損害についての損害賠償請求権については,財産的損害とは異なる考慮が必要であるという見解もあります。

この見解には,財産的損害は客観的に判定できるので,財産的損害の賠償請求誰は誰が有することになっても違いはないけれども,精神的苦痛というものはその苦痛を味わった被害者にしか分からないのであるから,慰謝料請求権は被害者の一身に専属する権利であるという考えが根底にあります。

学説上も,財産的損害賠償請求権については相続を認めるけれども,慰謝料請求権については相続は認められないという見解は,有力な学説といわれています。

しかし,被害者遺族の保護という点からすれば,やはり慰謝料請求権についても相続性を認めるべきでしょう。

通説・判例も,慰謝料請求権についても相続されるとしており,実務上は,慰謝料請求権の相続性を認めるということで争いはないといってよいでしょう。

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