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賃貸借契約の解除における信頼関係の破壊(背信性)はどのように判断するのか?

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

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賃貸借契約を解除するには,信頼関係破壊の理論によって,「信頼関係の破壊(背信行為)と認めるに足りない特段の事情」が必要です。

信頼関係破壊の理論(背信行為論)とは

賃貸借契約が解除されれば,賃貸借契約はそれ以降は無かったことになります。つまり,賃貸借契約は終了します。

賃貸人賃借人との間の合意によって解除(解約)することは自由です。

しかし,賃貸人が,賃借人の約定違反、債務不履行、賃借物件の無断転貸・無断賃借権譲渡などを理由として賃貸借契約を解除することは,簡単ではありません。

賃貸借契約のような当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約においては,信頼関係破壊の理論(背信行為論)が適用されるからです。

信頼関係破壊の理論(背信行為論)とは,当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約については,単に法律で定められている要件を満たしただけは解除はできず,当事者間の信頼関係を破壊したといえるほどの契約違反がなければ解除ができないという法理論です。

最高裁判所の判例でも信頼関係破壊の理論は採用されています。判例によれば,「信頼関係の破壊(背信行為)と認めるに足りない特段の事情」がある場合には,賃貸借契約を法定解除ができないとされています。

人的信頼関係の考慮の必要性

信頼関係破壊の法理(背信行為論)の判断基準は、「信頼関係の破壊(背信行為)と認めるに足りない特段の事情」があるか否かです。この特段の事情がある場合、賃貸借契約を解除できません。

非常に抽象的な基準であるため,その判断のためにどのような要素を考慮しなければならないのかということが問題となってきます。

この点について第一に問題となるのは,背信性の判断において,人的信頼の侵害があるかどうかを判断すべきか,それとも,人的信頼の侵害は考慮せずに賃貸人の経済的な利益の侵害があるかどうかだけ判断すべきかという点です。

たしかに,人的信頼の侵害の有無を考慮すると,主観的な要素が入り込んでしまうという懸念はあります。

しかし,「信頼関係」破壊の理論というくらいですから,その信頼関係の中に人的な要素がまったく含まれないと考えるのは難しいでしょう。

そのため,信頼関係が破壊されているかどうかの判断には,義理人情のようなものは排除されるとしても,やはり一定の人的信頼関係が侵害されたかどうかという要素も考慮しなければならないでしょう。

つまり,人的信頼関係も含めて,賃借人が賃貸借契約の継続を期待できないような行為をしたのかどうかを,具体的な事情に応じて総合的に判断する必要があるということです。

信頼関係破壊の理論(背信行為論)の判断要素

信頼関係が破壊されているかどうかは,前記のとおり,人的信頼関係も含めて各種の具体的な事情を総合的に考慮して判断するほかありません。

例えば,以下のような要素を考慮する必要があるでしょう。

背信性を判断するための考慮要素
  • 賃貸借の目的物(借地か借家か等)
  • 賃貸借の使用目的(居住用か事業用か等)
  • 賃貸人・賃借人・転借人等利害関係人の人間関係(家族関係か他人か等)
  • 賃借物の利用状況(現状のままか変更されたか等)
  • 賃貸人の被る不利益の有無・程度
  • 賃貸借解除に至った経緯

もちろん,考慮すべき事情はこれだけに限られるわけではありません。個別の事情によっては,さらに考慮しなければならない事情もあるでしょう。

また,解除原因が,無断転貸・無断譲渡なのか,家賃等賃料の不払いなのか,用法義務違反なのか,などによっても,考慮すべき要素は変わってきます。

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
この記事が参考になれば幸いです。

参考書籍

本サイトでも民法について解説していますが、より深く知りたい方や資格試験勉強中の方のために、民法の参考書籍を紹介します。

債権各論 中巻1(民法講義Ⅴ2)
著者:我妻榮 出版:岩波書店
民法の神様が書いた古典的名著。古い本なので、実務や受験にすぐ使えるわけではありませんが、民法を勉強するのであれば、いつかは必ず読んでおいた方がよい本です。ちなみに、我妻先生の著書として、入門書である民法案内13ダットサン民法2 債権法(第4版)などもありますが、いずれも良著です。

我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権(第8版)
著書:我妻榮ほか 出版:日本評論社
財産法についての逐条解説書。現在も改訂されています。家族法がないのが残念ですが、1冊で財産法全体についてかなりカバーできます。辞書代わりに持っていると便利です。

新注釈民法(13) 債権(6):587~622条の2
著者:森田宏樹ほか 出版:有斐閣
民法全体の逐条解説書。全20巻!民法について知りたいことは、ほとんど解説されています。実務家向けの辞書です。

契約違反と信頼関係の破壊による建物賃貸借契約の解除 -違反類型別賃貸人の判断のポイント-
編集:弁護士法人御堂筋法律事務所 出版:新日本法規出版
建物賃貸借契約に限定されていますが、信頼関係破壊の理論について裁判例をもとに契約違反事由ごとに解説されている実務書。建物賃貸借契約以外でも参考になります。

司法試験・予備試験など資格試験向けの参考書籍としては、以下のものがあります。

民法(全)(第3版補訂版)
著者:潮見佳男 出版:有斐閣
1冊で民法総則から家族法まで収録されています。基本書というより入門書に近いでしょう。民法全体を把握するのにはちょうど良い本です。

基本講義債権各論I 契約法・事務管理・不当利得(第4版補訂版)
著者:潮見佳男ほか  出版:有斐閣
債権各論(不法行為を除く)の基本書。初学者向けのため、基礎的なところから書かれています。どちらかと言うと入門書ですが、資格試験の基本書としても使えます。

債権各論 (伊藤真試験対策講座4)(第4版) 
著者:伊藤真 出版:弘文堂
いわゆる予備校本。予備校本だけあって、実際の出題傾向に沿って内容が絞られており、分かりやすくまとまっています。民法は範囲が膨大なので、学習のスタートは、予備校本から始めてもよいのではないでしょうか。

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