賃貸借契約において目的物を貸す側の当事者を「賃貸人(貸主)」といいます。賃貸人(貸主)は,賃料を支払ってもらう権利がありますが、その反面,さまざまな法的義務を負うことにもなります。
賃貸人(貸主)とは
賃貸借契約は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる契約です。
この賃貸借契約において,目的物を使用収益させる側の当事者のことを「賃貸人」といいます。貸主,大家などと呼ばれる場合もあります。
賃貸人は,賃料を支払ってもらう権利がありますが,その反面,さまざまな法的義務を負うことにもなります。
賃貸借契約における賃貸人の基本的義務としては,目的物を使用収益させる義務,目的物の修繕義務,費用償還義務などが挙げられます。
目的物を使用収益させる義務
前記のとおり,賃貸借契約において,賃貸人は目的物を使用収益させることを約束しなければなりません。したがって,当然,賃貸人は,賃借人に対して,「目的物を使用収益させる義務」を負うことになります。
賃貸借契約は,口頭でも成立する諾成契約です。したがって,賃借人に対して目的物を実際に引き渡さなくても,契約としては成立します。
しかし,目的物の引渡しを受けなければ,賃借人は実際に使用収益することはできません。
そのため,賃貸人には,使用収益義務から派生する義務として,賃借人に対し,「目的物を引き渡す義務」も負っていると解されています。
もっとも,上記のとおり,諾成契約ですので,引渡しは契約成立後でもかまわないということになります。
ただし,引渡しをしてからはじめて賃借人は使用収益できるようになるので,契約成立後引渡しまでの賃料は請求できません。
目的物の修繕義務
前記のとおり,賃貸人は目的物を使用収益させる義務を負っています。そのため,賃貸人は,目的物を賃借人に引き渡す義務を負っています。
しかし,場合によっては,目的物が使用収益できるような状態ではなくなってしまったという場合もあるでしょう。これでは,使用収益させる義務をまっとうしているとはいえません。
そこで,賃貸人は,賃借人によって目的物が使用収益できるよう目的物を修繕しなければならないという義務も負っています。これを「修繕義務」といいます。
もっとも,いかに修繕義務を負っているとはいえ,あらゆる瑕疵や損もうを賃貸人が修繕しなければならないというのでは,賃貸人にかかる負担が大きくなり過ぎます。
とはいえ,賃貸人の修繕義務の範囲を狭めすぎても,今度は逆に賃借人にかかる負担が大きくなってしまいます。
そのため,賃貸人がどの程度の修繕義務を負うかについては,学説上も様々な見解がありますし,裁判例も多様です。
やはり契約段階で,修繕義務の範囲を明確化し,それを書面として残しておく必要があるでしょう。
なお,この修繕義務を免除する特約も有効と解されていますが,経年変化等による通常の損耗まで免除することは,賃借人に過大な負担を負わすことになり許されないとした裁判例もあります。
費用償還義務
前記の修繕義務に関連する義務として,賃貸人には,費用の償還義務もあります。費用とは,必要費と有益費のことをいいます。
必要費とは,目的物を維持保存し,管理するために必要となる費用のことをいいます。他方,有益費とは,目的物の価値を増加させるために支出した費用のことをいいます。
賃借人が,この必要費や有益費を支出した場合,賃貸人に対してその必要費や有益費を償還(つまり支払うように)請求できるます。
したがって,この場合,賃貸人は,これら必要費や有益費を償還しなければならない義務を負うことになります。これが,費用償還義務です。
この必要費については,修繕義務の範囲と関連してきます。賃借人が必要費を請求できるのは,賃貸人が修繕義務を負っている修繕について賃借人が費用を支出した場合です。
したがって,契約で賃借人が修繕しなければならないと定めていた破損等について賃借人が費用を支出したとしても,それを必要費として償還請求することはできないということになります。
また,賃貸人と賃借人のいずれが,どのような費用支出について責任を負うかは,特約で定めることができると解されています。
契約責任
前記の使用収益させる義務,修繕義務,費用償還義務を賃貸人が怠った場合には,他の契約と同様,債務不履行責任を負担することになります。
また,賃貸借契約は有償契約です。そのため,賃貸人は担保責任を負う場合もあります。
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